始まり
始まり
遥か昔、世界はモンスターを従える魔王の勢力により、人間が生きられる領域はどんどん少なくなっていった。それを危惧した一人の勇者が立ち上がり、単身魔王の城へ乗り込み魔王と戦うことで現状を打開しようとした。
魔王の城へ向かう勇者をモンスター達は遠巻きに眺めてやり過ごすだけで、襲い掛かられることは無かった。魔王の城で魔王を眼前とした勇者と魔王の会話が始まった。
「よく来たな人間よ。…いや、勇者だったな」
「魔王よ、これ以上人間の領域を侵すな。」
「何を言っているんだ。我々の方が数も多く、より多くの土地が必要なのだ。人間もかつて同じ様にこの世界に広がって行ったではないか。我々にその順番が来ただけのことだ」
「それは…」
「それに我らは別に人間と共存しても良いのだ。我らは食べ物を必要としない。だから人間と競合することは本来無いのだ。だが、人間が我らの姿を嫌悪し、我らが持つ魔石やアイテム欲しさに我らの仲間を殺す。我らは当然自衛の為に人間に反抗する」
「……」
「我らの仲間を害した人間を見つけて処罰する。先に手を出したのは人間だ。だが人間はそれでも我らの襲撃だと言う。襲撃?犯人を見つけて処罰しただけだ。同族だからと言って人間は犯罪者をかばうのか? そしてそれが正しいとでも言うのか?」
「……」
「我らが欲しいものを人間は持っていない。我らが人間を先に攻撃する合理的な理由は何も無い。攻撃するのはいつも人間からだ」
「……」
「まだ何も言えないのか。では続けよう」
「共存できなくしていったのは人間だ。我らは他の動物を襲うことも無い、彼らも我らを襲わない。お互いに捕食の関係ではないからだ、もちろん全く無いわけではない、子育て中の生き物は気が立っているからトラブルは起きる。それでも人間以外の動物、植物、その他の生き物と我らは共存できる」
勇者はこれから宣言されることを予測し、来なければ良かったと初めて後悔した。
「人間だけだ、他の生き物と共存できないのは。人間がこの地に生まれ、我が物顔で他の生き物を殺し、追いやる。人間は退場した方がこの世界のためではないのか?」
「そんなことはない、人間だって共存できる」
「そうか、わざわざここまで来てそう言うのだ。お前を信じてやろう」
「疑わないのか?」
「我らは疑ったりしない、仲間に嘘をつくこともない。元々の我らの言葉に「嘘」や「疑う」などという意味の単語は無かったのだ。人間が使うから覚えただけで、我ら同士には必要の無い単語のままだがな」
「……」
「お前の勇気に免じて、人間にやり直しの機会を与えよう。今からお前は我を切り分けよ。切り分けられた我がまた元に戻るまでに、人間が世界と共存できることを示してみよ」
「もしできなかったら?」
「もし?お前はできると言ったではないか、…嘘なのか?」
魔王はため息をついて続けた。
「先も言ったが、我らは嘘を好まない。そうそうに立ち去り二度と姿を見せないか、先の言葉を実現するのか、今すぐ選択せよ」
「できるさ。俺は人間を信じている」
「ならば良し。あの剣を用いよ」
勇者は言われた通り、その剣を手に取った。
「すまんな、お前の名を聞いていなかった。魔王である我の名はユーバーンだ」
「ユーバーンよ、人間に機会を与えてくれてありがとう、私の名はレオ。レオ・レクセル」
「ではレオよ、その剣を我に向け2度振り下ろせ、それで全てが始まる。お前は魔王殺しの勇者として、人間の世界を変えて行け。遠い未来でお前の成果を見届けるぞ」
魔王は立ち上がり、溢れかえる瘴気を止めた。
「レオよ、始めよ」
言われるまま、勇者レオはその剣を2度振り下ろした。1度目で魔王の身体の2/3が失われ、窓から漆黒の渦となって消えていった。2度目に振り下ろすと残りの1/3が同じ様に窓から出て行った。
「これで終わったのか?」
レオが魔王のいた辺りをよく見ると漆黒の渦が少し残って漂っていた。レオが近づくとその渦も窓から飛び出して行った。
「魔王は3体に分かれたということか」
魔王がいなくなったのにも関わらず、城には何の変化もなかった。魔王の言った通り、人間だけが不要なのか、争いの元なのか?
「いや、そうじゃない。」
自分に言い聞かせるようにレオは言い、人間の世界を変えるため急ぎ戻って行った。