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45 速度を上げた過去、光速で進む車内の会話

2021年 8月27日 投稿開始

      9月 5日 毎日投稿開始

     10月 5日 毎日投稿終了。月2〜3回の投稿に変更。

   →【2022年 1月 1日 次回投稿予定】投稿時間は18時です。



  迷子になったあとーー




「運転手さん、この道ですよ」


「ああ〜、ここですかあ、ありがとうございます!」


「はい、それからしばらくは道なりに沿って行けば大丈夫です」


なんでわたしがタクシーの運転手さんに道を教えているのでしょうか?


「お客さん、すみません

 このタクシーにGPSのようなものが無いばっかりに」


「はい、信じられない話ですね」


田舎でタクシーの運転手が迷子になりました。

幸いにも、地元だったので道に詳しいわたしがいました。

そうでなければ、どうなったのでしょうか?

こんな田舎で降りたとして、タクシーは通りません。

別なタクシーを選択することもできずに、手探りの冒険を始めるしかなかったのでしょうか。


ーー車内では、AMのラジオが流れています



夜のラジオ特有の雰囲気。

夜の時間に、曝け出す建前を払った話題。

人の隠れた本音を透かして、それでひっそり盛り上がって。


人のうちの音など、もう聞きたくない思いが溢れていました。

もっと大切なことを、夜のうちに話しておくべきではないの?と。


「一番、近い海まで時間がありますので、退屈ではありませんか?」


運転手がバックミラー越しに伺えるわたしの沈みを気にしてか話しかけました


「そのラジオ番組の所為です」


ラジオは、わたしの冷たい当たりに不機嫌さを表すかのように、ノイズが混ざり言い訳のようなポリフォニーを発声しました。

その騒めく多声に、わたしはラジオ番組の周波数自体にも居合わせくない思いが湧いてきました。


「申し訳ございません。それでは、他の局に変えてみましょう」


運転手は片手でハンドルを操作しながら、もう片方の手でカーステレオの操作ボタンを押しました。


「これは如何でしょう?」


ラジオからは歌謡曲が流れました。

わたしの知らない曲でしたが、その曲調は珍しくはない或る雛形で進行していることが分かりました。

演歌なのでしょうか、それとも、時代遅れの叙情なのでしょうか、でも心地良い音楽です。


「良い曲ですね」


わたしは運転手にラジオ局を変えたことへの返答として伝えました


「この曲はご存知でしょうか?」


「いえ、なんという曲ですか?」


「冬隣、という曲です。歌い手は、ちあきなおみという歌手です」


「…ちあきなおみ」


わたしが初めて知る歌手でした


「歌謡曲も良いものです。夜のムードに合うというと、年寄りくさい語りになりますが」


「いえ、なんとなく分かります。ゆったりとしていたり、情景があったり、ごちゃごちゃしていないので、夜の隙間に合うように思います」


わたしは普段は聴かない歌謡曲について、気づかなかった観点を見つけた気持ちになりました


「そうですか、良かったです」


その曲の数分間の運びに、わたしは涙腺に触れるものを感じ入りました




曲が終わり、ラジオのパーソナリティーがニュースを読み上げました


新型マナヴォリックウィルスについて、地域ごとの感染者数の発表を伝えます。

感染は下火にはなりましたが、晴れることはまだありません。


「新型マナヴォリックウィルスは、収束するんですかね?」


運転手はラジオの報せから、世の中の見通しの悪さに触れました


「カロドポタリクルというのが、どれほど信用できるのでしょう?

 私は、死にたいとは思うのです

 でも、それが“今”なのか分かりません」


運転手の安楽死願望の告白を聞いて、ココの安楽死がまた胸を締め付け始めたのです。


「運命は、容赦ありません

 妻は何十年もの仕事で身体を酷使して、神経をやられました

 腕が動かないのです

 老後がある、ということがとても恐ろしいです

 明るさが私たちには足りないのです」


今度は、“明るさ”。

わたしが今先ほど、明るい表情を浮かべていたことに申し訳なさを感じ、さらに胸を締め付けました。


「ジェネリックのロイドポタールBは、いつも持ち歩いているんです」


運転手は続けました


「政府のどこまでを信じて、生きれば良いのか分かりません

 私たち国民は、この先、どこまで逃れることが出来るでしょう?

 ただ逃れるだけです

 選択を伸ばすのか、決めるのか

 生かされるか、死ぬか

 逃れるだけです」



この運転手さんは、もしかしたら…わたしよりもおしゃべりかも。

胸の締め付けの先で、そんな引き比べを始めたわたしの眼には“ある”文字が見えましたーー



 “new leaves”



運転席のヘッドレストにタクシー会社と思われる名称が書かれていました。

聞いたことのない会社名でした。


「new leaves?」


わたしが小声で読み上げるように呟きました


「はい、聞いたことないですよね、まだ小さな会社なんです」


そう云ったあと、運転者はわたしの注意を窓の外へと切り替えました


「黒い服の男が見えますか?」


「黒い服の男?」


わたしは前方、運転手が座る運転席の方へ、少し身体を前のめりに移してから、運転手が指す目線の先を探りました。


「ほら、あそこです」


信号で立ち止まった時、交差点の向こうの路肩から歩いてくる黒っぽい服装の男がこちらを目視した後、歩いてくる姿が見えました。


「あれに捕まると、終わりです」


「…終わり?」


わたしは、このタクシーが警察に指名手配でもされているのかと、運転席側へ前のめりになったまま、運転手の表情を覗き見ました。


「ええ、まあ、取り締まりみたいなものです」


「近づいて来てますよ…?」


「ええ、まずいですね」


「 運転手さん? あの…どうするんですか!!!??」


「こうしますね」



 “ガコン”



振動を伴った何かの切り替えの音が聞こえました。

わたしのシートベルトがギュッと締まるのを感じ、座席がマッサージチェアのように身体を包んで固定されました。



「少し、飛ばしますね、いいですか?」



はい、と返事をする前ーー

抱きかかえたリュックが歪み、スローモーションで湾曲するのが眼に入りました。

その不自然な湾曲の過程が、わたしの一息もしないうちの現象に気づいたあと、エンジンが唸りを上げ、けたたましい轟音を発したあと、タクシーは恐ろしい速さで景色をすっとばしてしまいました。

わたしは座席に押し込まれるように、これまでの人生で感じたことのない強力な圧力を身体で受け止めました。

わたしが座る後部座席から見えるのは、乱反射して流れる光の速度でした。

わたしは遊園地とタクシーを何処かで誤認していたのかな?

あ、UFOとタクシーを間違えて乗車したのかも。

そう、錯覚させるほどのジェットコースター具合で、悲鳴をあげるべきだった気がしましたが、案外こういうのも悪くないなと妙な耐性がある自分に気づいたのでした。




次回投稿は、2022年1月1日で、


【PM18時】の投稿です。


8月27日より投稿を開始し、4ヶ月程になります。なかなかPV数は伸びませんが、読んでくださる方は居るので小説家になろうで投稿して良かったと、今年を振り返り思います。

まあ…自信を持って投稿した回に限って、再生数が極端に減るという現象は不思議なのですが。


この小説は、しばらく続くかと思います。

大体の流れは決めていますが、小説も生き物なので、脱線はあるかと思います。

100話以内で間違いなく終わりはします。


年明けの投稿は、1月1日の18時の予定です。


2021年、閲覧して下さった方々、本当にありがとうございました!


埋もれたままの言葉が、きちんとした花が咲けるよう、続けて参ります。


来年も、よろしくお願い致します!


「新人発掘コンテスト」「123大賞」に応募しています。

感想・評価・ブックマークなどなどお待ちしております!

たまに短編として「執筆」「なろう(異世界)系」小説の研究を投稿しています。


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