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境界守  作者: 琥珀猫
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- 始まりのはじまり - (5)

 そうしてすべての【境界守】は少し寂しげに、だが愉しそうに己らが造った数多の道を消そうと……消そうとし……?

 『のう、此岸の者よ。どの道を残せばよいのやら、ちとわからぬのだが……。いかがしたものか……』

 造り過ぎたがために、どこがどこへ繋がっているのかまったくわからなくなり、どうすればよいかと、恥ずかしそうに告げてきた。

 ≪では、少々お手伝い致しましょうか≫

 愉しげに笑いながら、“ぽんっ”と一拍手が鳴り響く。

 ふわっと緩やかな風が【境界】に流れ、造った数多の道を吹き抜けていった。しばらくすると、風が通らない道が増えてきた。

 ≪風が吹き抜けている道が残すものです。それ以外の道を閉ざして頂けましょうか≫

 『うむ、礼をいう』

 こんなにも造ったかと呆れながら、名残惜しそうに彼らは一つ一つ丁寧に消していく。

 たった一本だけ残った町の【境界】へ通じる道を見つめながら、村の【境界守】は呟いた。

 『我はいつ、この道を通ればよいのだ』

 だが、道は一本しかないため、その問いに応えてくれる声はほとんど聴こえない。同じことを他のものも思った。とりわけ聖域の【境界守】は、苛立ちを隠そうともせず、がなり声を大きく響かせた。

 『此岸の者よ! 我はいつそなたに使いを出せばよい! どのように出せばそなたのもとに届く! 我には此岸の時の流れなどわからぬわっ!』

 ≪……では、このように……≫

 幽かな応えが返ってきた。

 【境界】の中はあえて色別するなら乳白色……だろうか。【魂】や【想】には色があるが極々淡い。それは【境界守】も同じである。ほとんど単色でやや薄暗い中である。

 此岸から声が返ってきた瞬間、小さな光の玉が一つ、此岸からすべての村の【境界】に入ってきた。

 赤子が握れるほど小さな光の玉は、しばらくの間漂っていたが、少し大きくなるとぼわんっと二つに割れた。

 一方は此岸との出入り口の片隅に留まった。もう一方は一本だけ残った町の【境界】へ通じる出入り口の片隅に留まり、またぼわんっと二つに割れた。

 一つは吹き抜けている風に乗るようにふわっ……ふわっ……と町へ渡っていき、一つはそのまま留まった。

 村の【境界】の中には二つの小さな光の玉が、ぽぅ……ぽぅ……と緩やかに明滅する。

 村から渡っていった光の玉は、近い場所から順に町の【境界】に入っていくと、通ってきた村との出入り口の片隅に留まり、ぼわんっと二つに別れた。

 一方はそのまま留まり、一方は漂っている。二つめの村からきた光もまた、留まる光と漂う光の二つに別れた。

 すると、留まっていた二つの光がすすすっと近寄ってきて、こつんとくっついた。同時に二つの村の出入り口もこつんとくっついた。

 漂っていた二つの光はすーっと寄ってきて、ごちんとぶつかり一つの光の玉になった。

 三つめ、四つめと入ってきて、ぼわんっと別れて、こつんとくっつき、ごちんとぶつかり一つになる。

 此岸の一つの町に属するすべての村の【境界】から渡り終わると、漂っていた光の玉は、一本だけ残った国の【境界】へ通じる出入り口の片隅に留まり、ぼわんっと二つに別れた。

 片方はそのまま留まって、片方はふわっ……ふわっと風とともに国へと流れていく。

 町の【境界】の中の二つの大きさが少し違う光の玉は、ぽぅ……ぽぅ……と緩やかに明滅する。

 町から流れていった光の玉は、此岸の一つの国に属するそれぞれの【境界】へ流れ込み、町との出入り口の片隅に留まり二つに分裂した。

 一つはこつん、こつんと他の町の出入り口に留まっている光とくっつき、一つはごちん、ごちんと漂っている光同士でぶつかり一つになる。

 町から光の玉が流れなくなると、漂っていたものが少し大きくなりぼわんっと二つに、さらにぼわんっ、ぼわんっと四つに分裂した。

 そして、四つの聖域の【境界】へ通じる出入り口の片隅に一つずつ留まるとまたぼわんっとそれぞれ二つに分裂した。

 分裂した片割れは、それぞれの聖域へと渡っていく。留まっていた片割れたちは、すすすっと近寄ってきて、こつん、こつんとくっつきあった。

 国の【境界】の中に二つの小さな光の玉が、ぽぅ……ぽぅ……と明滅する。

 国の【境界】から渡っていった小さい光の玉は、近い場所から順々にそれぞれの聖域の【境界】に流れ込むと、通ってきた国との出入り口の片隅に留まり、少し大きくなりぼわんっと二つになった。

 一つはそのまま留まり、別の国の出入り口に留まっている光にすすすっと近寄って、こつん、こつんとくっついていく。同時にすべての国からの出入り口もくっついた。

 もう一つはあたりを漂って、別の国の片割れにすーっと寄ってきて、ごちん、ごちんとぶつかって一つになった。

 漂っている小さな光の玉が一つになると、ただ独り坐して目を見開きこの光景を見ていた聖域の【境界守】の方へ、ふわっ……ふわっ……と近づくと、少し大きくなりころんっと色のついた石となって、何も触ることのできない【境界守】の手の中にぽとんと納まった。

 聖域の【境界】の中に、小さな一つの光の玉が、ぽぅ、ぽぅと明滅する。

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