旅立ち
無駄に装飾され重い大きな両開きの扉を開けるとそこは王室
王いわば父上が訪問者と面会をするところ、扉も無駄に豪勢ならば内装もより豪勢、堆金積玉で豪華絢爛な内装は、とても父上の性格をよく表している。
そんな王室に呼ばれた僕だったが、入った途端、父上は吐き捨てるように
「遅いぞ。ルート」と無駄に高い玉座の上で僕を見下した。
「何でしょう父上」
王室のど真ん中に立ち父上を見上げるようにして目線を合わせる。
すると父上は声を高らかに持っていた紙を広げ読み始めた。
「確かな情報筋から魔王が復活したと伝言を預かった。」
その言葉に王室はざわめいた。
「ルートよ、お前も17となり。立派な大人になった。勇者として立派に訓練してきた」
「まさに、この時、ルートよ!世界へと赴き魔王を討伐してくるのだ。」
自分の意思はお構いなしか、そんな言葉を飲み込みまた父上を見上げた
「大臣渡してくれ」と言われると大臣が大きな皮袋を持ってきた
まぁ…こんな暮らしから出ていけるなら何でもよかった。
中に入っていたのは10日ほどの保存食と金貨10枚と銀貨25枚。そしていつも魔獣の殺している剣だけだった
食料が少ないと思うがどうにかなるだろう
「じゃあ……いってくる」
この時に僕は早く嫌いな父上の顔を視界から消そうと返事を待たず。城をを後にした
生まれて此の方、城下町を歩いたのはこれで5回目となる。1回目は王子誕生記念祭の日。あの時に初めて王子として自覚もし、同時に勇者として初めて魔獣を殺した日だ。それからは父上の誕生祭など4回の城下町の参観となるが、今回の5回目は違う。
初めて自分の足で城下町を歩く。付添人もいなければ、自分を運ぶ馬車すらいない。城の窓から見えた城下町がすぐそこに、目の前で動いているのだ。
大きな声で客引きをする店主、買ってもらえずに駄々をこねる子供と困る親。
ありふれた憧れた日常が、すぐそばにあった。
「魔王が居なければ、俺もこんな暮らしをできたのだろうか」
王族として生まれ、勇者の指名を受け継いだ。この人生は苦悩や苦痛の連続ではあったが、こうして民の暮らしを見ていると憧れて
「そうだ。魔王を倒した暁には王子と勇者の位を返上して普通に暮らそう」
うん、そうしよう。そう決意して俺は城門を抜けた。
始めてみる外の景色は、驚きの連続。今まで見てきた絵画では表現のしきれないほどの色んな色をした草木や動物。外だと下級魔獣を倒すのも一苦労、逃げ回るし、草木を巧みに使う魔獣までいた。鎖でつながれた首を落すだけの毎日とは違う。
何もかもが驚きしかなく、ますます外の世界に興味をひかれた。
そんな中、一つの悲鳴が聞こえた。
自国では商人以外の国外に出ることは罪となる。だからそこにいるのは商品を馬車で運ぶ商人だと思っていたのに、居たのは栗色の髪色をした少女と魔獣だった。
悲鳴ともに同時に甲高い金属音に似た雄たけびが森の木々をなぎ倒しとても興奮している。きっと少女の悲鳴が威嚇、もしくは敵対心をあおるような形になって、魔獣を興奮させていた。
魔獣の姿は、紅紫色の美しい模様をした1mあまりの大きな鳥、丸太のように太い2本の黄色い足に鋭利な鉤爪、羽を羽ばたかせ、ルートを見た途端に体を大きく膨らまし威嚇する。
「魔獣?!さっきいた下級魔獣とは格が違う!」とっさに魔獣の前へ飛び出て少女の手を掴み自分の後ろへと隠れさせる。
魔獣の方へと振り向き、僕が剣を構えようと革袋に手を伸ばす、すると大きな足の鉤爪を振り下ろしてきた。とっさに受け止めるが、急な事で僕は不利な体勢で受け止めることなった。
地面を命一杯蹴り飛ばし革袋の中に入っている剣を握りしめ鉤爪へと合わせる。魔獣は革袋に包まれた剣を足で握りしめ大きく雄たけびもう一つの足で地面を蹴り、羽を大きく羽ばたかせ片足を剣を押さえつけている僕の腕めがけて振り下ろしてくる。魔獣全体の重さが腕に乗っかり、避けるのに数コンマ遅れが生じた
「まずいっ!!」体を大きくひねり躱そうとするが、鉤爪が腕に直撃する。痛みと共に不安が脳裏をよぎる。僕がここで死ぬとこの子はどうなる。自分が憧れた普通を生きているかもしれない女の子。
体が大きくよろめき体勢を崩しそうになるが、後ろに隠れていた少女を思い耐える。魔獣がそれごと踏みつぶそうと脚に力を込め、もう一度全体重を乗せてきたときに、俺は命一杯地面を蹴り上げた。これは賭けだ。
少しでも利口な魔獣ならば、きっとこの賭けは負けとなる。僕は判断を見極めまいとめいいっぱい踏み込んだ。
魔獣は片足が浮き、浮いた体をどうすることも出来ずにバランスを崩し、そのすきに剣を抜き、倒れこむ魔獣の体めがけて剣を振り下ろした。ごめん
甲高い気色の悪い雄たけびと共に魔獣は動かなくなり、闇となって消えた。本で見た魔獣の本質。死に絶えた魔獣は元の姿となり消える。
「なんだよ……父上。これじゃ意味ないじゃないか」ただ首を落すだけじゃ意味がないって帰ってきたら言わないと……僕は安心したのか、意識が飛ぶように倒れこんだ
やがて動けなくなり、眠気に襲われた。その時に少女が駆け寄ってきていたが何を言っているのか分からなかった。