1羽・アボカドとかいう神ゲー
一応補足として、主人公の薫は女の子ですよ……?
「あっあっあっあっあっあっ」
私は奇声を上げながら、震える手で、目の前の黒い生命体に触れた。
その行動に対して、黒い生命体は、つぶらな瞳を私に向けてくる。
「アアアアアアアアアアアァァァァァッッツ!!!」
そして叫んだ。
「ちょっ、ちょっちょっぉぉぉいい!!! え? 待ってください! 待って待って待って、……嘘、可愛い過ぎんだけど? え? ヤバない? 」
誰に向かって話してんだよ、とか聞かないでくれ。
独り言だよ。気にしないでくれ。頼む。
簡単に言うと、それくらいの『変人』になるほど私は狂喜乱舞しているのだ。
「……マジヤバいんだけど…………」
詳しい話をするために、少し時間を遡ろう。
「マジ可愛いんだけどぉおぉぉおおおお!!!」
〇●〇
「へぇー、今はこんなゲームが流行ってんのね」
深夜0時過ぎ。私はいつも通りネットサーフィンをしていた。
親が寝静まったタイミングにするネットサーフィンには、抗い難い誘惑がある事は言うまでもない。
自分が順調にインターネット中毒になっている事には、もちろん気付いてはいるが、それでも止めるつもりは毛頭ない。
「『ANIMAL BUDDY ONLINE』、略して『アボ』か。……きもっ」
その略称のセンスの無さに思わず鼻で笑ってしまった。
「アボカドみたいな名前しやがって。こんなクソゲーしてる暇があるなら、成人向けのVRエ〇ゲでもしてオ〇ってた方が有意義な時間過ごせるわ」
そう言ってブラウザバックをする一瞬前。
私の視界の端に黒い何かが写った。
「!」
それはゲームのパッケージの端に描かれていた。
それはデフォルメされたキャラクターだった。
そして、それはペンギンだった。
「え、可愛いい」
思わず呟いていた。
そのぽっちゃりとした体型も、そこから見える小さく黄色い足も、身体と同じサイズの顔も、つぶらな瞳も、全てが私好みだった。
「はっ! ヤバいよアンタ! 私のタイプ過ぎる! 待っててね、絶対会いに行くから! 」
画面に向かって叫びながら、私は購入ボタンを押した。
それも即日発送のやつを、だ。
「ごめんねクソゲーとか言っちゃて! 神だよ! 神ゲーだよアボカド! 大好きアボカド! 」
風呂上がりの髪を乾かす為に巻いていたタオルを解くと、それを手に持って振り回しながら私は再び叫んだ。
「よっ! アボカド世界一! 全ゲームの王様! 神ゲー神ゲー大神ゲー! 大好きアボカド! か───
その時、私の部屋の扉が勢いよく開けられた。
「うるさいわね薫! 何時だと思ってんの!」
「…………すいません。いや、本当に」
そこにいたのは母親だった。