7、幼馴染みから好きな人へ
中学生にあがって数週間がたった。湊は入学早々に別のクラスの女子や他学年の女子からたくさん告白されていた。私は一緒に学校に行っているけどその途中で呼ばれたり、時には公開告白をされているときもあった。でも、湊は決まって
「ありがとうございます。でも、今は付き合うとか考えられないんで」
と答えていた。
体験入部の期間になって私達はいろんな部活を見学しに行った。
「湊はもう入る部活決めたの?」
「もちろん!バスケ部に決まってんじゃん!そういう莉久は?」
「私もバスケ部にしようと思ってた。でも、他にどんな部活があるか見てみたくて」
私も湊も小学3年生の頃からミニバスケットボールクラブに入っていた。
「それもそうだな。じゃあ早く見てバスケ部行こうぜ!」
「ちょっと待って~」
と私は湊の後を追いかけた。
バスケ部に入部して数週間がたった。もうすぐゴールデンウィークに差し掛かろうとしていた。うちの部では合宿が恒例行事でなんと最終日にBBQをするらしい。それに練習試合をするのでレギュラーメンバーの発表があった。私も湊も経験者のため見事メンバーに選ばれた。
「湊頑張ってね!」
「おう!莉久も頑張れよ」
そして、合宿が始まった。朝から夕方まで練習をして皆すごくくたくたになっていた。私は部屋にもどって横になっていると友達のちーが話しかけてきた。
ちーこと葉山千夏ちゃんは我々バスケ部のマネージャーだ。彼女の母親はバスケ選手でオリンピックにも出たことがある。そして彼女の父親と祖父はスポーツトレーナーだ。そのため彼女は分析力に特化していてコーチが直々に勧誘したほどだ。
「ねえ莉久ってさ長谷川と付き合ってないの?」
「うん。なんで?」
「いや~いつも2人見てて思うんだけどどっからどうみてもカレカノだよあれは!」
「そうかな?幼馴染みだしご近所さんだし普通じゃない?」
と言うとちーは
「いや、ないない。だって私と悠真は一緒に帰るぐらいで夜に窓開けて喋ったりしないよ。私達も家となりだから窓開けたら話せる距離だけど」
悠真とはバレー部エース五十嵐悠真のことだ。五十嵐くんは湊と仲が良いらしいけどほとんど喋ったことはない。彼もまた湊同様すごく人気がある。
私達が話をしていると同じ部屋の子達がよってきた。
「何々~?恋バナ?私も混ぜてよ~」
と言ってきたのは梨里だ。梨里はお母さんがドイツと日本のハーフでお父さんがイギリスの人だそうだ。緑にグレーがかかった色の瞳に栗色の髪のとても可愛い子だ。英語名がリリーというらしくそっちの方が気に入ってるそうのでそう呼んでいる。
「リリー、恋バナなんかじゃないよ」
「な~んだ、残念。でもさ長谷川ってうちの部活じゃモテないよね。」
とリリーが言うと
「うんうん。だって『俺、莉久以外目に入らない!』って顔に書いてあるしね~」
とちーが言うとそこにいた皆は大きく頷いた。
「でも、そういうちーだって五十嵐くんとは付き合ってないの?」
と、聞くとちーは慌てて否定した。
「ないない!付き合ってなんかないよ!」
「その慌てよう怪しいな。そう思いませぬかリリー殿」
「確かに怪しいな。白状した方がいいと思うぞ。オッホッホッホッ」
と私とリリーで言うと
「じゃあ内緒にしてね。私ね悠真のこと好きになっちゃったんだ。」
とちーは真っ赤になって言った。それを聞いて私が
「知ってた。やっと教えてくれたね。」
と言うとリリーも
「そんな驚いた顔しなくても多分皆知ってるよ。千夏がいってくれるの待ってたんだよ。」
と言った。ちーは「ありがとう。私がんばってみる」と照れくさそうに言った。
次の日の朝は同室だった子達皆眠そうだった。昨日、遅くまで恋バナをしていたから当たり前だ。着替えて食堂に向かっている途中で湊達に会った。
「おはよう、湊。今頃、翔たちは数日間、湊と会えなくて寂しがってんじゃない?」
「おはよ。莉久の方こそ咲久姉達と会えなくて寂しいんじゃないの?」
翔たちとは湊の三つ子の姉弟で あと二人、颯と葵がいる。ちなみに葵が長女で颯が次男、翔が三男だ。3人は今小学4年生で湊にベッタリだ。そして咲久姉は私の姉で今は中学3年生だ。そして私には蒼空兄と言う1つ年上兄もいて……でも、困ったことに蒼空兄は私に少し過保護なところがある。合宿に行く前もすごく心配していた。
「湊が咲久姉の話するから蒼空兄のことも思い出しちゃったよ。」
「やっぱり蒼空は合宿に来る前泣きついてきたの?」
「うん。でも咲久姉がなだめてくれたからわりとスムーズに家を出れたよ。」
「帰ったら抱きつかれるの覚悟しとけよ」
と湊はニヤッと笑った。「他人事みたいに。」まぁ他人事なんだけどさ。
といつものやり取りをしたあと朝食を食べるテーブルに向かった。その途中でリリーとちーが
「やっぱりカレカノだね。ねっ!リリーもそう思うでしょ」
「うん。これはもう熟年カップルね」
と言った。私が「もー2人ともからかわないでよねっ」
と言うと2人は「ごめん、ごめん」と言って謝ってくれた。
朝食を食べ終わって少し休憩をしたあと練習がはじまった。練習試合に出る選手は練習で試合をする。男子と女子が交互で試合をするからオフィシャルは今は男子がやっている。コーチの横でちーがスコアをつけている。スコアをつけながら怪我をしたひとの手当てをこなしたりしているちーはものすごくかっこいい。
練習が終わって夕食を食べ終わると皆で合宿所の大浴場でお風呂に入った。お風呂からあがってちーやリリー達と部屋に戻っている途中で湊達に会った。
「明日の練習試合頑張ろうな!」
と笑顔で湊は笑った。私も
「うん!絶対勝って笑顔で合宿終わろう!」
と言って笑った。するとさっきまで私達のやり取りを見ていたちーも
「そうだね。明日は私も皆のサポート今まで以上に頑張る!」
と笑顔で言った。それを聞いていたリリーや他の部員も
「私達は出られないけど応援頑張るよ!」
「俺も!というかさすがマネージャーだな。」
と皆口々に言った。後ろから
「ああ心強い」
という声が聞こえた。
「「「「コーチ!?」」」」
「なんでここにいるんですか?」
とちーがきいた。
「明日の作戦会議をしようと思って呼びに行く途中だったんだ。長谷川、小鳥遊、葉山、松井。そう言うことだから共有スペースに来てくれ。」
コーチは他のメンバーも呼びに行くと言って走り去ってしまった。コーチが他のメンバーを連れて共有スペースに戻ってきたので作戦会議がはじまった。
「…と言うわけ作戦会議はこれで終わる。明日が楽しみで寝れなかったりするかもしれないが、くれぐれもしっかり身体を休めろよ!そんで明日は勝つぞ!」
『はい!』
いよいよ試合が始まった。話すと長くなるから少し省略する。第3クォーターまでは私達が2点差で勝っていた。第4クォーターの残り30秒をきった頃私はゴール下までダッシュしてパスを受け取った。今は逆転されていて相手が2点差で勝っていた。もう試合が終わったらしい男子の方から湊の声が聞こえた。
「行け、莉久!」
私が3ポイントからシュートを打った。
結果を言うとそのシュートは失敗して負けてしまった。私は皆に励まされ少しだけ立ち直れた。その後皆でBBQをした。合宿は今日が最終日なのでもう皆家に帰る。私は湊と一緒に帰った。合宿の思い出話をして頑張って笑った。でも、やっぱり心からは笑えなかった。少しわざとらしかったかな?と思っていると湊が
「莉久、無理に笑わなくてもいいよ。俺は莉久がめちゃくちゃ負けず嫌いなこと知ってるから、俺の前では泣いてもいいよ。莉久の泣き顔なんて数えきれないぐらい見てきたから気にしないで思う存分泣けよ。」
といった。湊の声はどこまでも優しかった。私は思わず泣いてしまった。練習試合に負けたことよりも湊の優しさで泣いてしまった。しばらく泣き続けた。湊はそれを見ないように背中を向けて私はその背中に隠れるようにして泣いた。そういえば昔は私の方が背が高かったのにいつの間にか背が抜かれていた。しばらくして私は泣き止んだ。そして湊は
「これからも泣きたいときがあれば気にせず泣いてもいいぜ!俺の前だったら莉久も気兼ねなく泣けるだろ?」
と言った。
「もう泣かないし。でも、もし、もしもだよ。泣きそうになったときはそのときは頼っちゃおうかな。」
「あぁ、いいぜ!」
それから2年後私の引退試合で1年の時の練習試合の相手と再戦した。最後に私はブザービートを決めてその学校に勝った。私達は見事県大会で優勝することができた。私は解散してすぐに男子の試合会場に向かった。男子も今日は準決勝だった。男子もちょうど試合が終わったところで監督の話の途中だった。数分後監督の話は終わったのか皆ちらほら帰っていってる。私は大声で
「湊!」
と叫んだ。湊だけじゃなく他の部員達もすごく驚いていた。私はそんなことには気もくれず湊に駆け寄った。
「湊!試合どうだった。」
と私が聞くと笑顔で
「優勝!」
といいながら手を上げた。
「女子は?」
ときかれて私は
「私達も優勝した!」
といいながら湊とハイタッチをした。それを聞いた湊は
「あの学校に勝ったのか!やったな!」
と言って私に抱きついた。私はその瞬間頭が真っ白になった。
「み、湊、皆に見られてて恥ずいんだけど…」
「わ、悪ぃ嬉しくてつい。よし、他の奴らにも教えてくる。」
と言って湊は走っていってしまった。私が呆然と立ち尽くしているとどこから見ていたのかちーたリリーが私にいってきた。
「ねぇり・く・ちゃん。ほんと~に長谷川と付き合ってないの?」
「うん。でも、最近ね湊の事好きだなって気づいたんだ。」
「わぉ~やっと認めた。だいぶ遠回りしたね。」
「私達はめちゃくちゃ応援してるからね。ねっ千夏」
「もちろん。て言うか早く付き合えばいいのにって思う。」
「2人ともありがとう。私、湊と志望校同じだから高校生になったら頑張るね。」
「うん。まぁまずは同じ高校に受からなきゃだけどね。」
とリリーが言うとちーの方をみた
「わかったよ。私がみっちり教えてあげる。リリーもね。」
「ありがと。でもさ、千夏はクリスマス五十嵐とデートでしょ。莉久も長谷川と過ごすでしょ。うちの学校のイケメントップ2は相手がいるし今年こそはクリぼっち回避したかったのに~」
「そっかもう期末テストが終わったらクリスマスだね。」
「私達、引退遅いもんね。」
とリリー達と話していると
「学校のイケメントップ3の松井春樹がいるだろ!」
と松やんこと松井春樹が、やって来た。確かに松やんは結構かっこいい方だと思う。その割にはモテないけど。というか松やん久々の登場じゃん。そして松やんはリリーの方を見て
「梨里クリぼっち嫌なんやったらイルミとか見に行かん?」
おっと、いい忘れていたけど松やんは小学校まで大阪にいたから関西弁が多いよ。標準語も一応使えるっぽいけど。
「別にいいけど。でも、イブじゃないと無理だよ。クリスマスはお祖父ちゃん達に会いにドイツとイギリスに行くから。」
「マジか。従兄弟とかいんの?」
「いるけど。」
「あ~絶対イケメンじゃん。俺負けそう。」
と松やんが悔しそうに言っているとリリーが
「確かに皆かっこいいかも。」
と言った後に《Bat you are the coolest》と呟いていた。ショックを受けている松やんには聞こえなかったみたいだけど聞こえていたらしいちーに意味をきいてみると
「あなたが1番かっこいいって意味だよ。これは梨里も脈ありっぽいね。」
「…と、まぁ私の中学生活はこんな感じで湊を好きって気づいたのも凄く遅かったんだ」