第三十八話 観測者と最後の切り札(site:ナイアロトプ)
真っ白い空間の中……多くの次元の裂け目が浮かび上がり、ロークロアの至る場所を映し出していた。
そしてその中央で、ナイアロトプが足を組んで座った姿勢で浮かび上がり、その一つ一つを眺めて確認していた。
ナイアロトプが無表情のまま、左手を宙へと翳す。
彼の周囲に《ゴディッター》の画面が大量に浮かび上がった。
『マジで完全に運営との戦いになったじゃん』
『ルシファーさんレベルだけの雑魚じゃないっすかwww』
『ルナエール一人で総崩れじゃん』
『逆に楽しみになってきた』
『ノリノリで連れてきた三人の内、二人が瞬殺されたわけだけど、ナイちゃん今頃憤死してるでしょこれ』
次から次へと神々の書き込みが流れていく。
相変わらずの好き勝手な内容に、ナイアロトプは溜め息を吐いた。
ナイアロトプがロークロアの異端分子を排除するべく《久遠の咎人》の三人を動かしたことは、神々の間でも既に大きな話題になっていた。
ただの異世界エンターテイメントでここまで露骨に運営側と世界の戦いになることは、神界でもこれまでなかったことであった。
神々の間でも大きな話題になっており、矢面に立つ形になったナイアロトプは相変わらず嘲笑の的になっている。
『ここまでやったらもうロークロア畳むしかなくね?』
『え、終わるの? 寂しいんだけど』
『つーか、これもうカナタ排除しても駄目でしょ。無意味に傷口広げてるだけじゃん。完全にただの炎上商法』
《ゴディッター》には、運営が既にロークロア運営を諦めているという声も多くあった。
そしてそれはもっともな指摘であった。
本来、《久遠の咎人》を引っ張ってきてまで、カナタの排除に躍起になる必要はなかったのだ。
異世界ロークロアごと消してしまえばそれでお終いだからである。
どうせここまでやらかした以上、どう足掻いても長続きするコンテンツには軌道修正ができない。
必死になって恥を晒し続けるよりは、とっとと畳んで仕舞った方が無難であった。
ナイアロトプの主がそれをできなかったのは、最上位神であるあの御方が、ロークロアというコンテンツの中途半端な決着を嫌ったからに他ならない。
もしこの介入がなければ、ロークロアはとうに消去されていたはずであった。
カナタの問題に決着を付け、派手にロークロアというコンテンツを終わらせる。
そのためだけに呼び出されたのが《久遠の咎人》であったのだ。
「我が眷属よ」
どこからともなく、主である上位神の声が響く。
「はい、主様」
「《久遠の咎人》の内……《逆さ男ルニマン》と、《堕天使ルシファー》が敗れたようだな。《神の見えざる手》も完全に敵に回ったわけだ。ロークロアの布石は全て回収され、八方塞がりというわけだな。《ゴディッター》の神々もカナタの勝利を確信している」
上位神の言葉が続く。
「よくぞやった、我が眷属。全て我々の演出通りというわけだな」
続く上位神の言葉に、ナイアロトプは底意地の悪い笑みを浮かべた。
「ええ、はい、我が主様よ。ここまでの流れで、我々の想定外のことは、何一つ起きてはいませんからね」
「平坦に進むだけの物語など退屈だ。上げてから落とすのはエンターテイメントの基礎の基礎というものだからな。最初からあの男を動かして終わらせてしまっては、盛り上がりに欠けるというもの……我々は、あの御方の満足するラストをお届けしなければならないわけだ。だが、前座はこの程度でいいだろう」
今更あの二人程度であれば攻略してくるだろうということは、ナイアロトプにもわかっていた話であった。
「そろそろ《久遠の咎人》の三人目……ロークロア最悪最強の男、《破滅のゾラス》を動かすとしましょう。これでロークロアはお終い……ようやく我々も、あんな低次元人共の動向に右往左往しなくても済むというわけですね」
「これであの御方もそれなりには満足なさることだろう。全てを終わらせるとしようではないか」
「ええ、全て仰せの通りに」
上位存在の言葉にナイアロトプは慇懃に応える。
ナイアロトプはそれから次元の歪の一つへと目を向けた。
そこではカナタ達が、ルシファーの襲撃を退けたことを祝い合っている様子が映し出されている。
ナイアロトプはそれを目にして、表情を崩して笑い声を上げた。
「せいぜい偽りの勝利に酔いしれて、待っていろ……カナタ! お前の最期もすぐそこだ。ロークロアの世界に、最悪のバッドエンドを齎して幕引きとしてやる」
不死者の弟子、第六章完結です!
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そして次章の七章でついに不死者の弟子、最終章となります。
ぜひとも応援よろしくお願いいたします!(2023/2/20)