02
「どーせ睡眠不足で思考力が低下してる紗螺に「良薬は口に苦しだからね。さ、コレは一気に飲んだ方が効果があるよ」とか言って丸め込んで飲ませたんだろ・・・」
「君は嘉夢羅くんに盗聴器でも仕込んでるのかい?」
「盗聴器を疑う前に自分の日頃の行いを思い出してよ女郎花先生」
アンタその謳い文句で何人のいたいけな生徒を地獄に叩き落としたか言ってみろよ。
覚えてない?
俺が知ってるだけでもコレで30人近く沈めてるっていうのに?
マジで?
最悪だな。
「私はいつか君にも飲んで欲しいと思っているんだけどね」
「ヤダネ。豆と材料の無駄にも程がある。子供のオママゴトの方がよっぽど生産性があるってもんだ」
「それは残念」
「残念がってないで反省しろ―?」
どーすんだよ紗螺君。
もうすぐ最終下校時刻だってのに全く目覚める気配ないし。
「置いて帰ろうとは、思はないのかい?」
君がそうしたって、別に嘉夢羅君は君を責めたりはしないだろうに、と女郎花先生は言った。
それはそうだ。
だって紗螺は俺が来た時にはもう夢の中(物理)だったんだから、そもそも俺が心配になって見に来た事なんか――例えその心配がクリティカルヒットして紗螺(の胃)が無事じゃなかったとしても――知らないんだから。
・・・いや、そもそも意識があっても紗螺は文句なんか言わないだろう。
良いか悪いかは別として、嘉夢羅 紗螺という人間は”そう”なんだ。
だから。
「待ってるよ」
「いつ起きるかわからないのにかい?」
「うん、待ってる」
昔何度も聞いた言葉に何度も言った言葉で返す。
あの頃も――今も、理解が出来ないけど待つのなんか当たり前じゃないか。
いつ起きるかわからないから待ってるんだ。
「起きた時に1人ぼっちだったら、泣いちゃうかもしれないし」
「なるどほど。まぁ、夜の校舎っていうのはなんともいえない怖ろしさがあるからねぇ」
「いや、胃が痛くてだよ」
自分の悪行をさらっと棚に上げるんじゃない。
夜の校舎の保健室のベットの上で腹痛でもだえてる友人なんて考えたくもないじゃんか。
地獄が過ぎる。
しかも俺が軽くカウンセリングを勧めちゃったせいで。
ナナメ下から刺さるアスプの視線が痛いのなんのって。
「だから、紗螺は責任とって俺が起きるまで一緒にいるよ。家も近いからそのまま一緒に帰る。明日から三連休だから、学校の心配もしなくていいし。」
「ふむ」
今度は見るからに真剣に先生が考え込む。
まぁそうだろう。
原則生徒は皆最終下校時刻までに正門を出ていなくちゃいけないし。
今は5時54分。
滅茶苦茶忙げばギリギリ6時前に外に出れる。
教師なら、「気持ちは嬉しいけど早く帰れ」と言う所だ。
普通の、教師なら。
「・・・なら、嘉夢羅君の事は諸刃君に一任しようかな。私はまだ今日中に片付けなければいけない仕事が残っていてね。前任が産休から復帰するまでの臨時講師だから土日返上の休日出勤はさせられないとかいう理由で、日付が変わるまでに終わらせないといけないんだ。タイムカードは6時に押すのにねー」
「いきなりエグい話しないでよ、先生・・・」
「大丈夫、大丈夫、仕事が終わるまでは今日だから」
「仕事が終わるまで帰れま10なの・・・?闇が深すぎる」
やらなきゃいけない仕事が残ってたので残業しました、って言えば少しかわいそうな気がしなくもない気もするけど要は就業中コーヒー(おせち入り)作りにいそしんでたら仕事する時間なくなっちゃったよって言ってるんでしょ?
怒られろ。
「何を言うんだか。カウンセリングも私の立派な仕事だとも!」
「どっちかって言うとカウンセリング(物理)って感じだけど?」
「時として強行手段が必要な時もある。嘉夢羅君や――君みたいな子供を相手にする時は特に、ね」
意味深な笑みを向けられて思わず愛想笑いを返す。
これはあれか?
物体Xが女郎花先生の聖域に残ってるってやつかな。
ヤダー。
・・・熟成させてんのかな。
「俺にカウンセリングは必要ないよ、先生。紗螺と違って悩みなんかないし、何より俺にはアスプがいる。これ以上ないってくらい心強い味方がね」
「それは重畳。なによりだ。」
はーどっこいしょと重いかけ声と共に先生が立ち上がる。
楽しいお仕事の時間ってやつらしい。
働け働け。
「保健室の扉は見周りが来るとめんど――何か言われるかもしれないから私が外から鍵をかけていく。もし私が帰ってくる前に紗螺君が起きて帰れそうだったら机の一番上の引き出しに入ってる鍵を使って窓側の出口から外に出なさい。靴は持って来てある?」
「モチロン。紗螺の分も外に」
「よろしい。鍵には「外」って書いてあるタグが付いているからすぐにわかるよ。そのまま持っていって良い。月曜日に返して」
「えっ、持ってって良いの?」
「みんなにはないしょだよ」
駄目な大人の見本市かな?
いや、反面教師としては逆にありなのか。
なるほど。
なるほど?
アスプが下から「正気かお前」みたいな顔で見てくるのに無視を決め込んで無理やり自分の中で消化する。
深く考えたら負けなんだよ、アスプ。
「なんか明日もまだ休みだから大丈夫って、余裕ぶってたら3連休ウィークリーミッションは数分前に終わって絶望したみたいな顔してるね」
「それは確かに絶望する・・・」
あるある。
後で受け取ればいいやって放っておいたら全部ぱぁになるやつ。
悲しい。
いや待て。
「・・・みんなにはーないしょだよー?」
「エックスカリバー!」
黒!
完璧に黒!
人類最後のマスターとか兼務されてる感じ!
「女郎花先生意外とゲーマー?」
「ゲーマーじゃない人の方がすくないでしょう」
「確かに」
っていうか先生の口からゲーマーって言葉が出てくるの中々にインパクトある。
というか先生の場合はどっちかって言うとまだ日付あるから良いやって放っておいて気づいたら日曜日の夕方だったの方が正しいんじゃないか。
いや、今日は金曜日だけど。
終わらななかったのはウィークリーミッションじゃなくて仕事だけど。
・・・ダメ人間の鏡かな?
「ちなみに先生は仕事が終わったら何をするおつもりですか?」
「課金」
「あっ・・・ハイ」