本編
それはあるよく晴れた午後の事だった。
「小春日和」は秋に使う言葉だが、関係なくそれが口に出るほどの非常に穏やかな陽気。
昼食後ということもあり、先生すらもどこか眠気の感じられるのんびりした口調で、午後の授業は行われていた。
授業といっても、今日はお休み。
任意で集まった者達による、学力向上の為の補講だ。
田舎都市に唯一あるこの高校は、基本的に周辺地域の子供を皆受け入れる態勢にあり、生徒の学力レベルに差があった。
進学を希望する田舎の子供達を、わざわざ高校から遠くにやりたくないという親心から創立された高校なので、補講には力を入れている。
その日集まっていたのは2年生が40人程……どこからか迷い込んできたチベットスナギツネの世話をする係の須長 正樹もその一人だ。
──いや前から思ってたけど何で僕チベットスナギツネの世話してるんだろう!? そもそも日本にチベットスナギツネっていたっけ!?
疑問は残るが情が移ってるから仕方ないのだ……
それにあんな顔(※チベットスナギツネで検索推奨)で見つめられては、尚仕方がない。
なんだかんだ献身的に世話をしている正樹は、朝早くから登校している。
そんな正樹も当然ながら、穏やかな陽気にうつらうつらとしていた。
よく晴れた青い空……
やわやわと頬を撫でる優しい風に吹かれながら、平和な気分でボンヤリと空を眺めた
その時だった。
ドゴォォォォォンッ!!
「うわぁぁぁっ?!」
「なんだ!?」
騒然となる教室。
轟音のした方を窓から見ると、校庭に砂煙がたっている。
謎の円盤。
そこから現れた男はこちらを見たと思うや否や、一瞬にして消えた。
ガラッ!
「はい皆さんこんにちは!」
窓から外を見ていた正樹らの後方……教室扉のところには先程の男がいる。
「混じりっ気のない不審者キタッ!!!」
──つ、通報しなきゃ!!!(使命感)
動揺する先生、生徒達をよそに、男はこう宣った。
「俺の名は宇宙探偵。
今日も宇宙の謎を解き明かす」
「お痛さん!!」
──完全にお痛さんだこの人!!!
「てか宇宙探偵が名前なの!?」
──それは職業じゃないの!? まあ、そんな職業はないけどねッ!!!
「宇宙探偵……だと?
そんな宇宙の探偵が何の用だ!」
「そうだそうだ!」
──言ってやってください先生!
しかし先生はなんだかソワソワしながら脂汗を大量に流しつつ眼鏡をかけたり外したりを繰り返している。
「せ、先生!?」
──頼みますよ! 今この場にいるまともな大人はあなただけなんですからね!?
「よくぞ聞いてくれた……俺の目的……それは宇宙嫁の依頼により蒸発した宇宙旦那を探しに来たのだ!」
「宇宙って付ければいいと思ってるだろ!!?」
──宇宙要素ゼロじゃねーか!!
「そして宇宙旦那は…………この中にいるッ!!」
「まさかの展開!!!」
──てかここにいるのは、ほぼほぼ学生ですけど!?
「そして宇宙嫁も……この中にいるッ!!」
「それはおかしいだろ!!?」
──当事者全員いるじゃねーか!?
だったら自分で見付けろよ!
「そして蒸発の原因となった宇宙嫁姑問題……」
──とりあえずもう、『宇宙』は取ろうよ!
問題の規模が名前負けしてるよ!
「宇宙姑は反省している。『もうおかずがしょっぱいとか言わない』と。そして火種にされた宇宙息子も言っている『バパ帰ってきて』と……」
教室中がしんみりとした空気に包まれる。
──あれ!? これ僕がおかしいのかな!?
全然しんみりと出来ないんだけど!?
むしろそれしきのことで家を出た宇宙旦那に怒りさえ湧いてるんだけど!?
「そしてそのふたりもまた人間に擬態しているッ!!」
──もうお腹いっぱいッッ!!!!
全員いるじゃんッッ!!!!
「逆に聞きたい、誰がいないの!!?」
そこへ、一人のクラスメイトが歩みでた。
「パパいい加減帰ってきて!!」
それはクラスでも鼻持ちならない金持ちで有名な、金光君であった。
「えーーーー!?!?!?」
──鼻持ちならない金持ちで有名な金光君が、う、宇宙人ーーー!?!?
「パパを探しに来たせいで愛しの宇宙ハニーから宇宙婚約破棄される危機なんだ!」
金光くんは涙ながらにそう訴え、隣の生徒に掴みかかる。
「金光落ち着け! 俺は宇宙旦那じゃないズェ!」
「もう何が何やら!?!?」
──今の彼の語尾も何か個性的だし、いろいろ盛り過ぎだよッ!!
金光くんに掴みかかられた、ヴィジュアル系の『TERU』こと、照橋くんは、宇宙旦那であることを否定した上でこう続けた。
「俺は宇宙インディーズバンド『YOU☆F☆OH!』のTERU!!」
──自重してよッッ!!!!
最早乗車率200%の満員電車状態なんだよッ!!!
何でまだこの状況で駆け込み乗車してくるの!!?
「お前の哀しみを唄ってやろう……!」
そしてTERUこと照橋くんは、徐にギターを取り出すフリをした。エアギターである。
「いやあぁぁぁぁ!!TERU!!私以外の為に歌わないで!!そんなギターこうしてやるぅ!」
今まで隅の方でひっそりとしていた眼鏡のみつあみ真面目女子、通称『委員長』の田中さんが奇声を発しながら照橋くんのギターを壊すフリをした。
フリなのは、エアギターだからである。
──今まで隅の方でひっそりとしていた眼鏡のみつあみ真面目女子、通称『委員長』の田中さんまで……
「ちなみに委員長ではない委員長田中さんは「宇宙ストーカー」だ」
「宇宙ストーカー!?!?!?」
──今までで一番ヤバそうなのキタッ!!!
「もうお終いだ……もう誰も信用出来ない……」
そんな正樹の荒んだこころを癒してくれるのは、最早チベットスナギツネよりいない。
「俺は誰のモノにもならないんだズェ……!」
そう言ってTERUこと照橋くんは、エアギターを掻き鳴らす。
「ぎゅいぃぃぃぃん!」
「きゃあぁぁぁぁぁ!! TERUゥゥゥゥ!!」
照橋くんのエアギターが炸裂すると、田中さんは興奮のあまり、胸の上で手を組んだまま後ろに倒れた。
「なんて面白い倒れ方だ! 是非僕らの宇宙漫才にも使おう!!」
「メモメモ」
倒れた田中さんをスマホカメラで激写しながら盛り上がる高橋くんと板橋さん。
──もう後は勝手にやってくれよッ!!
てか今気付いたけどうちのクラス○橋って名前多いな!?
そこに現れるチベットスナギツネ。
「どうやって入ってきた!?!?」
──檻に入れられてたはずだけど!?
事態は混迷を極めつつあった。
「結局宇宙旦那は誰なんだ?! いい加減出てこい!!」
宇宙ぽっちゃりである事が判明したおにぎり大好き山下くんが叫んだ。
──最早宇宙ぽっちゃりくらいじゃ動じなくなった自分が怖い……
「きゅーん……」
チベットスナギツネは例のなんとも言えない表情を湛えたまま、こちらを見ている。
「きゅーん……きゅきゅーん」
どうやらなにかを訴えているようだ。
チベットスナギツネは徐に宇宙ぽっちゃり山下くんに近付くと、彼が机の中に隠し持っていたおにぎりを食べ始めた。
「ああっ! それは英語対策用のほんやくこんにゃくならぬ、ほんやくおにぎり!」
なんとそれはほんやくこんにゃくならぬ、ほんやくおにぎりであった。
人語を解するようにチベットスナギツネはこう言った。
「うん、なかなか美味いでやんす」
──もう帰りたいッ!!!
ツッコミ所が多過ぎて、完全に回線がパンクしてるッ!!
あれよあれよという間に、教室は宇宙人でいっぱいになった。
「フッ……成程、これはわかりやすい……宇宙人だと判明してない数人、この中に宇宙旦那と宇宙嫁と宇宙姑はいる!!」
──正直もうどうでもいいッ!!
ほとんどのクラスメイトが宇宙人だったという事実がまだ消化出来てないッ!!
正樹がそう心で叫ぶなか、先生は相変わらず脂汗を流しつつ、眼鏡を弄っている。
「この宇宙探偵の見立によると……犯に……げふんげふん、宇宙旦那は…………
お前だ────!!!!」
宇宙探偵は背中を反らし気味に、額に右中指をあてるという探偵っぽいキメッキメのポージングで……
正樹を指差した。
「ぼ、僕ーーーー!?!?!?!?」
──まさか過ぎる展開!!
こいつはとんだポンコツ探偵だ!!
いや、ポンコツ宇宙探偵だッ!!
「正樹……お前だったのか!」
「道理で私より鋭いツッコミをすると思ったわ!」
と宇宙漫才コンビ高橋くん板橋さん。
「正樹が……パパ……!? はっ! 言われてみれば滲み出る溢れる父性!」
と宇宙ドラ息子金光くん。
「親子の感動の再会を、唄にするズェ! ぎゅいぃぃぃぃん!」
エアギターを掻き鳴らす宇宙インディーズバンド『YOU☆F☆OH!』のTERUこと照橋くん。
「おにぎりうめぇ」
モグモグしながら宇宙ぽっちゃり山下くん。
ちなみに宇宙ストーカー田中さんは気絶したままである。
──いろいろ言いたいことはあるけど、個人的には山下くんが一番イラッとした!
そしてチベットスナギツネは言う。
「帰ろう……森へ……」
「僕は家に帰りたいよッ!!」
──温かいお風呂に入って、温かいお布団で寝たいよッ!!
「あなた……ようやく家に帰る気になってくれたのね?」
とうとう宇宙嫁の登場か……!
そう思い、見た相手に皆が動揺を隠しきれなかった。
宇宙嫁はクラス一の美少女である、星野さんだったのだ!
──おおっとおおおお!?!?!?
こうなってくると話は変わってくるね!?
星野さんが奥さんになってくれるなら、宇宙旦那として生きていくのも、アリよりのアリかもしれないッ!
「もう……離さない……!!」
宇宙嫁星野さんは美しい黒髪ロングヘアーをたなびかせながら、それと一緒に触手を背中から出した。
──前言撤回ッ!!!
触手嫁はちょっと!!?
宇宙嫁はまだしも、触手嫁はハイレベル過ぎるっすッ!!!
正樹に迫り来る触手……
だがそこに割って入った者がいた。
「え……」
それは──
「先生? な、何で先生が……」
──もしかして、先生が……!?
「俺の生徒に……手は出させない!!」
「……まさか! 先生が旦那様?!」
「はっ! そういえば様子が変だった!!」
口々に皆が『先生が宇宙旦那では』という言葉を発する中、チベットスナギツネは言った。
「宇宙旦那はこの人でやんす。 匂いでわかるでやんす」
その相手とは……
宇宙探偵、その人であった。
──は、はああああああ!?!?!?!?
「ちっ! バレてしまったか!! ……アバヨ!」
捨て台詞を吐き捨て、宇宙探偵……いや宇宙旦那は走り去る。
気が付くと宇宙旦那は円盤に乗り込んでいた。
「道理で……! なかなか息子を見つけ出さないポンコツ探偵だと思ったわ!! 貴女……どうしてわからなかったの?!」
宇宙嫁を見ていきり立つ、宇宙姑こと大和撫子で有名な石田さん。
「まあお義母様! ブーメランですわ! 第一『探偵に頼もう』って言ったのはお義母様じゃなくて?!」
突如勃発する、嫁姑戦争。
──他所でやってくんないかな!!?
茶番度合いだけは宇宙クラスだったよ!!!
「そんな場合じゃないよ! パパを捕まえなきゃ宇宙婚約破棄されちゃうだろ!?」
宇宙ドラ息子、金光くんの一声で、皆急いで校庭に向かう。
宇宙嫁星野さんも、宇宙姑石田さんも、宇宙漫才師高橋くんと板橋さんも、宇宙インディーズバンドのTERUこと照橋くんも、宇宙ぽっちゃり山下くんも、他生徒も、チベットスナギツネも、宇宙船にアブダクトされた過去から宇宙人にトラウマがある先生すら。
「むにゃむにゃ、もうお腹いっぱいだよ……」
宇宙ストーカー田中さんだけはまだ倒れている。
どうやら素敵な夢を見ているようだ。
「ハァ……絶対転校しよ」
ゴゴゴ……
鈍い音と砂煙を立てながらも、円盤はなかなか飛び立たない。
──ん? どうしたんだろう?
正直もう、さっさと帰ってほしいんだけどな。
どうやら円盤が壊れてしまったようだ。
──あれ!? もしかして、この展開は……
そこに満を持して現れる、宇宙リフォームの匠。
「いや思ってたのと違ったわ!? てっきり漫画とかによくある、『へへ、円盤が壊れて帰れなくなっちまったよ。これからはこの星でやっかいになるぜ!』的なやつかと!?」
宇宙リフォームの匠、高梨くんは円盤の素材の良さを褒めたあと、難しい顔をする。
「折角のよい素材も、コレは酷いですねぇ……もう梁がボロボロではないですか」
「梁!? 円盤にも梁ってあるの!?」
宇宙リフォームの匠こと高梨くんは、暫く悲し気に円盤を眺めるも、すぐにビームサーベル的なモノで大胆に円盤をカットし出した。
「とりあえず4人家族仕様にするには、この方法しかありません。 ですが大丈夫、ここをこうしてああすると、あら不思議……家族が増えても8人までは対応できます」
「リフォーム過程が雑ゥ!!」
「「「「宇宙なんということでしょう!!」」」」
「宇宙なんということでしょう!?!?!?
もう言ったもん勝ちみたいになってるね!!?
宇宙って何だっけ?(哲学)」
そうして四人は宇宙へと帰っていった。
固い握手と共に、宇宙リフォームの匠、高梨くんに礼を言って……
──高梨くん……美味しいところ持ってくなあ。
そして日常は続いていく……正樹と先生以外、宇宙人であるという事実を残して。
ちなみにチベットスナギツネは、ふんをしたら人語を喋らなくなった。宇宙との絡みは謎であるが、時折「やんす」と言うらしいことが、学校の七不思議に加えられた。
相変わらず世話をするのは正樹の役目だが、正樹は決めたことが1つだけある。
もうどんなに空が青くても、平和な気分で眺めたりはしない……と。
そして、宇宙ドラ息子金光くんが宇宙婚約破棄されたかどうかは……誰も知らない。
宇宙は今日も、数多の謎に包まれている。
※誤字報告、ありがとうございます!




