第3話 クソっ。イチャイチャしやがって!
「おぉ……。この図書館結構デカいな」
氷翠が来たいと言っていた図書館の前まで来ると、俺は思わず呟いてしまった。予想していたよりもめちゃくちゃ大きい施設だったからだ。
「ほら、入るよ」
建物をボーッと眺めて固まっていると、彼女が腕を掴んできて、無理やり中まで入れられた。
「ちょっ、離せって……」
「早く入らないと勉強する時間無くなるでしょ〜?」
確かにそうだが、今から6時までなんて結構時間がある。少しボーッとするぐらい良いと思うのだが。
「どうせほとんど勉強――――」
「静かに。ここは図書館だよ?」
氷翠は人差し指を口元に当てて、いたずらっぽく笑いながら小声で言った。
「……まあ、そうだな」
ここで騒げば本を読んだり勉強をしている人の邪魔になるので、無駄に言い返したりせずに大人しく彼女に引っ張られる事にした。
しばらく歩き回って、時間帯の関係なのかたまたまなのかは分からないが、人がいない良さそうな場所を見つけた。
ここならちょっとぐらい喋っても迷惑にはならないだろう。
もちろん、誰かが来れば黙るつもりだが。
部屋の一番隅っこの机に教科書やノートを広げ、椅子に座った。その隣に氷翠もそっと座る。
そして、流れるように俺の座っている椅子と彼女の使う椅子を引っ付けてきた。
「……近くない? てか、当たってるけど」
「大丈夫大丈夫。気にしないで」
「……はい」
めっちゃ気になるが、言ったところで無意味だろうと思った俺はこの体制のまま勉強を始めることにした。
端の席なんか座るんじゃなかった……。
勉強を始めて5分ほどが経った。話しかけられて勉強にならないんじゃないかと最初は思っていたが、意外と声を掛けて来なくて驚いた。
その代わりに物凄くちょっかいを掛けられるが。
お腹をつついてきたり、スリスリしてきたり、とにかく勉強の邪魔なのだ。
「怜……?」
「……どうした」
「大翔くん居るんだけど」
氷翠が急に入り口を指差しながら真顔で言ったので、慌てて俺は後ろを振り向いた。そこには顔を半分だけ出してこちらを覗いている、同じクラスの男子が立っていた。
殺意の籠もった目でこちらを睨んでいる。普通に怖いんだが。
「大翔、どうしたんだ?」
ずっと睨まれているというのも気分が悪いので、とりあえず声を掛けてみる。
すると、隠れていたハズの彼が俺たちのいる方に駆け寄ってきて、声を上げた。
「どうしたんだ? じゃないだろ!」
「……え?」
「クソっ。イチャイチャしやがって! 勉強するために来ただけなのになんでお前らを見ないといけないんだよっ!」
大翔はそう吐き捨てるように言うと、続けて「おめでとう」と悔しそうに呟いてどこかへ行ってしまった。
……何を伝えたかったのだろうか。