- 始まりのはじまり - (1)
遥か昔、人間は神や精霊などを身近に感じて敬い、そして崇め奉っていた。
生命あるものはいつしか時を止め彼岸(あの世)へ渡り、別の生命あるものに替わって此岸(この世)に戻ってくるものとされていた。また夢(寝ている間に見るもの)とは現の裏側に存在し、常に移動できるものと考えられていた頃より。
そこかしこに不可思議な場所が存在していた。それは――
此岸にも彼岸にも在る曖昧な空間であり、現にいながら夢の中にいるようなぼんやりした時間ともいえる、何とも形容し難いものが、村や町の片隅にある祠や水辺の側、はたまた国主の館内で崇められている古木の傍らや、緑深き山の中などありとあらゆる場所に在った。
この大きさもまばらな、曖昧でぼんやりとただ在るだけの場所を【境界】という。
【境界】の中に、佇むでもなく漂うでもないものがいる。それらは彼岸と此岸を行き来したり、夢と現を彷徨うだけのものであった。
彼岸と此岸を行き来するものを【魂】、夢と現を彷徨うものを【想】という。
つまり【境界】とは、生命のない【魂】や【想】が無秩序に、無造作に通り抜けるだけの通過点のような場所のことである。
さして害のない場所として、人間と神や精霊に認識されていたのであった――。