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第三十六話 空の闘い

「ベネットさん、レッドキングに止めを刺してきます」


「ああ、そうだな。あの化け物が去った以上、残る脅威はアリスだけだ。カナタなら、奴をどうにか……!」


 俺はベネットの言葉に首を振った。


「いえ、ですから、レッドキングを倒してきます」


「ええっ! あ、あっちは、もうよくないか? 逃げてくれたんだし……とりあえずは……」


「そういうわけにも行きませんよ。ちょっと追い掛けてきます」


「そ、そうか、お前が追う側になるのか……」


 ベネットは困惑げにそう口にした。


 ただ、レッドキングは空高くに逃げてしまった。

 障壁があるため、遠くからの魔法攻撃もあまり有効ではない。


 風を操って空を飛ぶ魔法もあるが、あまり細かい制御の利くものではない。

 当然、空には足場もないため体勢を整えることも難しい。

 レベル3000を相手にこの地の利の優位を与えるのは厳しかった。


「ウルに乗せてもらいますか」


 この間契約した精霊、ウルゾットルだ。

 高レベルの精霊は重力にあまり縛られないと、ルナエールからそう教えてもらったことがある。

 元々高位の精霊は、精霊界にある大きな樹、ユグドラシルで暮らしていることが多いくらいだ。

 レッドキングが自在に飛び回っているように、ウルゾットルも浮遊能力があるはずだ。

 

「ウル……? なんだ、それは?」


 ベネットが不審そうに尋ねる。


「犬の精霊です。可愛い子ですよ」


「そいつ、本当にあの化け物と戦えるのか?」


 俺は《英雄剣ギルガメッシュ》を掲げる。


「召喚魔法第十八階位《霊獣死召狗(ウルゾットル)》」


 魔法陣が広がる。

 その中央に、全長三メートルの、青い美しい毛を持つ巨大な獣が現れた。

 金色の目が、俺を見た後、ベネットへ移る。

 二又の尾がゆっくりと揺れた。


 ウルゾットルの口が開く。

 大きな牙の合間から垂れた唾液が、地面を溶かして煙を上げた。

 ベネットは目を見開いて眉間に深く皴を寄せ、凄い表情でウルゾットルを見つめていた。


「アオオオオッ!」


 ウルゾットルが興奮したように俺へ突進してくる。

 俺は《英雄剣ギルガメッシュ》を鞘へ戻し、腕を広げてウルゾットルの体当たりを受け止めた。

 俺はだらんと脱力したウルゾットルの頬へ手を伸ばし、撫でた。


「すいませんウル、また少しお願いしたいことがあって」


「アォッ、オオッ! クゥン、クゥン!」


 ウルゾットルはぐいぐいと俺の手に頬を押し付けてくる。

 つい和みそうになるが、俺は手を引いた。

 ウルゾットルは残念そうに項垂れるが、俺の様子を見て急用だと察したようで、鳴き声を止めて静かにしてくれた。


 俺は空のレッドキングへと目を向けた。

 ウルゾットルも俺の視線を追って空を見上げる。


「あれを追い掛けるのに協力してほしいんです。お願いできますか?」


 ウルゾットルはこくこくと頷いた。


「お、お前……なんて化け物と、精霊契約してるんだ……」


 ベネットはゆっくり後退し、ウルゾットルから距離を置く。

 余程警戒していると見えて、手が自然に鞘へと伸びていた。


「ウルは可愛いですよ」


「感覚が麻痺してるぞ……」


 俺はウルゾットルの背に乗った。

 ウルゾットルは地面を蹴り、勢いよく飛び上がる。

 そのまま空中を駆け、一直線に遠ざかるレッドキングへと向かい始めた。


「凄い、これならすぐ追い付けそう……!」


 だが、レッドキングは俺達に気が付くと、彫像の老翁の顔を歪め、ぐんぐんと速度を引き上げていく。

 必死の形相だった。


「あの顔、あんなにすぐ変わるのか……」


 散々攻撃を仕掛けておいて不利と見ればすぐ逃げるとは、物々しい逸話に反して俗っぽく見える。


 レッドキングの周囲に、大量の魔法陣が展開される。

 また無数の真っ赤な立体が現れ、俺目掛けて飛来してくる。

 俺は《英雄剣ギルガメッシュ》を振るい、それらの立体を両断していく。

 だが、レッドキングに阻まれ、思うように接近ができない。


「だったら、これでどうですか!」


 俺はレッドキングの頭上へ《英雄剣ギルガメッシュ》を向ける。


「時空魔法第十九階位《超重力爆弾(グラビバーン》」


 レッドキングの頭の上に、黒い光が広がり、空間を巻き込んで一気に暴縮を始める。

 レッドキングはそれから逃れようと、俺の方へ降りてきた。

 魔法への強い耐性があるとはいえ、《超重力爆弾(グラビバーン》の直撃は嫌だったらしい。

 レッドキングの障壁も空間を歪ませて魔法を妨げているようだったので、同じく空間を歪ませる時空魔法による攻撃にはやや耐性が薄いのかもしれない。


 何にせよ、これで距離が詰められた。

 俺は真っ赤な立体を切断し、一気にレッドキングへ肉薄する。

 そして《英雄剣ギルガメッシュ》の大振りを放った。


 老翁の顔面に、鼻の高さで横一閃の斬撃が走った。

 表情が苦痛に歪む。


 ウルゾットルはレッドキングの上部へと駆け抜け、身を翻してレッドキングへと向き直った。


「すいません、ウル、仕留め損ないました。思ってたより、かなり頑丈だったみたいです」


 レッドキングの顔が、俺への怨嗟の目を向ける。

 また、大量の魔法陣が並行展開されていく。


 だが、上は取った。

 これ以上レッドキングは逃げられない。

 これで決着を付けられるはずだ。


 レッドキングの顔が、怨嗟の顔から一転、俺を嘲弄するようなものへと変わった。

 細められた目が醜悪に歪む。

 悪意が、そこに滲み出ていた。


「まさか……!」


 放たれた真っ赤な無数の立体は、魔法都市マナラークへと広がりながら落ちていく。

 一つとて、俺目掛けては飛んでこなかった。


「ウル、下降してください!」


 しまった、都市を狙ってきた!

 おかしくてたまらない、というふうにレッドキングが笑う。


 レッドキングは、もっと理解不能な災害のような化け物なのかと思っていた。

 だが、違う。

 レッドキングは、徹底して小細工に頼り策を弄する、悪意の塊のような奴だった。

 理解不能の破壊の化身は、あくまで余裕があるときの姿に過ぎなかった。

 追い詰められて地が出ている。


 俺は《双心法》を用いて、同一の魔法陣を二つ同時に展開した。


「炎魔法第二十階位《赤き竜(アポカリプス)》!」


 二体の炎の竜が現れ、宙を駆け、レッドキングの放った立体を破壊する。

 取り零しも、ウルゾットルに乗った俺が《英雄剣ギルガメッシュ》で両断した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 絶望の中に勝機を見出すレッドキングの生存本能! [一言] 可愛い犬精霊ウル=触れたら死ぬ
[一言] まぁ地上にはルナエールさんがいるから放っておいても大丈夫だとは思うけど…… そういやルナエールさんが召喚したアホほど巨大な閻魔様もどっかでカナタの戦いに絡んでくるのだろうか?
[一言] 当初からずっとカナタ無双小説かと思っていたら、ここに来て意外と苦戦してて笑うわ
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