君は生き残れるか
チャプター1遁走
んのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
冗談じゃねーーー。
俺は帰るーーーー。帰るったら帰るー。
脱兎の如き無様に逃げまわるのは向上京介俺のことだ。
なんのことはない、あのクソギルド協会からチョー楽な探索クエストだからと安請け合いしたのが運の尽きだった。あの協会のねーちゃん下から上目遣いしてなーにが「どんな初級者クラスでも一時間でクリア可能ですw」とか抜かしやがって。俺の後ろに追いかけてきてるのは狂気に満ちた空飛ぶ機械人形の群れなんですけどーーーーっっ。
ちょーと入口のドアに触れたとたん勢いよく出やがってからリー、しかもお約束の「侵入者は抹殺する」とか禍々しいこと限りねー台詞吐くし。作ったやつ出てこいよ。まぁ、出てきても俺がボコられるだけなんだが。
そんなことより、なんで施設から遠ざかっているのにまだ追いかけてくんだよこのストーカーもどきはっ、いい加減しろや。
「おい、そこのヘタレ。手、貸そうか?あぁぁん?」
誰だ、このくそ忙しい時に舐めたこと抜かしてんのは?
「もー一度聞く。手、かそうか?どうんだコラァ?」
わーかったよ、手、貸してくれよ。頼むぜ。
「はいはいお願いしますーーーーーー」
「ターーっく、うざってー野郎だー。肉棒ちょん切るぞ」
ええい、しかも口が悪りぃい。
俺が応えて振り向くと、そこにはナイスなバデーで真っ赤な服着た黒髪のねーちゃんが数体のドール(機械人形)を黒い大剣で薙ぎ倒している風景だった。
次々に荒野に墜落するドールたち。俺は夢を見てるのか?いや悪夢は覚めねー。今見てるのは現実という名の悪夢だ。
「おい、そこのヘタレ。これ、終わったら食いもんと酒、奢れっ」
いちいち命令口調かこのアまぁ。
「わーたよっ、好きなもん食わしてやるからあとはよろしく頼むぜ」
ほんとは財布が寂しんだが致し方ねー。この際藁をもすがる思いだ。
「上等上等。おいモナついでにガソリンハイオクも頼んどけ」
「あいよ、てなわけでハイオク満タンもよろしくね、ヘタレなお兄さん」
「ダーレガ、ヘタレなお兄さんだっ。ってもう一人いるんかいっ」
今時ガソリンなんか高くてみんなディーゼルなのに、よりにもよって一番高価なハイオクご所望かよ。意地きたねー連中だ。
「当たれ^^ーーーーーー」
太陽光で全然見えんかったが、ドールたちよりもはるか上空から銃弾の雨が一帯に降り注いだ。総勢20体以上もの機械人形の群れは口の悪い性悪女にぶった切られてるのと、小悪魔っぽい口調の女の子が撃ち落としてダメージコントロール(状況終了)した。
あれほど、俺を猛ダッシュで逃げて追っ払おうとしていたクズ人形があっというまに文字通りクズ人形になるとは。こいつら何者だ。
とりあえず、疲れて地べたにへたばって息してる俺に向かって黒髪の女は手を差し伸べた。
「運が悪かったな兄ちゃん。ここは初級者レベルが来るような場所じゃねーぜ。大方、ギルドのねーちゃんにそそのかされて、点数稼ぎにでも使われたのかもな」
その可能性はなきにしも非だ。ギルド協会もハンターや冒険者に様々なクエストを捌いていかないと、貯まる一方だし、上からも突っつかれるだろうからな。あいにく、俺が手を出してしまったのは、初級者クラスじゃないクエストだってのは確かだな。
「おら、力出せや。男だろ」
ぐいっと引き抜かれて立ち上がらされた。よく見ると黒髪の女の獲物は身長の倍以上もある大剣で、どこの武器屋でも鍛冶屋でも見たことがない形状に大きさだった。それに剣の柄部分からなんかキモいコード見たいのが手に巻きついてるがただの無機物じゃねーよな。
「あーこれか。珍しいだろ。世にも奇妙な人の生命力を喰らう呪われた剣ってやつだ。知ってるやつは【災厄の剣】とかいうらしいぞ」
なんだかあっけらかんと喋ってるがやべー武器に決まってんじゃんか。こいつ頭の中お花畑じゃねーよな。てか、ちびりそうだからお花摘んできてもいーかなもう。
「ムギュっと」
「ガァーッっ」
何んすいんじゃいこのどちび助。股間が割れるれて、たまたまがさらに分裂するわい。
「もなー、いくらなんでも初対面の男の一物を鷲掴みはないんじゃないか。ドン引きもんだぞ」
俺もドン引きだよ。何しれーといかにも女性ですぅみたいなセリフはいとんねん。
「いやいや、なんかこの人がちびりそうとか言い出しそうだから根本をぐいっとね」
そうじゃーねよ、もっと男の子は大事に扱ってよ。ガラスのハートなんだから。
「これは失礼しました。ところでなんでドールから逃げてたの?お兄さん?」
「モナよ。聞いてあげるな。そこは男の矜持がある。いくら初級クエストと間違えて上級クエスト手配されて、ドールにリンチくらってぶち殺されそうでしたなんて、口が避けても、おしっこちびっても言えねーよ。なぁ兄ちゃん」
こいつらとことん口が悪いなもう。いやんなるよ。
「ま、それでも厄介ごととはいえ初心者ハンターさんにこんなクエスト押し付けるギルドもギルドだがな。これに懲りたら下手な安請け合いはしないこった。身の丈にあった冒険をしなさいな」
「そうそう背伸びすると寿命が短くなるよん」
「はいはい、そーですね。ごもっともでございます」
「なんだ、聞き分けがいいじゃないか。ところでさっきの約束忘れてないよな?今、あたしらも手持ちがスカスカでさ、困ってんだわw」
「ただのタカリか」
「しっつれいな。依頼に対する正当な報酬と言ってもらいたいね。デッ?どうするの食わしてくれるの?くれないの?なんなら時間魔法使って壊れる前のドールを蘇生させちゃってもいいんだけど」
そういうのを恐喝って言うんだよ。
「わかったよ。好きなもん頼めよ。有り金すくねーけど」
「なんだよ、お前もボンビーかよ。つくづく運がねーぜ」
運がないのは俺の方だけどな。
「ま、いいぜ、飯のついでにギルド協会にも文句の一つでもつけて報酬色つけさせてやるから案内しな」
「ウェーイ、お願いシャーす」
「やったねナフトちゃん。三日ぶりのお食事だね」
「しーっ、ダーマってろ」
なんだ、お前らも同類かよ。
「んじゃよろしく頼むぜ。あたしはナフト。ナフト・アーベントロート。長いからナフトでいいぜ。こっちのちっこいのはモナ・バーバベルツ。モナでいいぜ」
「ああ、ナフトにモナだな。俺はキョウスケ。向上キョウスケだ。よろしく頼む」
「うっしゃ、じゃー久々の飯にありつくとするか。キョウスケ。あとモナはヒューマンじゃなくてオートマタ(自動人形)からさっき言ってたガソリン飲ませてくれや」
そういうとナフトは大剣をシュッと次元の彼方に消し去った。便利なやつだ。一応剣士なんだろうか。でもさっき時間魔法とかも言ってたからウィザード(魔法使い)かシャーマン(呪術師)かクレリック(聖職者)なのかな。とてもそんなふうには見えないけど。
モナも当たり前に浮遊してるけど、空飛ぶ自動人形なんか俺を襲ってきたドールもそうだが早々お目にかかれないぞ。なんなんだこのコンビは。そして、どーなる俺。
ーギルド協会ー
「だーかーらー報酬が違うって言ってんだろガーッっ。いてこますぞ我ーーー」
どこのチンピラだよ。クエスト受付のねーちゃんに喧嘩腰でどーするよ。ものごとは穏便に行こうよ。その方が楽だって。ほらぁ、なんか他の人たちもこっち、ジロジロ見てるし明らかに浮いてるよ。浮きまくってるよ。ねぇナフトのおねーさん。
「もう一辺言おうかぁあ、こいつにやらしたクエストはレベル1どころか上級レベル4相当だっつってんのがわかんねぇのか、このボケカス女ぁ」
完全にショバ代せびりにきたヤーさんもどきだよ。なんか受付のおねーさんも涙目になってきてるし、そろそろいーんでないの。
「ねーちゃん、あんま煩いと他の冒険者に迷惑だぞ」
居た堪れなくなったのか別の冒険者がナフトの肩に触った。が、最後ナフトの鋭敏な目の残光とともにすぐ横の木目の壁に頭から埋め尽くされた。まさに犬神家状態だね。
「こいつなにしてくれてんだ」
次の大男は足蹴にされて天井に頭からズッポリ埋まって宙ぶらりんだ。あとで引っこ抜くのは難しいから落ちるのを待つしかねーな。
二人の冒険者が秒殺(正確には殺してないが)されたのを見て、受付のねーちゃんはすぐに奥に戻ってコインのたんまり入ったズタ袋を急いで持ってきて、ペコペコ何回も頭を下げた。うーん、なんだかカスハラ以上に迷惑なクレーマーだなナフトは。ついでに知らんうちに俺のギルド協会の登録もキャンセルされていた。モナが言うには「こんなギルド協会よりもうちのギルド協会にきなよ」とどっかのインキュベーターみたいな口ぶりで俺を説得するのだが、この際どこのギルド協会でもいいから安寧をもたらしてくれるとこならどこでもいいと思った。とはいえこの二人と一緒で安寧が得られるかというとそれも甚だ疑問符がのこるが。