表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/304

第十八話 《竜頭岩の崖》

「到着した。ここが第一の試練場、《竜頭岩の崖》である」


 ライガンに案内されて辿り着いたのは、草木のまばらな岩場であった。


 岩の中には、ドラゴンの頭部のような形をしたものが多く見られた。

 大きさは大小様々である。

 これが竜頭岩というものだろう。

 額のところには【二十】だとか【八十】だとか、数字が刻まれている。


「この数字がもしかして、ここでの成績に直結するんですか?」


「そうである。この《竜頭岩の崖》では、どれだけの重量の竜頭岩を持ち上げられるかの試練を行う。最低称号の子竜は三つの試練で合計百点を獲得する必要がある。ここで【三十】以上の竜頭岩を持ち上げられねば、後はないと覚悟することだ」


 ライガンがそう言って意地悪く笑う。

 確か、竜王と面会が許される聖竜は千点以上だ。

 ここで三百点、できれば四百点は稼いでおきたい。


 周囲を見れば、ちらほらと竜人の姿がある。

 彼らはここで、竜頭岩を背負って修練を行っているようだった。


 やはり人間が珍しいらしく、こちらへチラチラと目を向けている。

 好奇の目もあれば、明らかに嫌悪を向けてきている者もいた。

 俺は控え目に小さく頭を下げておいた。


「おお、聖竜の一角、オディオ様がいらっしゃられておったか!」


 ライガンが声を上げる。

 彼の目線を追えば、巨大な二つの竜頭岩に挟まれている痩せた老人がいた。

 片足のつま先で立って中腰になっており、片手の指先三本で【三百】と記された竜頭岩を支えて目を瞑っている。

 修練の最中らしい。


「す、凄い、凄すぎる……さすがはオディオ様である! 【三百】の竜頭岩に挟まれながら、三本指で支え続けておる!」


「あ、あの……下の竜頭岩に、何か意味はあるんですか……?」


 ポメラが水を差し、ライガンにギロリと睨まれていた。

 あたふたとポメラが頭を下げる。


「へぇ、オレ以外にここに人間がいやがったのか」


 背後から声が聞こえてきて、俺は振り返った。

 黒に金の色が交じった、メッシュの髪をした男だった。

 耳にリングのピアスをしており、巨大な剣を背負っていた。

 歳は俺と同じ程度に見える。


 彼の背後には、べったりと黒翼を持つ竜人の少女が付いていた。


 ライガンが露骨に嫌そうな表情を浮かべていた。

 そういえば、もう一人この地を訪れた人間がいた、という話だった。


 だが、この顔付き……。


「まさか、転移者……?」


「偶然とは続くもんだな」


 男は犬歯を覗かせ、好戦的に笑った。

 それから目を細め、観察するように俺を見る。

 いきなりレベルの確認かと思って身構えれば、男は首を振った。


「盗み見するような、無粋な真似は止めておくか。クク、オレの悪いクセだ。それに、見たって仕方ねぇからな。どうやら、オレの名も知らなかったようだからな。こっちに来たばっかりの、ただのモブってところか。悪いが、同郷だろうが、弱っちい奴には興味ねえんだよ」


 有名な人物だったらしい。

 長くここにいるのならば、当然のことでもあるのかもしれない。

 コトネは戦いを好む性格ではなかったが、その《神の祝福(ギフトスキル)》のために、S級冒険者として魔法都市マナラークの窮地には必ず駆り出されている。


「覚えとけ、モブ。俺は数いる異世界転移者の頂点に立つ、S級冒険者のミツル・イジュウインだ」


 ミツル・イジュウイン……。

 やっぱり明らかに日本名だった。


「俺はカナタ・カン……」


「言ったろ? 弱っちい奴には興味ねえよ」


 ミツルは俺の言葉を遮り、横を通り過ぎた。


「同じ転移者でも、本人の才覚とレベル、《神の祝福(ギフトスキル)》が物を言う……。同郷のよしみで、教えといてやらぁ、格の差って奴をな」


 ミツルはそう前置きすると、すぅっと息を吸った。


「おい、トカゲ共! この中で、一番重い奴はどれだ」


 ミツルの発言に、この場に居合わせていた竜人達がざわつき始めた。

 ライガンも唇を尖らせ、青筋を浮かべてミツルを睨みつけている。


「ミッ、ミツルさぁん……それはちょっと、あの、まずいですよう。ア、アタシも、散々言ったじゃないですか。桃竜郷は本当に、人里とは平均レベルが桁違いなんですってば。あまり敵を作るような発言は……」


 黒翼の少女がミツルの傍へと飛んで移動し、あたふたとミツルを宥めようとする。


「面白いことを申してくれるではないか、小僧……!」


 ライガンが前に出た。


「オレにイチャモン付けてきて、返り討ちにあった十二金竜だかのライガンじゃねぇか。よくもまぁ、偉そうにまた出てこられたもんだ。竜人って奴は、案外気が短いだけでプライドは高くねぇのか? オレなら恥ずかして出てこれねえよ」


 ライガンの顔が真っ赤になる。


「ま、前は調子が悪かったのだ! それに、あ、あのことは関係ない! 貴様、あれほど意気込んだからには、アレを持ち上げてもらおうではないか!」


 ライガンがひときわ大きな竜頭岩を指差した。

 額には【五百】と記されている。


「んだよ……最大五百なのかよ。竜王が二千二百と聞いたから、ここで八百点は稼いでおきたかったのによ」


 ミツルはつまらなさそうに頭を掻き、【五百】の竜頭岩へと近づき、手を掛けた。


「どれ、見せてやろうじゃねぇか。《極振り(ダブル)》……攻撃モード!」


 ミツルの身体から、赤い蒸気が昇り始めた。

 あれがミツルの《神の祝福(ギフトスキル)》のようだ。


「教えといてやるよ、モブ。別に隠してるもんじゃねぇからな。これが最強の《神の祝福(ギフトスキル)》だ。俺の《極振り(ダブル)》は、一時的に他のステータスを減少させ……代わりに、狙ったステータスを倍増させる」


 ミツルが一気に竜頭岩を持ち上げた。

 竜人達は、あんぐりと口を開けてミツルを眺めていた。


「う、嘘であろう……?」


 ライガンは眉を垂らし、顔を真っ蒼にしている。

 いっそ可哀想な様子であった。


「こんなもんが第一試練の最大か? オレはまだいけるぜ」


 ミツルが不敵な笑みを浮かべる。


「ほう……まさか、ニンゲンがあれを持ち上げるとはの」


 竜頭岩に挟まれていた、聖竜のオディオがパチリと目を開いた。

 ミツルに関心を示したようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
↑の評価欄【☆☆☆☆☆】を押して応援して頂けると執筆の励みになります!





同作者の他小説、及びコミカライズ作品もよろしくお願いいたします!
コミカライズは各WEB漫画配信サイトにて、最初の数話と最新話は無料公開されております!
i203225

i203225

i203225

i203225

i203225
― 新着の感想 ―
[一言] 神が言ってたミツル登場で1つの伏線回収 でも雑魚だったな レベル見てないけどキャラの雰囲気的に雑魚 さっきの2体の竜と同じくらいか?
[一言] ステータス見れるのに自分の能力に胡座かいて見ない宣言とか いじゅういんくんはロヴィスさんの爪の垢でも飲んで出直して来た方がいいw
[一言] ポメラがどこまで行けるかが焦点になってくるレベル
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ