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参界遊戯 ~埒外【聖旋】~  作者: クロwithオウサマ
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01



『夢』を見るのだと嘉夢羅 紗螺(かむらしゃら)は言った。


長く降り続く雨。

跳ねる水。

鏡に映る赤。

温室の薔薇。

真っ二つに割られた橋。

それから、目前に迫る刃物。


何か(・・)に殺されて目覚める夢。

それこそ『悪夢』に分類される類のモノ。

それを、何度も何度も見るのだと。



「ーーでも、そんな事はありえない」


よりにもよってこの街で『夢』を見るだなんて。

手元にいた銀灰猫(アスプ)の頭を撫でながら半分文句のようになった言葉を吐き出す。


俺のーー諸刃 闥臣(もろはたつおみ)の猫。

俺の相棒。

この猫田市に生きる人間に1人1匹必ず与えられる祝福。

ーーでも。


「紗螺の愛猫はーーねこはもういない。紗螺は元々ねこは自分の猫ではなかったなんて言うけど、そんな事はない。・・・少なくとも冬休みが始まる去年の年末までは確かにねこは紗螺のねこだった。俺と、アスプが見た。」


確かにそうだった、けど。

ちらりとアスプを見ればゆるく首を横に降られた。

そう。


「・・・今の紗螺とねこの間に何の繋がりがないって事も、わかる。どうしてかはわからないけど、そうなんだ」

「つまり、嘉夢羅くんの猫はもう彼の元にはいないと?」

「いない。少なくとも俺は1ヵ月近く見ていないし、紗螺も気付いたらいなかったって言ってた。ーーそしていなくなったと気付いた時くらいから『悪夢』を見るようになったって」


そしてそんな純度100%ヤバめな話を食後の雑談に持ってくる辺りが嘉夢羅 紗螺が嘉夢羅 紗螺たる所為だと思う。

お前本当にそーゆー所だぞ。

まぁ、でも、だからこそ、これも一種の雑談なんだ。


「どう思う、萩野 女郎花(はぎのおみなえし)先生?紗螺の悩み、カウンセラーの先生ならどうにかできたりする?」

「そうだな」


かちゃりと眼鏡を押し上げて女郎花先生が悩むそぶりを見せる。

それがポーズなのか実際に悩んでいるのかは俺にはわからないけれど、一度ちらりとベットで寝ている紗螺を見たのはわかった。

何を言うのかと思って少し身構えれば先生は俺に視線を直しにこりとわざとらしく笑ってみせた。

うわ。


「どんな人間にも等しく夢をみる権利がある。内容がたとえ望むものでなかったとしても、だ。夢を思い描いて(みて)、夢に溺れて・・・夢を、諦める。それは誰に害される事もない、当然の権利なのだから」

「先生・・・」

「ちなみに諸刃くん、君は胡蝶の夢という説話を知っているかい?」

「・・・あの、荘子の?」

「そう、それ!君は博識だな」

「たまたま記録してただけだよ」


胡蝶の夢。

中国の思想家、荘子が語った説話。

要約すると、夢の中で蝶になった男が目覚めてからも「人間の私が見た夢の中の蝶になったのか、それとも自分は実は蝶でいま夢を見て人間になっているのか。どちらが現実なのかわからない」と自問自答する話。

自分と蝶は形の上では区別があるけれど、主体の上の自分には変わりがない。

物の変化とはそういうものである、と。

ただ蝶には夢を見る程の脳ミソはないので男はどこまでいっても男自身でしかないワケだが。


「けれど男にとってはそんな蝶になっても良いと思えるくらい楽しい夢だったのだろうよ。なら、無理にそんな理拙をこねる必要はないだろう。本人がそれで良かったのならそれで万事OKなのさ」

「・・・つまり?」

「悪夢に悩まされていた嘉夢羅くんが夢を見ずに眠れたのだから私のコーヒー(・・・・)も捨てたもんじゃないだろ?」

「豆ごとゴミ箱行きだっての!」


そして紗螺のコレは睡眠じゃななくて気絶。

コーヒーのあまりのまずさに失神ってやつですね!

意味がわからないって?

俺もわからないよアスプ。

コーヒーとは(哲学)。


「そもそも何を入れたらそんなコーヒー(?)になるっていうんだ」

「おせち」

「・・・・・・?」


おせち。

おせちって何だっけ?

え、あれ?

お正月に食べるあれ?


「こ、固形物・・・!」

「ちゃんとミキサーにかけて飲みやすくしてあるとも」

「そもそも具材をミキサーにかけなきゃいけない液体飲料って何」


意味がわからないよ

え、あれ?

俺がおかしいのコレ。

え、コーヒー、てなんだっけ?


「もちろん量が多すぎて全てを入れる事は叶わなかったけれど、重要なものはちゃんとコンプリートしているとも」

「重要なもの」

「すなわち、「黒豆」「田づくり」「数の子」の祝い肴三種というやつだな。関東流と関西流で悩んだがたたきごぼうよりも田づくりの方がバランスが取れそうだったから関東流を採用している。そして学生の君達の為に「学問」を象徴する昆布巻きを入れてある。DHAもたっぷりだ!」

「でぃーえぃちえー」

「そしてここまで来て最後に入れるのがただのシュガーだというのも味気ないだろう?だからブラックが飲めない君達の為に栗きんとんで甘味もプラスしてある。大丈夫。アフターケアもばっちりだ。安心して飲んでもらってかまわないとも」

「・・・・・・」


・・・・・・なにもだいじょばない。

そもそもコレ栗きんとん入れなかったらブラックに分類されるの?

こんなにわけわかんないものたくさん入ってるのに?

コーヒーとは(切実)。

っていうかなんでこんなどこを切り取っても間違いなく毒にしかならない物体Xを飲んじゃったの紗螺君。

定期的にオレはお前の事がわからなくなるけど今日の「激ヤバコーヒー殺人事件」だけはフォロー出来ないよ。

自殺するくらいならもっと深刻そうな顔でオレに相談してくれよ!

そしたらオレだって「とりあえず生で」みたいなノリでおみさんのカウンセリングなんか勧めなかったさ!


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