3羽・初めまして!
「おぉ!」
思わず驚きの声を出してしまった。
目の前に広がるのは、中世ヨーロッパをイメージとした街並み。
所々に最新鋭の機器が置かれているが、それも良い味を出していて独特の世界観を作り出していた。
「これがアボカドの広場かー 結構クオリティ高いじゃん」
周囲を見回すと予想以上に人のが多く、皆が傍らに何かしらの生き物を連れていた。
その中でも圧倒的にドラゴンを連れているプレイヤーが多く、次にイヌと言った感じだ。
パッと見た様子だと、ペンギンを連れたプレイヤーは私以外には見当たらなかった。
「すげぇ……」
事前に調べた攻略サイト通りの光景に、声が震えてしまった。
様々な生き物が、様々な装備をしてプレイヤーと過ごしている光景。
「やっぱアボカドは神ゲーだよ」
その時、足元に包み込まれるような感触がした。
覗き込むように下を見ると、ライトブルーの超愛玩可愛過生命体が私の右足に抱きついている。
「ん? どしたのペンギンちゃん? 」
彼(?)は、小刻みに震えながら顔を伏せていたが、私の声を聞くとゆっくりとその顔を上げた。
「あ、」
その顔は怯えきった表情をしていた。
「え? 」
やがて、目が僅かに痙攣したかと思うと一瞬で涙目になった。
「……もしかして?」
すると、それを隠す様に再び顔を伏せる。
「も〜〜〜! ペンギンちゃんったらぁ!」
私は、痛みが感じる程自分の口が横に裂けている事を自覚しながらも、その最大級のニヤケ顔でペンギンちゃんを持ち上げた。
「も・し・か・し・て 怖がってるの?」
フリッパーと呼ばれるヒレの様な手の部分を使って涙を拭きながら、首を縦に激しく振るペンギンちゃん。
その行動が、その仕草が、全てが愛おしく思えた。
「アァァァァ! 可愛すぎるよペンギンちゃん! 本当に大好き! マヂで愛してるぅっ! 」
初期設定の時と同じように頬擦りをして、もふもふを存分に味わう。
「愛してるよ! ペンギンちゃん! 」
その光景を見て、広場にいた全プレイヤーが引いた事は言うまでもない。
〇●〇
「うわっ、ステージめっちゃあるじゃん」
ペンギンちゃんのもふもふを堪能した後、私は広場の隅に設置されていた地図の前にいた。
『アボ』の本来のゲームのテーマは、"オンライン育成RPG"。バディとなる生き物達と共に成長し、全てのステージやダンジョンをクリアする事が目的となっている。
ようするに、私みたいにペンギンちゃんを愛でる事は本来の目的とは少しズレているのだ。
(まぁ、そんな事はどうでもいいんだよなー 私はペンギンちゃんとふれあえるだけで満足だし)
と思いつつも、やっぱり少し気になる所もある。
攻略サイトには、育成するとバディの生き物の見た目が成長と共に変化する『進化』と呼ばれるシステムがあると書かれていた。
「……み、見た目が変化する、んだよね? 育成して、成長させて、『進化』させたら」
生唾を飲みながら、腕で抱えているペンギンちゃんを見る。
向かい合う形ではないので背中しか見えないが、そのシルエットだけでも十分過ぎる程可愛い。
「『進化』したらどうなるんだろう……。もっとかわいくなる? それとも、かわいさが無くなりカッコよくなるのかな? いや、もしかしたら怪物とかになっちゃったり!? え! いやいやいやそれは! ……うーん、でも、それでも愛せる事が本当の愛と呼べるのでは無いだろうか! ───って何、自分に対して演説してるのよ私! ふぉぁぁぁあ!」
「ねぇ、アンタ相当キモイよ? 」
その時、私の独り言を止めるかの様に、横から女の人の声が聞こえた。
そちらに振り向くと、足元に白いキツネを連れた黒髪のポニーテールのお姉さんがいた。
しかも相当美人だ。何故かジト目だけど、
「あ、どうも、初めまして」
「あ、どうも、じゃないわよ。アンタ広場で奇声上げながら奇行してたとかいう奴でしょ?」
「あ? テメェ、私とペンギンちゃんが愛し合ってる様を奇行だと? ぶっ〇すぞ? その理論で言うならセッ〇スも奇行という事か?」
「どんな理論よ! て言うかアンタ口悪くない? 本当に女の子? 」
「ケンカ売ってんのか!? ガチガチのJKよ! 」
「ガチガチって何硬くしてのよ、ピチピチでしょ? ……本当に女子高生ならもっと言葉使いを考える事ね」
そう言いながら、お姉さんは品定めをする様な目を私に向けてきた。
「アンタ、今日が初プレイ? 」
「え、処〇ですよ? 」
「……そっちの話じゃなくて『アボ』の話よ。見た感じ装備も何も付けていないみたいだし」
改めて見ると、お姉さんの身体には所々に防具の様な物が付いていた。
足元にいる白いキツネにも、似たような装備が付けられている。
「あ〜 確かに初プレイですね。 そういう装備はどこで買えるんですか? 」
「広場の装備屋とかでも買えると思うけど、それより自分でダンジョンとか攻略して、素材を集めて、鍛冶屋に作ってもらった方が安くすむわよ」
「ダンジョン、ですか? 」
「えぇ、各ステージに小ダンジョンが100、中ダンジョンが50、大ダンジョンが10、超ダンジョンが1つずつあるわ。まぁ、初心者なら小ダンジョン一択だと思うけど─────」
チラリと私のペンギンちゃんを見ると、彼(?)のくちばしに軽く触れた。
……。
(え? は? )
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ! 変態! クソビッ〇! 私のペンギンちゃんに触れないで! 汚らわしい!」
「ちょっと過剰過ぎるわよ、ステータスを確認しただけじゃない」
「ふぇ?」
低い効果音と共に、ペンギンちゃんの頭の上にウィンドウが出てきた。
『
種名・ペンギン
ニックネーム・未設定
属性・氷
★☆☆☆☆
レベル・1
サイズ・5
スキル1・『属性付与』
スキル2・
スキル3・
スキル4・
スキル5・
スキル6・
……
』
「こんな機能がある事は知らなかったなー ……ってニックネーム付けられるの!? マジか急いで付けないと!」
慌ててペンギンちゃんに "グイン" というニックネームを付けた後、お姉さんの方を見ると、彼女は信じられない物を見るような顔をしていた。
「どうかしましたか?」
「……ありえない」
「え?」
「ありえないわよアナタ! というか意味が分からない! 馬鹿じゃないの!?」
「は? え、いやいや、いきなり罵らないで下さいよ。私、MよりはSなん──────
「そんな事は聞いてないわよ! 」
彼女は叫びながら、グインのステータスのある部分を指さした。
「これよ! サイズ5って何!? 」
「はい?」
何故だか分からないが、お姉さんは激怒していた。