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境界守  作者: 琥珀猫
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- 始まりのはじまり - (3)

 幾年月も過ぎた頃――。

 【境界守】たちは坐すことに飽きていき、徐々に狂い始めていくものがいた。見向きもされず、言葉も交わさず、独りでいることに耐え切れなくなってしまったのだ。元は術師であったものは特に……。

 だが、彼らを撰した人間や神はなにもしなかった。【境界】に異変が起きなければ、それだけで満足だったからだ。

 否、神はまだしも人間には、【境界】を認識できる者が少なくなった。ただ在るだけの、生きていく上で何の役にも立たぬ場所。むしろ新たな土地を欲する人にとっては、どうすることもできぬ厄介で邪魔な場所、と考えられるようになったのである。

 比較的冷静さを保てていたある【境界守】は、独り坐しながらふと考えた。

 【境界】とは個として存在し場所も規模も様々であり、繋がりのないものであると認識されている。だが、彼岸と此岸を繋げるように、【境界】同士も繋げることができるのではないか……と。

 ものは試しにと、近くの【境界】へと道を造り始めた。簡単にはいかなかったが、できてしまった。

 突如、己の坐している【境界】に穴が開き、【魂】や【想】が出てきたのを見て、繋げられたほうの【境界守】は大層驚いた。そして起きたことを理解するや喜び、我も試そうと別の場所へと道を造り始めた。

 次から次へと【境界】は繋がっていき、また一つではなく二つ、三つと別の【境界】に道を造り、とうとう一つの【境界】から存在するすべての【境界】に通じる道ができた。

【魂】や【想】は、あちこちの【境界】を流離さすらうようになったのである。

 生命あるものが時を止めると、近くに存在する【境界】を通り抜ければ彼岸へ渡れたのに、下手をするとあちらこちらと通らないと彼岸へ、そして新しき生命となって此岸にも戻れなくなってしまった。

夢から現へ覚めるのも、以前よりも目覚めにくくなった。

 数多あまたの道を造り、より多くの【魂】や【想】が通ることになった。これで辛くない、独りではない。彼らは静かに坐しながら安堵した。

 しかし……【魂】や【想】はただ【境界】を行き来するだけであり、【境界守】はただ坐して管理する(見ている)だけである。

 (これでは前と変わらない……)

 彼らは再び飽き、狂っていった。

 耐え切れなくなったものは、寿命が尽きる前に交替するだけでなく、【境界】を巻き込んで消えていくものもいた。

 いっそこのまま……、なぜ我らだけが……。彼らは嘆き、絶望していった。

 だが――。

 彼らは前以上に落ち着きを取り戻した。それどころか、【境界守】でいることに愉しみを持ったのである。

 此岸にいる、たった一人の人間のおかげで。


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