表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
242/304

第二十四話 大商公の過去(side:フィリア)

「すぐにこの商業都市ポロロックで、吾輩が秘密裏に造らせたゴーレムと、王国騎士の連中の衝突が起こる。そして、そのまま武力を用いてポロロックを吾輩が完全に独裁し……王国からの独立と、現王国への宣戦布告を宣言する」


 グリードはあっさりと、そう口にした。

 それを聞いて、フィリアは目を見開く。


「じょ、冗談……なんだよね、おじちゃん。だってそんなこと、できるわけ……」


「できるとも。都市ポロロックは陰で、魔導兵器の開発と、黒魔術の研究を進めてきた。もっと王国全土の経済をコントロールしてから行いたかったのだが……王国騎士の動きが思ったよりも遥かに早かったため、その点は叶わなかったな。だが、それでも、元々味方の数など飾りに過ぎんのだよ。国をひっくり返すために最も必要なものは、圧倒的な個の戦力、量より質である。これは吾輩が、何十年も前に結論付けたことだ。吾輩のゴーレム軍団は、上位騎士の百魔騎や、S級冒険者でさえ圧倒することだろう」


 グリードは淡々とそう語る。

 

「……と、そう身構えなくてもいい。別に吾輩は、お嬢ちゃんにどうこうしようという意図はない。だが、ここから立ち去るのはお勧めしない。これから動乱が起こる都市よりも、この吾輩の館にいるのが一番安全だ」


「残らない。フィリア、ポメラ達を助けに行く。それに……おじちゃんも、悪い人だっていうなら、フィリア、容赦しない」


「ただのハッタリではなく……実際に《血濡れの金貨》を相手に逃げてきたようであったから、それなりに戦えるのだろうな。正義感の強い、いい子だ。そういうふうに造られたのかい?」


「関係ない! カナタ達がフィリアのこと大事にしてくれたから、フィリアもカナタ達のことを大事にするんだもん! 友達だから!」


「健気なことだ。利用されていると、そうは思わんのか? ニンゲンは欲でしか動かん。吾輩だからこそ断言できることだ。そもそも錬金生命体(ホムンクルス)は、様々な理由で王国法では禁止されておる。わざわざ実験の果てに歪な命を生み出しておいて、愛玩動物のように連れ歩き、お友達など……ハッ」


「……錬金生命体(ホムンクルス)錬金生命体(ホムンクルス)って呼ばないで。その呼び方、好きじゃない。それにフィリア、カナタ達に造られたわけじゃない」


「お嬢ちゃんが攻撃するなというのならば、連中には手は出さんと約束する。ただな、お嬢ちゃん、カナタ達とやらとは、もう会わん方がいい。普通のニンゲンは、錬金生命体(ホムンクルス)の在り方を理解することなど絶対にできん」


「みんな、そんな人じゃないよ……。おじちゃんに何がわかるの?」


「わかるともさ。この欲望の都で、ニンゲンの汚い部分を見続けてきた吾輩にはな」


 そのとき、外から爆発音と悲鳴が飛び交い始めた。

 フィリアは口をぎゅっと結び、窓の方へと目をやる。


 グリードの言う通り……ゴーレムと王国騎士達の戦いが都市で始まったのだ。


「安心するがいい。どうせ今回の王国騎士は雑兵だ。生かして逃がして報告させることで吾輩の強大さを示し……王国全土を混乱に陥れ、戦意を削ぐ。都市ポロロックの住民も、抵抗せん限り殺しはせんよ。もっとも……今回は、であるがな」


「……どうしておじちゃん、こんなことをするの? お金いっぱいあって、お城みたいなところに住んで、色んな人に慕われて、美味しいもの食べて……それじゃ、満足できなかったの? 本当は悪い人じゃないんでしょ? おじちゃん……なんだか、寂しそうだもの」


「純粋なお嬢ちゃんにはわからんだろう。人並みの幸せを掴んで満足する者ばかりであれば、競争も貧富の差も、そして発展も起こりもせんのだよ。ただ……これは、吾輩なりの世界への復讐である。吾輩が生きている限り、決して歩みを止めるつもりはない。何があったとしても、だ」


「フィリアが、おじちゃんが寂しくならないように、ずっと横にいてあげる。それでも……ダメ?」


 フィリアの言葉に、グリードが驚いたように目を見開く。

 それから小さく「フ、フフ」と笑い声を漏らした。


「本当に純粋な子だ。少し、ある男の話を聞いてもらえるかな? もしかしたらお嬢ちゃんがここにいる限りは、吾輩の部下は頭目を欠いたまま戦うことになり、ゴーレムを上手く制御できず……王国騎士にあっさりと敗れ、事態は収まるかもしれんぞ」


 フィリアは無言のまま、グリードの顔をじっと見つめた。

 少し間をおいて、グリードが話を始めた。


「……その男は、ある貧しい村で生まれたのだという。飢餓が続き……親兄弟も、餓死、或いはそれが発端の諍いや事故で失くしていった。村に賢者を名乗る旅の男が現れたとき……毎日必死に教えを乞うて知識を得て、逃げるようにその村を去った。以来、他の者が嫌がる危険な区間を中心に活動する、行商人を始めるようになった」


「……おじちゃんのお話?」


 フィリアの質問には、グリードは答えなかった。


「危険ではあったが、男は順調に富と実績、そして知識を積み上げていった。そうしている内に、危険視されているがさして危険ではない行路……他の商人が美味しいとは知らない行路を覚えていくようになる。そうだ、自分を救ってくれたのも知識だった。村の奴らは何も行動せず、未だに飢餓に喘いでいる。知識を得て、他者を出し抜く……それが成功の答えであると、男はそう学んだのだ」


 グリードは席から立ち、客間の中を歩く。


「なりふり構わん行動力が功を成したのか……他者を何とも思わぬ冷酷さが武器となったのか、男は成功を重ね続けた。いや、天運が味方をした、というのが結局のところ最も大きな要因だったのだろうな。そんな折、交易に適した位置にありながら、全く目敏い商人達から手を付けられていない夢の都市……眠る金塊、ポロロックを見つけたのだ。その地で歴史的な大成功を納めた男は、やがて王国より領主として認められ……ついには大商公の通り名を得るに至った」


 グリードは歩きながら、語り続ける。

 フィリアは黙って、彼の話を聞くことにした。


「しかしながら、男はまるで満足せんかったのだ。底なしの欲望を持っておった。或いは、そうでなければ、ここまで来る前に、ただの少し成功した行商人として満足して終わっていたのか。男の次の目標は、王国そのものを支配することであった。そうして隠れ蓑として犯罪区域こと暗黒区を周到に築き上げ……金銭と物資を流し、王国に対抗するための武器を作り始めたのだ。単純な武器は勿論、禁じられている黒魔術の研究に、制限されているゴーレムや、魔物を組み合わせた合成獣(キメラ)の製造……」


 絵画の前で足を止め、フィリアの方を振り返った。

 グリードは、どこか自嘲気な笑みを浮かべていた。


「……そして、錬金生命体(ホムンクルス)の研究である。だが、後に男は、この錬金生命体(ホムンクルス)の研究を心から後悔することになる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
↑の評価欄【☆☆☆☆☆】を押して応援して頂けると執筆の励みになります!





同作者の他小説、及びコミカライズ作品もよろしくお願いいたします!
コミカライズは各WEB漫画配信サイトにて、最初の数話と最新話は無料公開されております!
i203225

i203225

i203225

i203225

i203225
― 新着の感想 ―
[良い点] 丁寧丁寧丁寧なフラグ建て [気になる点] 隙あらば自分語り [一言] がはは、勝ったな。風呂入ってくる
[一言] ・・・この流れだともしかして、事案じゃなくてフィリアの製作者かその流れの人なのか?その割にフィリアの強さを知らないから知識で知ってる他人?
[気になる点] フィリアには難しそうな話をしてそうな。 反応を見る限り、理解してそうだけど、いつまでも幼女じゃ無く成長しているということか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ