7羽・攻撃スキル
「え、対戦依頼受けてくれんの? ノリいいじゃんお前! 」
「いや、受けない。絶対受けない。必ず受けない。断じて受けない。本当に本気で受けないから! 」
「そう言われてもなぁ…… 対戦依頼が許可されましたって表示されてるんだが?」
「運営が! 運営が私をイジメてるの! 」
「何を言ってんだお前? 」
半目になりながらも、クルミは私達との距離を詰めてくる。
「マンバ、スキル2・〈武器化・モデル剣〉」
クルミがそう呟くと、腕に巻きついていた蛇が激しく光を放ち、剣へと姿を変えた。
〈蛇剣〉─────彼が名乗っていた異名の意味が分かった気がした。
「あの〜 もしかして、ガチで戦う気ですか?」
「当たり前だろ」
「私は女です」
「関係無いな」
「実質プレイ初日ですよ」
「それはさっきも聞いた」
「わた──────
「関係無い」
「
「関係無い」
「ガチの戦闘狂じゃないか! クソ! 〇ね! 」
「ハッ、口が悪いなぁ、 俺はそんな女が結構タイプだ」
口を動かしながらも必死に頭を回した。
どう足掻いても私は彼には勝てない。技術的にも経験的にも、何より能力的にだ。
戦って勝てないならどうすれば良いか。
答えは1つ。
「グインちゃん逃げて!」
私が叫ぶと同時に、グインちゃんは男とは逆の方向に駆け出した。
そこまで早くは無いが、私がグインちゃんを抱えて走るよりは、はるかにマシだ。
このゲームの対戦システムがどのような物なのかは分からないが、勝てない勝負をする気は無い。
何よりも、グインちゃんに痛い思い、苦しい思い、辛い思いをさせたく無かった。
「スキル5・〈筋力強化〉、スキル7・〈毒牙〉発動。逃がさないぞ」
後ろから男の声が聞こえた。スキルを発動したようだが気にしていられない。とりあえず彼から距離を取る事が優先だ。
私は身を潜める場所を探す為に顔を上げた。
「どこに行くんだい?」
吹雪の音に紛れてそんな声が聞こえた。
それと同時に視線の先。およそ10メートル先に赤髪の男の姿を捉えた。
彼は剣を掲げるように持ち上げると、それを力強く振り下ろす。到底届くはずの無い攻撃
─────なのに、こちらに向かって紫色の斬撃が向かってきた。
「ッ! グインちゃん避けて! 」
半ば叫び声のような私の指示を聞いて、グインちゃんが間一髪の所で避けてくれた。
しかし、そこを狙うように再び紫色の斬撃が襲いかかってくる。
「卑怯者! 遠くからイジめるな!」
「すまないな、コレが俺のプレイスタイルだ」
「お前最低だな! 処〇相手に背面〇位で処〇膜破って〇出しするタイプだろ! 」
「例えの意味が分からないが、手加減しているつもりなんだが?」
「嘘つけ! ちゃんと近くに来て戦え! 」
「…………いいんだな?」
「あ─────」
しまった、と思った時にはもう遅かった。
一瞬で私の目の前にやってきた男は構えを変え、突きの構えを作った。
「スキル6・〈雷牙〉発動」
彼の持つ剣に青白い光が走った。
バチバチという不快な音を立てながら、どんどんと光は強くなっていく。
「あー! 待って! 私が悪かったから許して! アンタ強いマジ最強! お願いします! 見逃して! グインちゃんは攻撃スキル持ってないの! 」
「関係無い」
「あー 最悪。お前マジ最悪最低ゴミ、初心者イジめるカス! 〇ね! 〇ね! 〇ねぇ!!!」
容赦は無かった。
無言で放たれる雷の剣。
だが、
「なに、これ?」
その攻撃が私達に当たる事は無かった。
理由は明確。私達と彼との間に青色の氷の壁が作られていたのだ。
『"グイン"は、スキル〈氷壁〉を覚えました。スキル4が空欄の為、そこに自動的にセットされます。』
「ぐ、グイン、ちゃん?」
顔を上げると、グインちゃんは誇らしげな笑みを浮かべていた。
「グインちゃん大好き! 愛してる! 私を守ってくれたのね? も〜惚れ直させないでよ〜 」
軽くもふもふの体をつつくと再びウィンドウが2つ現れた。
『"グイン"は、スキル〈天候操作・雪〉を覚えました。スキル5が空欄の為、そこに自動的にセットされます。』
『"グイン"は、スキル〈氷爪〉を覚えました。スキル6が空欄の為、そこに自動的にセットされます。』
「おーーー! しかも攻撃スキル覚えたの! 神すぎるよ! 」
視線をグインちゃんから氷の向こうにいる男に戻すと、私は無意識の内に不気味な笑みを浮かべていた。
未だに氷に傷一つつける事ができていない様子だった。
「よし行くよ! 」
腰から小刀を取り出すと、それを構えて男を睨む。
「これ終わったら沢山愛し合おうね! グインちゃん! 」