外話1・隠れ家カフェにて
時々、こういう物語を補足する『外話』を書こうと思います
主に薫以外の人達視点の話です
私は、顔が隠れる程のフードを被ると、行きつけの隠れ家カフェに向かった。
ここ最近は名ばかりではなく顔まで知られ始めたため、こんな不審者スタイルをしているのだ。
「スキル11・〈縮化〉」
そう呟くと、足元にいたバディは手のひらサイズにまで小さくなり、私の肩の上に跳び乗った。
小さくなった彼女のアタマを人差し指で撫でると路地裏に入り、目的のカフェへと入る。
この店の店主や常連客達は、私が有名になる前から知り合っていたので1人の客として扱ってくれる。
ここではフードを被る必要は無い。そう思い頭の布に手をかけた時に、店内に見慣れぬ3人組の男達がいるのを見つけた。
明らかに輩な男達。
間違いなく一見さんだろう。
「うわっ……」
思わず声が漏れてしまった。
その声が聞こえたのか、白髪の老店主が私に気づきカウンター席に案内してくれた。
「タイミングが悪かったねえ? いつもこの時間帯に初めての人はあまり来ないのにねえ?」
「本当によ。 マスターいつものお願い」
「はい、承りました」
老店主は待っていましたとばかりにコーヒーカップを私の前に出すと、それにスプーン山盛りの砂糖を5回入れてそれを混ぜる。
最早、主役がコーヒーなのか砂糖なのか分からない程どろどろとしたコーヒー(?)を一口飲む。
「ん、砂糖が少ない。後2回ぐらい追加で」
「本気かい? 」
「本気」
「病気になるよ? 」
「これはゲームの世界の話だから関係無いわよ」
「ははは、そうだったね」
薄く優しい笑みを浮かべながら、追加の砂糖を入れて混ぜてくれる老店主は、"どろどろ"から"ドロッドロっ"になったコーヒーを混ぜる事に苦戦している様子だった。
「聞いたかよ! 8位を返り討ちにした初心者の話! 」
その時、後ろからそんな声が聞こえた。
あの男達の一人の声だった。
内心うるさいなと思ったが、自然に耳の中に彼らの声が入ってくる。
「8位って、あの戦闘狂の〈蛇剣〉か?」
「そうそいつだ、巷じゃ、3人目の超ダンジョンクリア者の可能性がある者って言われてるらしいぞ」
「ん? 3人目はもう出たぞ? 毒のステージのヤツは4位のリトマスって奴がクリアしたらしい」
「マジか、なら4人目だな」
「えーっと、クリアされた超ダンジョンって『水』と『毒』と何だっけ?」
「不明だよ、1位がクリアしたと伝えられているのは『謎』のステージ」
「出た、色々とぶっ飛んでると噂の1位、何だっけ名前」
「確か名前は、─────ホームズだ」
その話を聞いて思わずため息が出た。
一体どこからその情報が出たのだろうか。
私が『謎』のステージの超ダンジョンをクリアした事は誰にも伝えていなかった筈だ。
「相変わらず人気者だね、ホームズちゃんは」
「そんな事ないです」
頬を軽く膨らませながらジト目で答えてしまった。
「謙遜する事無いと思うよ? 1位なんでしょ? もっと胸を張らないと」
そう言いながら、私の前にコーヒーを置いてきたので一口飲んでみた。
「……甘さが足りない」
「頭おかしいよ」
初めて老店主が毒を吐いた瞬間だった。