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境界守  作者: 琥珀猫
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- 始まりのはじまり - (2)

 あるとき、害のなかったはずの【境界】で異変が起こった。

 疫病や飢饉ききん、そして戦が長い間続き、生命あるものの多くが彼岸へ渡っていった。ようやくすべてが落ち着き、新たな生命が増えることを待ち望んでいた矢先のことであった。

 【魂】は此岸に戻らなくなり、【想】は夢にしがみつこうと、【境界】に留まってしまったのである。

 人間や神が乞い願い、懸命に呼び戻そうとしても、かたくなに拒んで動こうとはしなかった。それなのに彼岸からは新しい生命を次々と送り出しているため、【境界】の中はぎゅうぎゅう詰めになってしまったのだ。

 ――この状態をなんとかしなければ――

 『【境界】なんぞ不要ではないか。くしてしまえばよい』ある神は吐き捨てた。

 『よくわからぬ場所だからこそ、滅したことによってわざわいが起きまいか。それよりも今は、早く新しき生命を産み出さねば、この地はさらに疲弊ひへいしてしまう』戦を勝ち抜いた国主の一人は、中々産まれ落ちぬ妻の腹の中にいる子を見つめながら、配下の者に相談した。

 なれば……。

 ――『管理するものを置こう』――

 通過点のような曖昧な場所とはいえ、失くなれば【魂】は彼岸へ渡れなくなり、【想】は行き先知れずになり、此岸はさらなる混乱を招きかねない。なれば【境界】の中に監視するものを置いてしまえばよい、と。

 ――『我らで【境界】に適応できるものをせんし、【境界守】と定めよう』――


 【境界】は平穏になった。【魂】はとどこおりなく此岸と彼岸を行き来し、新しき生命は次々と産まれた。【想】は唯々ただただ現と夢を彷徨うようになった。

 さらに、再びこのような異変が起きても把握できるようにと【境界】の数を定めた。

各地の村に一つずつ。村々を束ねる町に一つ。そしていくつもの町を領地とする国主の居住地に一つ。

また、人間が住むことのできない地に存在し、神であっても消滅させることができぬほどとても大きな、聖域の地と呼ばれるほどの【境界】が四つとなった。

 そして、一つの【境界】に一人の【境界守】が定められた。

 【境界守】は人間と神がそれぞれ撰した。【境界】の存在している側に祀られている神や精霊。異変を治めしのち、彼岸へ渡ることになった術師などが。

 彼らはただ、定められた【境界】の中に坐し、行き来する【魂】や【想】を管理した。静かに独り、己の寿命が尽きるまで、唯々坐していた。

 寿命が尽きるとき(滅多にないことだが)、どこからか次の【境界守】が現れるか、己で見出した後、継がせてそのまま彼岸へと渡っていった。

己の管理していた【境界】の中にいた【魂】とともに、静かに見送られることもなく去っていった……。

 行き交いが安定するようになると、人間や神はそれ以降【境界】や【境界守】に見向きもしなくなった。

 それがいけなかったのだろう――。

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