かくも美しい毒花
処女作となります。
最後まで読んでいただけたら、とても嬉しいです。
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月明かりが照らす青白い部屋の中に、その美しい人はいた。
闇に溶けてしまいそうな黒く絹のような髪が、
白いカーテンとゆれている。
夜空のような瞳が目の前の男を見つめている。
(困ったことになったわ...)
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その美しい人の名は、シャクナゲ。
公爵令嬢であった、かつての名前は消え去られた。
王太子殿下と婚約関係ではあったが、殿下に想い人が現れたため
つい先日、婚約破棄となったのだ。
しかし、元々政略結婚であったので、特になにも問題がなく
すべてが済んだかのように思えた。
本来ならば、ただの令嬢にもどるだけの彼女なのだが、
彼女は今、修道院でひっそりと過ごしている。
始まりは公爵である父の一言。
「殿下の寵愛を受けるあの娘を消しなさい。」
あの娘の名前は、マリア=クリスティ。
女神マリア様のように優しい、聖女のような娘。
いわゆる恋敵のような立場にあったけれど、
私は彼女のこと嫌いではないわ。むしろ好ましいと思っているの。
父は野心で目が曇っていた。寵愛する女から目を離すなど、
優秀な殿下がするはずがないのに...気がつかないなんて馬鹿ね。
しかし、当主である父に逆らうわけにもいかず、
かといって私がマリア=クリスティを殺せるわけがない。
そんな隙が全くないもの。怪しい素振りはすぐにバレてしまうわ。
でも、そのとき幸運が訪れた。
私の家を殿下が調べているらしい、と優しい人に聞いたの。
普段の殿下ならば私のことも処罰するはず。
夜会で、目的の為に手段を選ばない毒花などと言われてる女を
殿下は信用しない。
でも、今は優しい彼女を寵愛中で、彼女の為に甘い処罰を
してきたのを知ってるわ。今ならば、マリア=クリスティに私が
泣きつけばきっと除外される。
聖女のような彼女が、
私にずっと罪悪感を持っているのは知っているもの。
「マリア様、二人で大事なお話がしたいの。」
身分が低い方から話しかけるのは本来マナー違反。
マリア=クリスティは殿下の婚約者なので私より身分は上。
それにも関わらず、嫌な顔ひとつせず了承してくれたわ。
やっぱり良い人ね、彼女。分かりやすくて好きだわ。
二人で、と言ったけど、実は知っているの。
この会話は殿下に筒抜け。でないと意味がないわ。
彼女は殿下を止めることは出来るけど、私に直接処罰を
する人ではないもの。
マリア=クリスティには涙が効果的。情に訴えかけるのが一番。
だから、涙ながらに言ったわ。
父親から殺害を依頼されたけど、
身分が下の私からの誘いを、笑顔でうなずいてくれるような
優しいあなたを殺すことはできない、、って。
予想通り、殿下がすぐに入ってきたわね。
しばらく言い合っていたけど、やっぱり愛した女には勝てないのか
私だけ、おとがめなし。
でもどうせ令嬢じゃなくなるんだし、今さら庶民として働くのも嫌だから、
彼女のためにも修道院で神に祈りたいと言ったらあっさりと許してくれたわ。
修道院のための費用も出してくれるみたいで、本当に甘々。
だから、涙を溜めて満面の笑みで殿下にお礼を言ったら、
殿下の顔が真っ赤。
あら、、これは失敗したかしら、、、?
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(やっぱり満面の笑みは失敗だったみたいね...)
殿下が親切心を装って修道院を訪ねてくるのは、まだいいわ。
夜会での毒花という噂の先入観のせいで
私の優しさに気づけなかったなどと色々言ってくるのも、まぁいいわ。
私を好きと思う気持ちだけ、私は修道院で過ごしやすくなるもの。
だから現状維持でいいと思っていたけれど、、これは、。
「シャクナゲ、マリアからお土産に持っていって
って言われたんだけど、どうかな?
君と同じ、シャクナゲっていう花らしいんだ」
月明かりをバックにして花を差し出す殿下は
物語のように美しいけれど、知らないんですか、殿下。
シャクナゲは毒花ですよ。
これは多分、マリア=クリスティではなく、彼女の信者かしら...。
もし、彼女であるならば、、、どっちが毒花か分からないわね。
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ありがとうございました!