不死鳥
この作品は友達のお題で書いた短編小説になります。
俺は愛している人がいる。
彼女がどう感じているかはわからないが、俺は彼女を愛している。
彼女との出会いは、行き倒れていた俺にご飯をわけてくれた。それだけのことだけど、俺はそれだけで彼女を愛した。
だけど彼女は知らない。俺の本当の姿を_____
俺は彼女のいる、国を守り盾となる騎士団に入団した。彼女の側にいるためだ。
彼女も嬉しそうに微笑んでくれたことを、今この時も覚えている。
彼女は俺の案内係に団長が指名した。俺の歳に一番近いから、話す話題も近いだろうと気を使ってくれたんだと思う。
彼女に案内される所はどこもキラキラと、俺には眩しくて綺麗だと感じた。
それから月日が流れ、騎士団に国から任務がくだされた。街の近くに現れた魔物の討伐だ。
別に俺には関係がないけれど、それでも彼女の側にいられるなら別に魔物など俺の敵ではない。
魔物の討伐は俺以外は苦戦していた。
隊の半分は魔物に殺られ、彼女は必死に戦っていた。そんな時だ。
彼女の背後から攻撃を仕掛けようとしていた魔物に丁度彼女の直線所にいた俺は気づいた。
だから彼女と魔物の間に入り、彼女を庇い魔物を殺そうとした。
けれど俺が間に入ると同時に、背後の気配に気づいた彼女が振り向きざまに右手に握られていた血みどろの剣を突き刺した。
その剣は俺の心臓に見事に突き破り、魔物の首に突き刺さる。
殺意のある彼女の眼差しを一瞬受けた俺は、今から迎える死よりも彼女に殺されるという衝撃が強かった。
口から血反吐を吐き、背後で魔物が倒れた風を受けながら彼女に振り返り、彼女を見た。
彼女は血みどろの剣を離し、フラフラとふらついた足取りで数歩下がり、自身の手を見ていた。
あぁ彼女の手に俺の血が付いている……興奮する。
俺は一言も彼女に話しかける間もなく、その場に倒れた。
最後に聞いたのは彼女の悲鳴だった。
次に目が覚めたのは次の日で、周りには隊の人と魔物の死体が放置された。
すぐに俺は立ち上がり、傷口を見れば跡形もなく傷はない。鉄の香りが空気に混ざり、嫌な気分になる。
俺は彼女に殺された。けれど俺は死ねない。
彼女に殺された瞬間を思い出す。
胸の奥から込み上げてくる。
あぁこれは紛れもなく興奮していて、もう一度彼女に会いたい、またもう一度彼女に…………殺されたい。
だから俺は何事もなく、騎士団に戻った。
団長は涙を流しながら「よく生き残ってくれていた」と言いながら肩を力強く叩く。
軽く会話している途中、その後ろにいる彼女を見た。彼女は目を見開き、青ざめていた。
その姿を見た時、ゾクッとした。
夜、隊がほぼ壊滅していたからか相部屋だった部屋は一人部屋になっていた。俺はベッドの上で一眠りしようと目を瞑る。
それからどれくらい経ったのか、お腹あたりに重みを感じて目を開けるとそこには俺に跨った彼女がいた。
あぁとても良い景色だ。
俺は一切動揺を見せることなく、動くことなく、この絶景のまま微笑んで彼女を見た。
彼女の表情は恐怖が満ちている。
「なんで、なんで生きてるの?」
「なんで?と言われても、今あなたの見ている景色が人物が答えだよ」
「嘘よ……だって私は確かに昨日!私が、私自身が貴方の心臓を剣で刺したもの!あの時感じた感触は今も手に残っているわ!」
そう叫ぶように訴えてきた彼女は、後ろに隠していたナイフを両手で握り締め、高く掲げた。
俺は動くことはないし、彼女の言葉を否定しない。
涙で濡れた瞳を見つめてから、掲げられたナイフを見る。
今からあれが俺に突き刺さる……あぁ、なんてこの光景は絶景か
その瞬間ナイフは振り下ろされ、また俺の心臓に突き立てる。
最後に見たものは、「これで悪夢が終わる」そんな彼女の疲れた声音の1言だった。
目を覚ますとそこは昨日のまま、俺はベッドに横になっていた。
真っ白だったシーツは赤く塗られていて、今は固まっている。傷口は当然にない。
ベッドから降りて一度大きく伸びた。
それから少しするとバタバタと慌ただしい足音が廊下から聞こえ、俺は瞬時に布団を入れ替えて何事もなかったかのように扉が開かれると同時に振り返る。
「本当なんです!朝不安だから見に行ったら……彼が……」
「……生きてるじゃないか」
彼女と目が合い、彼女は固まる。
彼女に連れて来られた団長も俺を見てホッとしている。俺はそんな二人に微笑み返した。
それから軽く団長が部屋の点検をし、何も問題がないことを確認し終われば彼女を残して部屋を出ていった。
俺の部屋で二人きりになると同時に俺の着ていた服の襟を掴んで壁に叩きつけた。
「なんなのよ!貴方!昨日も死んだのに!なんで生きてるのよ!」
「………昨日も言ったけど、今見てる景色が答えだ…確かにあなたに殺されて、今は生きてる」
「_____っ」
俺の言葉で襟を離してフラフラとふらつきながら数歩下がる。
俺はずっと変わらない微笑みを向け続けている。
今日の彼女は昨日の表情よりも一段と綺麗に見える。
昨日は悲しみに染まった表情で、今日は化け物を見たような表情で俺を見ている。
あぁ、やっぱり俺は彼女の事が殺されるほどに愛している。
それから、1日1回、365日間。
彼女に殺され続けた。
次の日、俺が平然とした様子で現れる度に彼女の見せる表情が一段と良くなる。
それを見る度に俺は興奮して、何度も……何度も何度も何度も何度も何度も何度も、彼女の目の前に現れる。
彼女の前に現れ、1日中彼女の周りをうろつき、夜に殺さる。それを永遠と繰り返した。
けれど人間の永遠は限られていて、歳をとった彼女はある日からベッドで寝たきりになった。
それでも彼女から離れなかった俺に対し、相変わらず彼女の眼差しは化け物を見る瞳のままだ。
そんな眼差しに対して、俺も変わらない姿、変わらずの微笑みを彼女に向けている。
彼女がベッドで寝たきりになってから数ヶ月、親族の誰も看取っていない家で、俺の目の前で息を引き取った。
俺はそんな彼女を毎日、ベッドの脇に置かれた椅子に座って見守り続けていた。
殺されなくなっても、ずっと彼女の側にいたかったからだ。
彼女が息を引き取る時、涙は出なかった。
俺の涙はとうの昔に枯れている……だから、俺から溢れるのは呟きだけ。
「もう終わりなのかい?もう疲れたかい?もう怖くないかい?もう戦わなくていいよ、もう安心していいよ、あなたは怖かったかもしれないこの人生、俺は楽しくて幸せだった、感謝してる」
俺は椅子から立ち上がり、ベッドの真横にあった台の一番上の引き出しの中にある物を1つ取り出す。
その引き出しにはこれまで俺を殺し続けてきた武器が閉まっていた場所だ。
ナイフ・カッター・包丁・ハサミ・拳銃
その中から取り出したのは拳銃で、その拳銃は戦場で近寄れなかった時に彼女が俺を殺す時に使っていた。
その武器を眺めてから、彼女を見て微笑む。
彼女に殺される度に、ずっと向けていた微笑みを彼女に向けるのだ。
「君がいないのなら、今回の俺の人生はここまでだ……あなたを一人にしない、あなたは俺のものだ、手放すものか」
そう彼女に向けて呟き、銃口を俺のこめかみに当てる。
この引き金を引けば、俺は死ぬ。
けれどまた生き返る。
そして彼女のことを忘れた俺の新たな人生が始まる。
けれどここで俺が忘れても、体の奥深くには今までの人生が刻まれ、体は出会った人たちを忘れない。
今回だってそうだ。
俺は躊躇なく引き金を引き、最後に聞いたのはパァンと高くて乾いた音。
はっと目を覚ます。
目の前には綺麗な遺体がベッドに横たわっていて、布団には血しぶきがかかっていた。
傷口はない。
俺の手には拳銃が握られていて、それを見ればだいたい察する。
これは自殺で、前の人生の終了を告げていた。
ということは、目の前で眠るこの人はきっと俺の中ではとても大切な人だったのだろう。
俺は立ち上がり、一度大きくその場で伸びた。
外に出れば、辺りに他の建物が見当たらず草原が広がっている。
深呼吸をすると、美味しい空気が吸えた。
天気は晴天、雲一つない青空。
俺は一度空を見てからどこを目的として歩くことなく、自由気ままに歩き出す。
今回この人生も、俺にとって幸せで楽しいことを願いながら。
俺は死ぬことの許されない、永遠の生を持つ不死鳥なのだから______
最後まで読んでくださりありがとうございます。