幾千ものループの先.1
「エミア・ローラン。お前との婚約を破棄させて貰うぞ」
また、始まりましたか。
この後、エミアお嬢様は謂れもない罪を何者かに着せられ、国王陛下との婚約破棄、そして断罪を受け処刑される。
執事である僕、グレイはその冤罪の罪をお嬢様の為に被り処刑される道を選んだという訳です。
何故かって?
そんなの決まっている。
ーー執事という身分でありながら、僕はお嬢様を愛してしまったからだ。愛おしくてたまらない。溺愛と呼ぶには相応しいのだろう。
当然、打ち明けることもないが、お嬢様の為に死ねるのなら本望ですよ。恋人でも作って幸せになって欲しい。それが僕の幸せでもあるんです。
なのに、どうしてだ。
お嬢様、どうして僕が投獄されると自決なさるのですか!
エミアお嬢様の死は、毎度毎度、牢獄の中で看守が僕に告げてくる。何の感情も無く、ただ淡々と人の死を告げるんだ。
その数日後、僕は民衆の前で首をギロチンで落とされ処刑される運びとなる。
これが、一連のループの流れだ。
どうやら僕は、死を契機に死に戻り、所謂タイムリープをしてるんです。
初めての死は戸惑ったけど、まだお嬢様を救うチャンスがあるんだと僕は再起して何度だって死に戻りを行う。
その数、百回以上。
それ以降は、もう数えていない。
何度死に戻りしたって、エミアお嬢様が死ぬ未来を僕は変えられないんだ。
心が折れかかった時、その死に戻りは幾千回目を向かえようとしていました。
「エミア・ローラン。お前との婚約を破棄させて貰うぞ」
また、始まりましたか。
この掛け声の元、決まって僕が第一声を放つ。
第一王子クラリスを殺したのはこの私ですってね。
邪魔する者なんている訳がない。
いつものようにお嬢様を助けることに失敗して、僕は断罪されるのだろう。だが、今回に限っては違かったんだ。
先に第一声を放ったのは、聞き間違いじゃない。正真正銘、エミアお嬢様だったのです。
いままで有りもしなかった事態に、僕は唖然とするばかり。
一体、お嬢様は何を言い出すのだろう。
「構いませんわよ。そんなくだらない婚約なんて破棄なさって結構です。ですがね、私、王家殺しの犯人に心当たりがありますの。二日、頂けないでしょうか。私の冤罪は私自身が晴らしてみせます!」
「ほぅ……。えらい自信だな。良かろう二日やる。真犯人とらやを見つけ出してみよ。現れやしないだろがな! 約束を違えれば執事共々、エミア家の貴族階級を剥奪し、貴様らを処刑してやる!」
とんでもないことになってしまった。
僕は、何もしていないはずなんですけどね。
ただ、これは好都合だ。
二日の猶予が出来たのはありがたい。これまでに起こり得ない事象であるのは間違いないのだから、チャンスが巡って来たと思うことにしよう。
お嬢様を救う、ラストチャンスかもしれない。
何としても、活かす!
♦︎♦︎♦︎♦︎
「執事、紅茶がぬるいわ。どうにかならないの?」
「お嬢様、猫舌ではありませんか。火傷してしまいますよ」
チッガァーう!
こんなことがしたいんじゃない!
二日も国王陛下からチャンスを貰ったのに、半日も無駄にしてしまってるじゃないか。
優雅にお茶など飲んでいる場合ではないのです。早く犯人を見つけ出さなくては、お嬢様がまた理不尽な死を遂げてしまうんです。
どうにか手を打たなければいけません。
「こうして、執事とお茶をするのは久しぶりね」
「何、言ってるんですかお嬢様。お茶なら昨日もご一緒したではありませんか。はっきり言ってお嬢様、バァカでございますね!」
「……ねぇ、執事?」
「何でしょうお嬢様」
「今日であなたを解雇するわ」
「冗談でございますよお嬢様! 僕、職無くなる! 行く宛ても無い!」
マズい、お嬢様のペースに乗せられている。
状況が状況だ。
一刻も早く打ち明けるべきだろうか。
ーー僕は、死に戻りをしていると……。
そう迷っていると、エミアお嬢様がいつにも増して真剣に僕を見つめ、そして何かを語る素ぶりをしていた。
この顔は何か相談したい時の顔だ。長年、執事をしていればお嬢様の考えることなんて手に取るように分かる。
きっと、犯人についての話しに違いない。
しっかりと話しを伺う準備をしておきたいが、僕の現状を打ち明けるのが先だ。
信じてはもらえないだろうけど、言うしか道はありません。
腹を括って、真実のみを語るとしよう。
「ーー実は話さなきゃいけないことがあるの」
「ーー実は話さなきゃいけないことがあるんです」
被ったしまったぁー!
どっちを優先すればいいんだ。
僕か? お嬢様か?
僕の話しを優先したいけれど、お嬢様の話しを折る訳にもいかない。ならばどうしようか……。
暫くの沈黙の後、お嬢様が提案を出してくれた。
「お互いに言い合いっこしましょう。優先順位の高い方から話しを進めましょうか」
「その方が良さそうですね。なんせ今は執行猶予の身分、効率良く話しをした方が懸命ですね」
「それじゃ、行くわよ」
掛け声と共に僕とお嬢様は、一緒に話し始めた。
寸分違わぬ同じセリフをね。
「ーー私、死に戻りしてるの」
「ーー僕、死に戻りしてるんです」
「……ふざけているの?」
「ふざけてませんけどぉー!」
そんなこともあるんですね。お嬢様が死に戻りしていたなんて思いもしませんでしたよ。逆もしかりでしょうけど。
そうであれば、改善のしようがありますね。
お嬢様の死に戻りについて、聞こうではありませんか。お互いの話しを整理すれば、ひょっとして死のループから脱却出来るのかも知れないのですから。
「まさか、お嬢様まで死に戻りを……。僕はお嬢様を助けようと思って死に戻りを繰り返していたというのに……」
「だ、だ、だって! 執事が勝手に犯人だって名乗り上げるんだから当然よ! 私の身代わりで死のうだなんて、おこがましいわ」
「良かったのですよ。お嬢様の為に死ねるのでしたら本望でしたから。ですが、自決はいけません! 僕を助ける理由なんてないでしょう?」
「じゃあ、執事が私の身代わりで死ぬのには理由があるとでも? あなたはただの執事よ。放っておけば良かったじゃない!」
「理由ならありますよ。この際だから言いますが、僕はエミアお嬢様のことが好きで堪らないのです。愛しているのです。幼い頃からずっとね」
実る筈もない告白をしてしまいました。執事である僕が、エミアお嬢様と幸せになれる筈ないのですから。
だけど、僕の願いは叶わないから。
僕は彼女の為に死ぬことぐらいしか、あの場で思いつかなかったんだ。だからこそ、お嬢様の為に何度だって死ぬことが出来た。
それを考えても、変ですよね。お嬢様が僕の為に死ななければ、僕は思い通りの結末を迎えることが出来たのに、そうはさせてくれなかったのです。
お嬢様には、お嬢様の理由があったのでしょうか。
長年溜めてきた思いを吐き出した僕は、恥ずかしさのあまり支離滅裂な言動になっていたけどお嬢様は冷静です。
数多の殿方から求婚されているだけありますね。
相手にされない男の気持ちがハッキリと分かりました……。
「バカですわ……。あなたは執事よ、私なんかとは釣り合いません。助けようとしていた訳ではないのよ? プライドが許さなかっただけ。私の為に死ぬなんて、絶対に許さないんだから!」
「左様でこざいましたか。執事相手にそんなプライドなんか入りませんでしたのに。では、話しを戻しましょう。これからどうしましょうか」
「ーー酷いですわ。あんな告白をされたら、私も執事のことが好きだからと言える訳がないじゃない……」
今後の方針を決めたいのに何やらお嬢様は、顔を赤くしてブツクサと聞こえない声で喋っておりました。
怒らせてしまいましたかね。
例え不敬だったしても、自分の気持ちに嘘は吐きたくなかったんだ。
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