43 安楽死、罪滅ぼし
2021年 8月27日 投稿開始
9月 5日 毎日投稿開始
10月 5日 毎日投稿終了。月2〜3回の投稿に変更。
→【12月18日 次回投稿予定】投稿時間は18時です。
ココの連絡先はすでに消していました
あの高級クラブ、あの共同生活の場へと向かう勇気もありません
世間では例のウィルスが下火になってきたことで、イベント業界など、それまでの暮らしの復興が始まりました。
わたしは急に思い立って、同人誌の即売会も再開されたのかが気になりました。
ちょうど週末、この時期。
いつも行っていたイベントでした。
まず、そこから始めようと思い立って足を運んだのです
ーーココが居るかもしれない
思い出の即売会場は開かれていました
会場に着いたわたしは、自分が着ている服が、“黒”ではないことに気づきました。
あれから黒色を好んで着ていたわたしが、意識なく別な色を着ている。
それも、白い服。
白いブラウスーー
“アリュール、あなたに似合うと思うの”
そう云って、共同生活をしていた頃に誕生日、プレゼントしてくれた物
出会った頃、ココは黒い物を愛していました。
黒い信仰が“ココ”そのものだったように思います。
それがいつしか色合いが薄まって和らいで、モノトーンのリビングが変わり。
穏やかな印象が増えて、ココが身に付ける物にも“白”が増えていきました。
そんな様子をわたしは視ていました。
そんな中、逆行して“黒”に染まってゆくわたしが居て。
少しずつ居づらくなっていったことを覚えています。
そんな“光のうちへと戻る過程”のことを考えると、
わたしは、この数年間が一瞬のうちに通り過ぎたように感じました。
そして、遠回りしていたのだとーー
会場の中、ココを探しました。
昔のように。
初めて、同人誌即売会を訪れた時のように。
人溜まりに懐かしさを覚えながら。
「きっと、そこにココがいる」
そこにあるはずの一点を探して、もう迷いのない感情で。
向かった先、居るはずの人。
別なテーブル、別なテーブルへと眼を移し、運び。
かき分けるように、時間を戻すように。
過ぎた季節の名残を感じるように、越えて。
「ココ、会いたいよ」
向かった先に、居るはずの人はもう、いません
わたしは、これが、わたしの中のただの衝動だったことに気づきました
背中を後押しするものは、もう、なく
あの香りも何処かへと消えたまま
即売会場を後にし、ココの手紙をもう一度、開きました
アリュール
あなたの田舎へ帰りなさい
そこで、“あの花”を見つけるのよ
それがあなたを取り戻してくれるわ
「そういえば、ココのリビングにいつもあった一輪の花
あれは、何ていう花だったのかな?
あの花の匂いは、どんな香りだったかな…」
それでも懐かしさに焦がれて
どうしてもココに会いたいわたしは、デパートへと向かいました
化粧品売り場で、“シャネルのN°5のパルファム”を探しました
見つけたあと、サンプルを手首に振りかけました。
何度も、納得のいく香りにたどり着くまで、何度も。
揮発して香る匂いの先、自分の衝動を抑えられないまま。
そこに、ココの面影は現れません。
ココの肉体の美しさとはかけ離れたくどくどしい匂いが漂いました。
何処にも、ココの面影はなかったのです
自分の衝動が終わり、サンプルを商品棚に置きました。
シャネルのN°5のパルファムの隣りには、アリュールのオードパルファムが並んでいることに気づきました。
わたしがあの時、不必要なものに変えてしまった物
“あなたのアリュール。今は浮いているけど、時期に定着すると思う”
サンプルを振り掛けると、N°5の奥から、アリュールの存在が揮発して時を駆けて漂い始めました。
あの時、言ってくれたココの言葉が、今に生きて来てくれたのです。
「アリュール?」
聞き覚えのある声が、わたしを振り向かせました
黒っぽい服装をした女性が立っていました
「あなたは…」
「久しぶりだね、しばらくだったけど、元気だった?」
他人を傷つけた。
人が見ていないところでしてしまった。
急に、不意に湧いてくる感情に負けてしまった。
なんども直すことをしなかった。
わたしは、他人を傷つけた
これは、罪滅ぼし
「ココさん、安楽死を選んだらしいよ」
黒っぽい服装の女性は、いつもココの新刊を買いに来ていた年上の女性でした。
ココは、わたしが急に居なくなった後も同人誌を描き続けていたそうです。
わたしのことについて、ココが話していたそうです
「アリュールには、才能があるの
あの娘は自分で生きていける
アリュールの声を必要とする人が待っている
わたしは応援してるの
何処かで頑張るために、あの娘は羽根を羽ばたかせて飛んでいったの」
ココの作品は様変わりもしていたようです
「ココさんの作品をずっと読んできたけど、本当にすごいと思う
なんて言うのかな…作品の幅が凄い
ミステリアスなものが多かったけど、変わった
何だか懐かしくて切ないものになったなあ
コンセプトが変わったんだと思う、変えたんだと思う
理由は分からないけど、何か私生活であったのかな?
嬉しいことなのか、辛いことなのか分からないけど
でも、あたしは好きだよ
ココさんの作品だから
どんな作品だって、愛してる!
だから、とっても今は辛いね…」
黒っぽい服装の女性は、路上で涙を流しました
わたしはその涙に目礼して
自分の贖罪を感じたまま、ただ歩き帰りました
裸眼で、考えるーー
「あの花、昔どこかで見たことがある」
ーーばあば
ばあば、この花どうしたの?
これかい?
知り合いの奧さんにもらったのよ
綺麗かい?
これ、タンポポ?
いんや、違うねえ
これはーー
「そう、これはわたしの家の庭にあった」
「でも、なんで、なんで、黒いの?」
ココは、カロドポタリクルを服用し
安楽死を選んだ
「どうして…
ココは、亡くなったの?」
「どうして、安楽死を選んだの?」
「どうして」
「どうして、もう、いないの?」
他人を傷つけた。
人が見ていないところでしてしまった。
急に、不意に湧いてくる感情に負けてしまった。
なんども直すことをしなかった。
わたしは、他人を傷つけた
これは、罪滅ぼし
次回投稿は、2021年 12月18日で、
【PM18時】の投稿です。
15時帯の投稿で閲覧してくださっている方々、いつもありがとうございます!
閲覧数が停滞しているため、少しの変化をつけたく、投稿時間を変えています。
投稿時間の変更で読むタイミングに支障が出る方もいるかと思います、変わらず読んで頂けると幸いです。
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