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第4話 間接キスをしろと…?

 結局この部屋には大翔やまとしか来なかったので、氷翠ひすいにちょっかいを出されるのが止まる事は無かったが、耐えて勉強を続け、ようやく待ちに待った帰る時間がやって来た。


「よし、6時だ。ようやく帰れる……」


 壁に掛けられた時計が6時を示したとほぼ同時に、俺は立ち上がってそう呟く。


「んんっ……。疲れたぁ〜」


 大きな伸びをしながらそう言って、彼女は気持ち良さそうに机に伏せた。

 このまま寝てしまいそうな勢いで目をつぶって動かなくなったので、俺は少し焦りながら体を揺する。


「ちょっとだけだから寝かせて……」

「……絶対起きないだろ」


 氷翠ひすいが寝ると俺にも迷惑が掛かるので、起きてもらわないと困る。

 どうしようかしばらく考えると良い案が浮かんできた。


「……今すぐに帰るなら、途中で何か買ってあげ――――」

「はいっ! 帰ろう!」

「…………」


 まさかこんなしょうもない事で釣れるとは思っていなかったので、逆に驚いてしまった。






◇ ◇ ◇






「これ買って!」


 そう言いながら、氷翠ひすいは棚に並べられているチョコの挟まっているパンを指差した。

 袋に貼られている札には、500円と書き込まれている。


「……はい」


 自分で言ったことなので彼女は悪くないが、このパン一つに500円も掛けるのはちょっと抵抗を感じる。

 モノにもよるが、漫画一冊を買えるレベルのパンを渋々購入して、目をキラキラさせている氷翠ひすいに手渡した。


「やったっ! ありがとうね!」


 嬉しそうに受け取るとすぐに袋から出し、出てきた部分にかぶりついた。

 幸せそうに表情を緩めている。


「……美味しいか?」


 こちらまで漂ってくる焼き立てのパンとチョコの香りを、食べれない代わりにしっかりと堪能しながら尋ねた。

 すると、彼女は返事をする代わりに食べかけのパンを俺の口元に押し当ててきた。


「ブッ……。な、何するんだよ!」

「……美味しいか、食べたら分かる」


 それはつまり間接キスをしても良いという事なのだろうか。


「……食べていいの?」

「いいから早く」


 俺の顔の前にパンを差し出したまま、早く口に入れろと急かしてくる。

 仕方なく俺はなるべく平常心を保てるように無心になりながら、小さい一口分をもらった。

 香ばしいサクサクのパンの味と、熱で溶けかけているチョコが良い感じにマッチしている。


「……どう?」


 氷翠ひすいが顔を真っ赤にしながら、ニヤニヤと嬉しそうに笑って訊いてきた。


「……美味しいよ」

「ふふんっ」


 正直に感想を言うと、ただパンを食べさせただけの氷翠ひすいが可愛らしくドヤった。


「何故お前がドヤる?」

「ないしょ〜っ」


 機嫌良く彼女は言うと、軽快な足取りで俺の前を歩き始めた。


 ……お金は減ったけど、喜んでもらえたならそれで良いか。

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