勇者
王都の一室
今日も今日とて嫌な朝がやってくる
体を軽く優しくゆすられ優しい声で囁かれる
「ルート様、ルート様。朝でございます」と
聞きなれた優しい声が耳の中で静かに聞こえ
夢の幕が閉じられた
ある王室の一室
外は絶好の晴れ模様。こんな日にはピクニックでも出かけようか
そんな晴れの日。そんな今日がきた
「ああ…今起きる」
めんどくさそうにこの世の終わりみたいな顔でルートは目覚める
朝は憂鬱だと愚痴をこぼすようにつぶやき
爺やが持っていた服を分捕る
朝は嫌いではない、むしろ好きな方だ
だが今日が来た、もしくは明日が来たというべきだろうか
僕は毎日というのが嫌いだ。朝が来て夜が来てまた一日が始まるのが嫌いで憂鬱だ
ルート
第三王子にして勇者の生まれ変わり
子供の時から勇者として育てられ《《毎日》》のように訓練をされていた
「ルート様、ささっ手伝いますよ」
爺やがゆっくりと優しく袖を通してくれる
勇者だからだろうかこのお世話係の爺や以外は父上も母上も兄上も姉上もだれも
僕には優しくはしてくれない。
こんな世界になんて生まれてくるんじゃなかった
そう毎日のようにおもった
ここから見える
民たちの暮らしを見ているとなんだか眩しくて羨ましくて
自分が父上の息子じゃ王国の王子じゃなければ勇者じゃなければ
こんなことにはならなかったと毎日のように思った
ドンドンドン!と自室のドアを壊すような
荒々しいドアノック、それにつられるように耳障りな金属音
この毎日の始まりを告げるように近衛兵長が返事を確認せずに
鎧の音をうるさく鳴らしながら声も怒鳴りながら入ってくる
「ルート王子!訓練が始まるっていうのに、なんですかそれは!」
兵長はまだ着替えを終えてない僕にご立腹のようだ
「すいません、近衛兵長様。爺やが起こすのに時間をかけてしまいまして」
爺やは垂直に腰を悪くしたと言っていたその腰で深く深く曲げ頭を下げている
すると兵長は弱いものを見つけた猛獣のように爺やを怒鳴りつけた
その姿は何というかあまりいい光景ではない。
これが毎朝だ
全くもって嫌になる。このまま王都を抜け出して
王子なんて汚いもの、肩書を捨て去ってしまいたい、そう思った
僕の着替えが終わると兵長は愚痴みたいな怒鳴りをやめ
またうるさく耳障りな鎧の音を鳴らしながら
「地下の訓練所!すぐ来るように」と怒鳴り散らし部屋から出ていく
すると爺やは胸をなでおろし
「すいません。ルート様」と優しく微笑んだ
地下の訓練所は一番行きたくない
勇者として《《毎日》》欠かさず通っているところだ
ここはとても嫌なことを思い出す
それはまだ僕が8歳のころ
埃が臭く古い鉄の臭いが充満する暗い廊下を父上に手を引っ張られて
「父上!痛いです。やめてください」と頼み込んでも
「うるさいぞ!黙ってついてこい!」とはじき返される
小さい足では大人の歩幅にはついていかず転びそうになりながら
父上に引っ張られるその手は赤くにじんで痛かった
父上と僕は近衛兵長に導かれ地下深くの訓練所に行くと
目の前には重く苦しい鉄のドアが嫌な錆付いた鉄の臭いがし
そのドアの先、聞いたことのない猛獣の鳴き声が苦しそうに叫ぶ声が聞こえる
その声はとても悲しそうで悲惨な声。
僕が父上?と震えながら見上げてもこっちを一切みずただドアの鉄格子を見てはおお…と歓声をあげた
兵長がドアを開けるとその鳴き声は唸る声に変り威嚇する声にも聞こえた
この世の憎悪を見たような声に変ったのだ
父親に引っ張られて入った景色は吐き気を催すよな景色が広がっていた
「これが……魔獣」
その日、僕は初めて魔獣をみた
魔獣…本で読んだことがある。
魔王が生み出した闇から這い出しものたち
ここドラグリンド大陸には魔獣と呼ばれる魔王によって作られた獣が蔓延っている。
魔獣は、当たり前の存在なのだが、本や図鑑でしか見たことないルートにとってははじめての魔獣だった
白い綺麗な毛並みをした大きな魔獣
だがその綺麗な白い体には無数の深く突き刺さった槍で赤くにじみ
四肢には黒く重い鎖が繋がれておりところどころ血で赤くなっていた
その光景は本に書かれていたずる賢くて非道みたいな印象は受けず
苦しそうにしているのに
何故か僕を見る目は優しそうな眼をしていた。
今この状況こそが僕たちこそが野蛮で非道とだと思ってしまうほど
その中で父上はにやりと笑い
「ルートよ。そこにいる魔獣の首を刎ねよ」
父上が命令するように叫ぶ
僕はその魔獣の目を見た後に父上を見上げ
「嫌だよ。かわいそうだよ」と拒否をすると
その魔物は父上の方をジロリと睨み大声で吠えた
すると父上は汚いような物を見るような目を魔獣に向け
そのあとすぐに僕の方に同じような冷たい、まるで物にしか見てないような目をして
「うるさい犬だ!早くこの魔獣の首を刎ねよ」と怒鳴り散らす
「な、なんでそんなこと…」と言うと
僕の右頬を平手打ちをし「さぁ!早くやれ!」といつもの父上とは様子が違くその時にはまるで別人のように感じた
かわいそうだよと言いたかったがその言葉すら飲み込んでしまうほど
その時の状況はどうかしていた。鉄の臭いと血の匂いどちらがその匂いか判別できないほど臭いが充満したこの一室。そして父上のあの表情
ひとつだけわかったことはやらないとこんな状態がいつまでも続くということ
いち早くその状態から抜け出したい僕は使ったこともない剣を握り
その白い魔獣の首めがけてとびかかった。心の中では必死にごめんなさいとか、もしこのまま魔獣を切るのに失敗して魔獣に反撃されたらどうしようとかこのまま自分の首を落としてしまおうかそう考えて跳んだ
ボトッ
恐る恐る目を開けると持っていた剣は元々の色と混ざり赤黒くなり、僕の手も同じように赤く染まり生暖かった。その感触でやってしまったとその罪悪感で見たくもないのに視線が勝手に動いてしまう。
真っ赤な血の海に白い魔獣が紅色の噴水を上げ真っ赤に深紅に体を染め
赤くなった魔獣の首がそこにあり。僕は気づいたら気絶していた
一つだけ覚えているのは妙なざわめきがあったことだけだった
「ルート様――――ルート様!!」
「どうされましたかぼぉーとしまして」爺やが僕の顔を覗く
「いや…昔のころを思い返してた…」と言うと爺やはそうですかと
優しく笑い
「お疲れ様です。ルート様、ささ早めにその汚らわしい血を落とし下さい」
僕はさっき殺した魔獣の血を洗い流しながら流れてゆく血を見ながら思った
いつからだろうか魔獣を殺すことに抵抗がなくなったのは
僕が血を洗い流していると
「そうでした。ルート様」と爺やが手をポンと叩きポケットから紙の束を取り出す
「ルート様、国王がお呼びになっております。」
「父上が?」
爺やは「はい」と答えると大丈夫ですか?と僕を心配する
父上に呼ばれるのはどうもいい思い出がない
めんどくさそうに濡れた体を布で拭きながらため息をつく
僕は父上が嫌いだ。だれしも反抗期は来るがこの憎しみにも似た嫌いは反抗期なのだろうか?
「着きましたよルート様。ルート様17歳のお誕生日おめでとうございます。」
王室の重い扉が開かれた