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第四十三話 決意

 冒険者ギルドの前へと辿り着いた。

 まだ約束の時間ではないが、中に入ればガネット辺りが奥へと案内してくれることだろう。

 詳しい予定を聞かされ、住民達の準備ができ次第、護衛として馬車に乗り込み、別の都市へと向かう手はずになっている。


「我も自分の命が惜しい。分が悪くなれば、街の住民共を置いてでも逃げるつもりである」


 ロズモンドがぽつりと零した。

 彼女の物言いに、ポメラが少しムッとしたように顔を顰める。


「故郷のために……せめて、街の人達を逃がす手伝いがしたかったのではないのですか?」


「ハッ、馬鹿を言え。だからといって、我は無謀な死を選ぶつもりなどないわ!」


 ロズモンドの言っていることは当然のことだ。

 命を擲ってまで少しでも多くの住民を守ると、そんな崇高な想いで冒険者をやっている人間など、ほとんどいないだろう。

 俺だってそんな覚悟はできていない。

 敢えてそれを口にするロズモンドは偽悪的でもあった。


「で、でも、わざわざ、そんな言い方をしなくたって……!」


「ハッ! 魔法の腕は立つようだが、経験は随分と浅いと見える。鈍い小娘よ。お人よしの貴様らに、助言をくれてやろうというのだ」


  ロズモンドが高圧的に口にする。


「な、なんでしょうか」


 ポメラが口を曲げたまま、ロズモンドの言葉に応じる。


「……どこまで残って、どうなれば逃げるのか、しっかりと頭の中で決めておくがいい。土壇場で改めてそれを考えるわけにはいかんぞ。黙ってはいはいと頷いていれば、危険な殿を押し付けられることもあるだろう。急いての行き当たりばったりの判断が、貴様らの信念に沿ったものであると言えるか? 誤った答えは、望まぬ死に直結し得る。そのときは悔いる時間さえないのだぞ」


 ポメラはロズモンドの助言が意外であったらしく、ぽかんと口を開けていた。

 だが、すぐにきゅっと口を結んで頷いた。


「…………はい、わかりました。ありがとうございます、ロズモンドさん」


 ポメラは少し恥ずかしそうにしていた。

 ロズモンドの口から、ろくでもない助言が出てくると思っていたのかもしれない。


 俺もポメラも、ロズモンドのことを誤解していたようだ。

 彼女は彼女なりに、魔法都市マナラークのことを思って行動しているのだ。


「……それで、その、そっちのガキも戦うのか?」


 ロズモンドが少し怯え気味に口にする。

 彼女の目線の先には、気合いを入れて握り拳を作るフィリアの姿があった。


「うんっ! フィリアも頑張るの!」


「そ、そうか……それは、心強い」


 ロズモンドは顔を逸らしながら口にした。

 

「……フィリアちゃんは、その、なるべく必要以上の力は使わないように気を付けてね」


「うんっ! わかった! フィリア、カナタの言うこと守る!」


 フィリアが俺の腰に抱き着き、得意げに俺を見上げる。

 俺はフィリアの頭を軽く撫でた。


 ポメラが不安そうに俺を見た。


「……仕方ありませんよ。敵の規模は、かなり大きいみたいですから。フィリアちゃんの力は、必ず役に立つはずです」


「……カナタさん、もしかして、またフィリアちゃんが何かやらかしたら、ポメラが誤魔化した方がいいのですか?」


 脳裏に始祖竜の一件が過ぎった。

 フィリアが造り出した始祖竜を誤魔化すために、アレはポメラが召喚したものとして一部の人間には伝わっている。

 ポメラは当然、そのことに思うところがあるのだろう。


 俺は自分の表情が引き攣るのを感じていた。

 俺はついロズモンドへと目を向けた。


「な、なんであるか。話の流れはわからぬが、我に何かを押し付けるつもりではあるまいな。厄介ごとは御免であるぞ」


 俺はポメラへと向き直った。


「ハハ……だ、大丈夫ですよ、ポメラさん。今度はその、俺が被るようにしますから……」


 ……ポメラにばかり押し付けているわけにもいかない。

 そんなことを繰り返していれば、ポメラが本人の実力以上の厄介な連中に目を付けられることに繋がりかねない。


 フィリアの頭を撫でながら、俺はロズモンドの言っていたことについて考えてみた。

 自分が、どこまで危険を取るのか。


 ガネットには大きな恩がある。

 集まった冒険者達は、皆それぞれに命を懸けて戦おうとしている。


 俺は少なくとも、A級冒険者達よりはかなり強い。

 彼らと同じ護衛任務についていて、本当にいいのだろうか?


 それに俺は……人前では、あまり力を使いたくはない。

 必要とあれば無論使うが、できれば避けたいところだ。

 今更ではあるが、他の冒険者達と同行して護衛任務につくのは、どの面から見てもあまりよくないのかもしれない。


 俺は街門の方へと目を向けた。

 先日の冒険者会議で、ラーニョの親玉の根城はわかっている。


 俺はラーニョをどれだけ数を相手にしても、後れを取るつもりはない。

 俺なら……根城に向かい、敵の数を根本から一気に減らすことだってできるはずだ。


 当然、大きな危険は付き纏う。

 敵はきっと、普通のラーニョだけではない。

 だが、俺はロズモンドの覚悟を聞き……実力を隠し、安全な場所に立っているだけではいけないのだと、そう思ったのだ。


 敵の雑兵を減らせるだけではなく、魔王のレベルや、実際の敵の規模なんかも掴めるはずだ。


「……ポメラさん、ロズモンドさん、フィリアちゃん。すいません、俺は護衛任務は、抜けさせてもらおうと思います」


「カッ、カナタさん!? どうしたんですか!?」


「……貴様、あれ程の力を持ちながら、護衛依頼には行かんというのか?」


 ポメラは驚きを、ロズモンドは苛立ちを露にした。

 フィリアはぷくっと頬を膨らませて「……カナタが行かないなら、フィリアも行きたくない」と不満げであった。


「すいません。どうしても……やりたいことができてしまったんです。移動先の地は、都市ポロロックでしたね? きっと、そこで合流しましょう」


「カナタさんがやりたいことがあるのでしたら、ポメラにもお手伝いさせてください!」


 俺は首を振った。


「申し訳ありません。偵察のような形になるので、俺一人で向かった方がいいかと。それに今回は異常な事態だと聞いています。ポメラさんとフィリアちゃんには、護衛依頼の保険になってあげてほしいんです」


「……わかりました。カナタさんがそう言うのであれば、ポメラはフィリアちゃんを連れて、護衛依頼の方に向かいます。……ただ、その、無茶はしないでくださいね。今回の魔王は、実際にはどれだけの規模なのか、ほとんど不詳だという話でした」


 ポメラもフィリアも、A級冒険者の水準よりはかなり強い。

 彼女達がいれば、馬車の移動の方も安全なはずだ。


 それに、ガネットにもしっかりと義理立てしておきたい。

 彼には大きな借りがある。筋を通さない人間だとは思われたくない。


 偵察に向かえば借りを返したことにはなるだろうが、どういった形で情報を伝えるかはまだ考えていないのだ。

 俺が調べてきたと明かさないことになるかもしれない。

 ガネットが目をつけているのは聖女ポメラであるし、彼女が参加するならば、ガネットは俺がいなくてもさして気には留めないはずだ。


「我が儘を口にしてすいません。ポメラさんと、フィリアちゃん、それからロズモンドさんも、気を付けてくださいね」


「はい。……カナタさんも、気を付けてくださいね」


「むー……わかった。フィリア、ポメラについていく」


 フィリアが頬を膨らませたままそう言った。


「……フン、仲間を危険に晒して私用とは、いい身分だな」


 ロズモンドは俺を軽蔑するように睨み、そう呟いた。


「……魔物は勿論ですが、アルフレッドに気を付けることも忘れないでくださいね。力でポメラさんに敵わないのはわかったので、もっと卑劣な手を取ってくるかもしれません」


 俺はポメラへと近づき、彼女へと声を潜めて耳打ちした。


 アルフレッドが次もしつこく絡んできたときは、俺が叩くつもりだった。

 アルフレッドは、あの様子では何を仕掛けてくるかわかったものではなかった。

 これ以上干渉されては敵わない。


 だが、都市ポロロックまでの間、俺とポメラは別行動することになる。

 アルフレッドは恐らく、護衛依頼のどさくさに紛れて仕掛けてくるはずだ。

 もしかしたら他の人達を巻き込むような手も取ってくるかもしれない。


「……ええ、わかっています。あの男は警戒しておきます」


 ポメラが頷く。


 俺は改めて彼女達へと頭を下げ、冒険者ギルドの前で別れることになった。

 俺は冒険者ギルドの前を横切って街門へと向かう。

 少し歩いてから振り返れば、ポメラ達が冒険者ギルドへと入っていくのが見えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ロヴィスとロズモンドみたいな現地で地道に強者になったキャラ好き。
[良い点] せっかくのカナタ接触チャンスだけど・・・ なんだろう 師匠だとこのチャンスもふいにしそうな予感がするw
[良い点] ロズモンドさんの地道に強くなった者の言葉の重み カナタの単独行動というあの人にとって千載一遇のチャンス!
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