4羽・死んで償います!
「このサイズが何かヤバいんですか? 適当に5にしちゃったんですけど」
「て、適当にって! アンタ攻略サイトとか見ない派の人間? はぁ…… まぁいいわ、説明してあげる」
そう言って、お姉さんは自分の足元にいた白いキツネの頭を撫でた。
それと同時に低い効果音が鳴り、ステータスウィンドウが現れた。
『
種名・キツネ
ニックネーム・タマモ
属性・-
★★★★★
レベル・28
サイズ・3
スキル1・『妖火』
スキル2・『黄昏』
スキル3・『分身』
スキル4・『合成進化』
スキル5・『九連宝燈』
……
スキル15・『天照』
』
「これを見たら分かると思うけど、私のタマモちゃんでもサイズは3なの。そもそもサイズって言うのは、プレイヤーの持てる量を表していて、最大値は5なの」
「うん? ……結局、ペンギンちゃんのサイズが5だと何かまずいんですか?」
「あー 簡単に言うとね、アンタは常にバックがパンパンの状態って事よ。ポーションとか持っていけないし、予備の装備とかも持てない。素材とかも手で運んで持ち帰らないといけないっていう事。─────そのペンギンがアンタのストレージを圧迫してるから」
「あ、お姉さん、今"ペンギンちゃん"改め"グイン"を貶したな! 許さない! 」
「いや事実だから、と言うか、アンタこのデータのままプレイするつもり? 絶対リセットして初期からした方が、これから先は楽だよ? 」
「リセットって、グインと別れるって事ですか? いや、〇すって事ですか!? 」
「あーもう! すぐに叫ばないでよ! そうよ! リセットしたらペンギンは死ぬわ」
「そ、そんな事できる訳が無いじゃないですか! 私とグインの絆はマナリア海溝より深いのだから……」
グインを抱えている腕に力を込めて、自らに近づけて頬を擦る。
(あ〜 もふもふ マジ最高〜 )
「え、いやいや、アンタ今日が初プレイじゃないの? 」
「うっさいわね! 私とグインの絆は、私のパパとママがセック〇した瞬間から決まっていたのよ! 」
「そこまで好きなら別に何も言わないけど……本当にいいの? 相当大変よ? 」
「構いません」
強く言い切った。
自分でも、何でこんなにグインの事を愛おしく思っているかは分からない。だけど、彼と別れる事は死よりも辛い事だと思ったのだ。
私は、お姉さんに真剣な眼差しを向けた。自分の固い意思を伝える為に。
「……そんな真剣な目をされても、頬擦りしたままだと馬鹿に見えるわよ」
「この"もふもふ"には抗いがたい誘惑があるんですっ!」
「そう」
彼女は素っ気なく答えると、私に近付いて1本の小刀を差し出してきた。
「え?」
「あげるわ。私が初心者の時に使っていた物だけど」
「でも、私は装備ができないじゃ?」
「装備は別口よ。予備の装備とかはストレージ扱いになるけど」
そう言って小刀を手放したので、地面に落ちる前に慌てて両手で受け止めた。
すると甲高い効果音と共に、『〈ホームズ〉さんから"小刀"を受け取りました』とウィンドウが現れた。
小刀は1度光の粉になると、私の腰辺りに止まり、再び形を作った。
「ホームズさん、ですか?」
「ええそうよ、ラムネちゃん」
どうやら彼女には、私の名前が書かれたウィンドウが現れたようだ。
「あ、ありがとうございます」
「何照れてんのよ」
お姉さんは微笑みながら、地図のある部分を指さした。
「ここは氷属性のステージよ。普通はレベル上げの為に有利属性の水属性のステージに行った方がいいと思うけど、サイズ5ならスキルを早めに覚えた方がいいから、こっちがオススメよ」
「サイズが大きい事にメリットってあるんですか? 」
「一応あるわよ。バディは、1サイズにつき5個スキルを覚える事ができる。つまり、アンタのペンギンは25個もスキルを覚えられるのよ。スキルが多ければ、それだけ戦術も多くなるし、戦略も広がる。────まぁ、流石に25個は多過ぎる気しかしないけど」
「ま、マジか! 凄い、凄いよグイン! 」
私は興奮しながら、足元に目をやった。
「……え゛?」
そこには、何故か痛そうにお尻をさすっているグインの姿があった。
「え、えっ! ぇぇぇぇぇぇぇぇえ! どうしたのグイン! 」
慌てて視線を合わせるためにしゃがみ込み、頭を撫でる。
「どうしたの? 何があったの? 」
目をうるうるとさせながら、無言で私を見てくるグイン。
「え、アンタ気が付いて無かったの?」
変わりにホームズさんが答えてくれた。
「私から小刀を受け取る時、ペンギンから手を離して受け取ったじゃない」
(!)
いや待てよ。
おい、
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい
「ァァァァァァ! ごめん! ごめんねグイン! 痛かったね、辛かったね、苦しかったね、 ……待っててね、私今から死んで償うから! 」
「は?」
私は腰から小刀を抜くと、それを自らの喉元に向かっ─────
「ちょい待てーーーー! 」
「やめて下さいよ! 私は! 私は! 死んで償わないといけないからぁ!!!」
「いやガチで落ち着けよ! ちょっ、痛い! 痛い痛い! 私を、私を刺してるよアンタ! ねぇ、あ、お、おーーーい! 誰かーーー! 助けてーーー! 」
広場にホームズさんの叫び声が響き渡った。