第2話 勉強するのだよ(ドヤ顔)
「ねぇ、図書館行こうよ〜」
昼ごはんも食べ終え、暇つぶしにゲームでもしようと机に置いたままにしていたスマホを手に取った時。ソファーで寝転んでいる氷翠に声を掛けられた。
「嫌」
「なんで!?」
スマホに視線を固定したまま即答すると、彼女は驚いたように声を上げて、こちらに向かって歩いてきた。
そしてゲームを邪魔するように、椅子に座っている俺の上に表情一つ変えずに乗ってきた。
体が邪魔で画面が見えにくい。
「……邪魔なんですけど」
「図書館行こうよぉ〜……」
「だから嫌だって」
せっかくの用事の無い土曜日なのだ。なるべくのんびり過ごしたい。
「行くなら一人で行け」
「えぇ……。それはイヤだ」
氷翠はそう答えると、体の向きを変えて俺と向き合うような形で座りなおし、ぎゅっと優しく抱きついてきた。
「行こうよぉぉぉ〜。お願いだからさぁ……」
いい匂いのする頭をぐりぐりと俺の胸辺りにこすりつけながら、彼女は悲しそうに言った。
そういう事をしてくると、こちらが悪いことをしているような気がしてきて罪悪感が湧いてくるので辞めて欲しい。
「……すぐ帰るぞ」
わざと悲しそうに言っているのは分かっていたが、結局負けてしまった。
仕方なく俺は行く事をOKしてしまう。
「え、6時まではいるよ?」
「……え?」
思ったより長い時間いるつもりだったようで、正直ちょっと驚いた。
「そんなに長い時間何するんだよ。どうせ本読んでても長続きしないだろ?」
「フッフッフッ。怜くん、実は本を読むために行くんじゃ無いんだなぁ」
氷翠は俺の腕の中で顔をこちらに向けて、ドヤ顔で言葉を続けた。
「勉強するのだよ」
「嘘付け」
「なっ!? 私が勉強しないとでも!?」
「実際してる所見たこと無いが」
俺の思っている事を正直に言うと、ショックを受けたように悲しそうな顔をして、俺を絞める腕の力を強くしてきた。
さすがにここまでされるとゲームに集中できないので、電源を落として彼女を引き剥がそうと軽く押してみる。
もちろん、しっかりと抱かれているので全く動かないが。
「苦しいから離してくれませんかね」
「……6時まで一緒にいてくれるなら離す」
「分かったよ。行けばいいんだろ」
わざと面倒臭そうに答えると、氷翠はパァッと表情を明るくして、満面の笑みで俺の上から降りてくれた。
俺がダルそうにしている事は全く気にしていない様子。
「ちょっと待ってて、勉強道具持ってくる! 怜も準備しといてね!」
そう言って、ウキウキで氷翠は家を出ていった。一度、荷物を取って来る為に彼女の家に戻るのだろう。
行く事自体は面倒だが、好きな女の子と二人で勉強しに行けるのだ。俺だって楽しみじゃ無い訳では無い。
ちなみに基本的に家でもずっと一緒にいるので、特に緊張はしない。
家で二人で勉強するのはダメなのだろうか、という疑問だけは浮かんできたが。