第1部 1.モブリ
第1部
ここは、人間と魔物が住む世界。
遥か昔、魔物に人間が追いやられようとした時に一人の勇者が現れて魔王を倒し、人間の世界を取り戻した。
それから歳月が過ぎ、人間は世界の半分まで支配していた。残りは魔物の世界で境界では争いが絶えず、魔物が持つレアアイテムを求める冒険者達が魔物の世界を開拓し、また魔物に奪還されることの繰り返しだった。
そんな人間世界に、魔物とも融和し共存することで世界を統一しようという教義の融統団もあった。
融統団の教義は、魔物のアイテム売買で生計を立てている冒険者や商人、貢物として受け取っている王達には受け入れられるものではなかった。教団は彼らから迫害を受けながらも何とか存続し続けていた。教祖は、誰かわかっていない。
1.モブリ
「モブリー、水汲んできてー」
メル姉さんにすぐに返事をして、モブリはすぐに水汲みの準備を始めた。
そろそろ夕飯の準備だ。
融統団ではみんなで協力しあって、全ての仕事をする。
もちろん夕食作りもみんなで行うが、得手不得手はあるのでモブリが調理することはほとんど無い。融統団に拾ってもらってから一通りの仕事をさせてもらったが、得手不得手は上手い人から見ればすぐにわかるので、モブリの仕事はあまり考えなくてもいい雑用が主だった。
「メル姉さん、汲んできたよ。桶2杯で足りるかな?」
「ありがと、モブリ。2杯もあれば十分だよ」
「他に何か仕事はある?」
「あたしはもう無いよ。……そういえばさっき占い師がお客で来たって言ってたから、ご飯食べていきますかって聞いてきてくれる?」
「はーい」
そう言って歩き始めたモブリを見て、慌ててメルは言った。
「モブリ、どこに行くんだい。そっちじゃない、あっちの塔だよ。お客さんはみんなあそこで応対するんだから」
「そうだった、また忘れてた。ごめんなさい」
モブリはメルを見て頭をペコリと下げると、来客塔に向かって走って行った。
「あの娘はこの先大丈夫かねぇ、愛嬌はあるしほっとけない何かは持ってるけどねぇ」
メルは走っていくモブリを見ながら、野菜を切っているイルマに声を掛けた。イルマはみんなのお母さんと言ってもいいくらいの存在だ。
「あの娘の眼は、普通じゃない。今までいろんな人間や魔物の見たけど、あんな眼は見たことが無い。大丈夫かどうかはわからないけど、普通の人生ではないだろうねぇ。」
イルマがそんなことを言うとは思っていなかったメルは驚いた。
「普通じゃないって?」
「そうさ。だからせめてここにいる間くらいは、平和に普通に暮させてあげたいねぇ。いつまで続くのかわからないけどねぇ」
イルマもモブリの走って行った方を見ると、続けた。
「まあ、そんなことより今日の夕飯だ。メルや、手が止まっているよ」
イルマもメルもその後は黙って夕飯作りを続けた。