2人の好きな人
6、2人の好きな人
「だから…多分もう会えないんだろうなって思ってさ。小鳥遊さんは、こんな思いしてほしくないなって思ったからかな?」
と、樹くんは寂しそうに笑った。なんだかこっちまで切ない気持ちが伝わってきちゃうよ。
「その瑠菜さんのお兄さんの瑠季さんと連絡をとれたりしないの?」
「無理だよ。だって瑠季は今イタリアにいるから」
「…えっ!何で!?」
「サッカーのスポーツ留学だよ。U-18の日本代表だから強化キャンプ?みたいなのにいってるらしい」
「すごっ!でも確かにそれは頼めないね。」
「さっきも言ったけど小鳥遊後悔してほしくないからさ。頑張って。」
「そうだ!樹くんの秘密聞いたから私に聞きたいこと何かない?」
「何でもいい?」
「もちろん!いいよ」
「じゃあ、なんで長谷川くんのこと好きになったの?」
「えっとね、私の家は湊の家の裏側にあるんだけどね…」
私と湊は物心がつく前からずっと一緒だった。小学校に入学したときも、明るくて人気者の湊とは対照的に私は人見知りでいつも1人で絵を描いていた。ある日私がいつもどうり1人で絵を描いていると湊が友達を連れて一緒に遊ぼうって誘ってくれたの。小学校高学年になった頃、湊を好きな子達からちょっとした嫌がらせを受けてたの。でも、私が何の反応もしないからだんだんエスカレートしていったの。それでも私は事を大きくしたくなかったからその子達に言い返したりせずその子達が諦めてやめてくれるのを待ったの。でもなかなか諦めてくれないからある日言い返したのそしたらその子達に押されてちょっと大袈裟に転んじゃったんだ。でもその現場を湊に見られちゃってその子達は先生には言わないでもうしないからって泣きながら言ってたから今回だけだって湊が言ったら早退するって帰っちゃったんだ。
「おい!莉久なんで言ってくれないんだよ!俺、そんなに頼りなかった?」
と湊が言った。こんなに怒っている湊を見るのは初めてだ。そのあとも「怪我は大したことない?痛くない?」と心配してくれた。
「保健室まで運ぶから掴まっとけよ」
と言って私をおんぶしてくれた。
「ごめんね、重いよね。」
「重くなんてねえよ。これからはなんかあったら俺に言えよ」
それを聞いて私は少し笑ってしまった。すると湊は「なに笑ってんだよ」と怒ってしまった。
「ごめん、みーくんがそんなに心配してくれるなんて思ってなかったから。」
「みーくんって言うなよ!」
みーくんとは小学校入学前によく呼んでいたあだ名だ。
「いいじゃん!ちょっとぐらい。懐かしいでしょ?」
と言うと湊は
「そんなに叫べるくらいなら元気なんだな。」
「うん!ちょっと転んじゃっただけだよ。」
もしかしたら私はこのときにはもう好きになっていたのかも知れない。でも、その気持ちに気づいたのは中学にあがってからのことだった。