幾千ものループの先.3
「では、聞かせて頂こう。第一王子クラリスを殺したのは誰だ!」
「あなたが一番知っているのではなくって? 犯人は……国王陛下、あなたよ」
王室の貴族達が、一同動揺しさわずかせている。エミアお嬢様が指を突きつけて、国王陛下に睨みを効かせているが動じていないのも王の威厳なのかもしれない。
お嬢様も前日に事の内容を理解しているので、とりあえずはどうにかなりそうだ。これで上手いこと釣れればよいけれど……。
国王陛下とて、バカではないはず。
僕がサポートに徹しよう。
「的外れだな。この者共を処刑せよ!」
「ーーあなたは共犯ね。来ているのでしょう、グローリー・ケレン!」
「ハッ……ハッ……何だ、エミアは、許さん! 性奴隷に、してやる」
「あの、お嬢様」
「何、執事」
「キモいので処分してよろしいでしょうか?」
「まだダメよ。後にして」
この状況に国王陛下は、うろたえている様子だった。
出てくる筈もない言葉【共犯】って言葉に食いついたのだろう。そう言えるだけの根拠を持っている。そう解釈するのが自然だからね。
態度が著しく豹変した国王陛下だけど、ムキになってお嬢様を巻くし立て始めたんだ。見苦しな、さっさと白状してくれれば楽なのにね。
「何が共犯だ馬鹿馬鹿しい。有りもしない妄想をひけらかしよって! どうせ、根拠もないのだろう?」
「無い訳ないでしょ? だって、元からグルだったじゃない。他国の使者であるグローリー家と同盟を組もうとしていたのだから」
「何がいけない。政治的同盟だ」
「いいえ、違うわ。あなたが結んだ……。いや、結べ無かった同盟は武器の横流しのことでしょう。戦争でも始めようとしてましたか?」
「ーー!? どこでその情報を知ったんだ!」
一番の自白に近い言葉を平然と吐く国王陛下は愚かですね。
もうギブアップですかね。意外と早かったな。
こりゃ、僕の出番は入りそうにないけれど、エミアお嬢様のご活躍を堪能しておきたいのもまた一興でございます。
トドメの一撃を与えて上げて下さい。
「この同盟を白紙にした人物がいました。それは第一王子クラリスです。武器の横流しなんて、政治に疎いあの第一王子でも許せるはずがない」
「クラリスは、この同盟に関係がない。どこにそんな証拠がある!」
「ありますよ、これが第一王子クラリスが作った血判状です。他国で大事に保管されていましたよ」
「どこからそれを持って来たぁー!」
「同盟先の他国だと言ったでしょう。聞いてませんでしたか? それともう一つ、第一王子クラリス殺しは私に罪を着せるのが都合がよかった。それは、私が他国の貴族と婚約しないのが原因なのでしょう。政治的に困りますのね、これで終わりですよ国王陛下。あなたがクラリスを殺したんです」
国王陛下は、お嬢様に言い負かされて腰を抜かしていましたね。気持ちのいいトドメとなったのではないでしょうか。
これで丸く収まる。
そう思ったのですが、国王陛下は完全に開き直りやがってまたもやお嬢様を汚い舌で捲し立てる。
諦めが悪いおっさんは嫌われると、相場は決まっていると言うのに性懲りもない。
これ以上暴れりならと、用心していましたがお嬢様に危害を加えられる訳にはいかないな。
迅速に対応しよう。
「だから、どうしたんだよ。あぁ、間違いなくエミアの推論は正しい。でも、甘いんだよ! クラリスを殺した凶器さえ見つかっていないって言うのに証拠もクソもあるか! 気に食わん、ワシが直々に殺してやる!」
「ーーさせると思うか、クソジジイ」
「貴様はエミアの執事!?」
ーーゴキッ!!
お嬢様に掴みかかろうとした国王陛下に対して、僕は寝技で関節を決め込み組み伏せる。
完全に落とし切って僕は、お嬢様の防衛に成功したんです。
暴れ出した時はどうしようかと思いましたけどね。巨漢でしたがどうにかなりました。
「証拠が欲しいんでございましょう国王陛下。他国の監査員が我が国に今からぞろぞろ来ますからいっぱい出てきますよ。良かったですね。安心して眠って下さい」
「そん……な……」
「「国王陛下の罪、断罪致しました!」」
こんな時にも息ぴったりなんですね。
合わせたつもりなかったんですが……。
これにて、エミアお嬢様の冤罪は大衆や貴族達に見せつける形で晴れることとなりました。
お嬢様には、少し怖い思いをさせてしまいましたね。良く頑張りましたと褒めたいところです。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「無事に国王陛下とグローリーは投獄されましたわね。これで私と執事は明日を向かえることが出来るのでしょ?」
「そうでしょうね。死ぬこともないでしょうし。僕は、お嬢様をお救い出来て本当に良かった……」
不思議と涙が止まらない。
お嬢様の前で泣くのはいつ振りだろう。
僕は幼少期の頃から同い年でもあるエミアお嬢様に支える執事であったけど、あまり泣くってことをしなかった。
お嬢様は、僕の服で鼻を噛んだりしてきてはいたんだがね。
それも可愛いところだと割り切っています。
十歳の頃、僕は父を亡くした。
悲しさはあったけれど、泣くことをしなかったのです。お嬢様に失礼だと思ったってのが本音だが、お嬢様は心優しい少女だったんだ。
「執事、今日だけは泣きなさい。私が慰めてあげるから」
「良いのですか。僕は執事ですよ?」
「いいかしら、ただの執事じゃないのよ。私の、執事なの! だから、大丈夫。思いっきり泣きなさい」
それ以来の号泣だったんだな。
子供みたいに泣き崩れてしまい、お嬢様には見苦しい姿を見せてしまいました。けど、お嬢様もあの頃と変わらないですね。
「大丈夫よ、しっかり泣いておきなさい。私の、執事なのですから……」
「あ、お嬢様鼻水出てる。僕の服で噛まないで下さいね……」
「……ねぇ、執事」
「何でしょうか、お嬢様」
「あなたを解雇するわ」
「怒る場面でもないですよ?」
「はぁ……。怒らせたのは執事でしょ……」
無事に執事である僕グレイと公爵令嬢エミア・ローランは、死のループから脱却することに成功した。
死ぬとまたループが始まるのか、まだ死んでいませんからそんなことは分かりません。
ですが、この死に戻りがなければお嬢様に愛しているだなんて告白も、することはなかったのでしょうね。
「……ねぇ、グレイ」
「ーー!? どうしたのですかお嬢様」
「別に付き合ったりはしないけれどあの告白、受け止めてあげるわよ」
「ちょ……。それっ……。これからもお嬢様を愛して良いということですか!?」
ーーあぁ、やはりか。
ーー僕は、お嬢様をこれからも愛してやまないのだろう。
おわり。
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