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第九十四話 忍法・責女堕淫

 俺がせっかくきれいに植えた芋の苗を踏み散らかして、柵に向かって突き進んでいった男は、髪も髭も伸び放題のボサボサ頭で、ミイラのように痩せこけていた。


「ああ、あれは愚弄莉亜ぐろうりあ是頭ぜずさんじゃないですか、搾乳手コキ!」


「知ってる人なの?」


「さっき言おうとした、アベルとカインについて僕に教えてくれた人です。ちなみに彼は、無垢な子供たちに自分の小便をぶっかけては『聖水』だと主張していたため、ここに入院になった人で、僕の友達です、スポットライト!」


「お願いだからもうこれ以上危ない人を登場させないで!」


 俺がついメタな悲鳴を上げているうちにも、レゲエ野郎は畑を斜めに横切りながら、砂丘との境界に接近しつつあった。畑と竹柵との間は幅1メートル程度の砂地となっており、そこまで辿り着けば、脱走はほぼ成功したも同然だった。


「是頭さま! 愚弄莉亜の是頭さま! わしもつれていってくだせ!」


 患者の一人が作業を放り出して、彼に呼びかける。


「みんな磯さいくだ! おらといっしょに磯さいくだ!」


 是頭とかいう男は、口から泡を飛ばしながらよくわからんことを喚き散らし、ゴールに飛び込むスプリンターの如くスピードを上げ、後数歩で砂地に足が届かんばかりとなった。


「いいおとこおおおおおおおおおお!」


 突如俺の後方から、聞いたものの精神を恐怖に陥れるというドラゴンの咆哮にも似た雄叫びが轟き、それとともに、消火器から噴出する強化液のような白い液体が飛来し、脱走兵の足元に付着した。


「じゅすへる!」


 なんと白い液体は強い粘着性を持ち、是頭の足に絡みついたため、彼は転倒して頭から地面に激突し、謎の悲鳴を発した。


 俺が恐る恐る振り向くと、そこには案の定、XXXLぐらいのサイズのTシャツを捲り上げて、汚い右おっぱいを握りしめたヘビー級チャンピオンこと高山茜が仁王立ちしていた。グロテスクな黒乳首からは乳汁が糸を引いて垂れ下がっている。


「あの女、まさか忍法・責女堕淫せめだいんまで会得しているとは……ケツ掘りブランコ!」


「知っているのか、篠原……ってそんな忍法あるわけねーだろ!」


「でもあそこまで粘着力のある母乳なんて、忍法帖レベルの代物ですよ。確かお餅などを食べるとお乳がモロ平野よりも粘っこくなるとはいいますが、体質的なものもあるんですかね……リベンジポルノ!」


「そういやあのデブ、おやつの時間にフルーツジュースと安倍川餅ばっかり食べてたな」


 俺と篠原がのどかに母乳談義をしているところへ、「何事ですか!?」と、山田看護師が慌ただしく駆けてきた。いつもタイミングのいい人だな。


「ん?」


 その時俺は、野獣もかくやという茜が、坊主頭の看護師に向けてウインクしたのを見逃さなかった。一体全体どういうことだ?



「で、結局アベルとカインってのはなんなんだい、篠原さん?」


「えーっとですね、彼らはどうやら聖書の登場人物らしいです。アダムぐらいは知っていますか? チャンスボトル!」


「それぐらい知っているぞ、確かセックスセラピストだろ?」


「なんでそこでアダム徳永が出てくるんですか! アダムってのは神の造った最初の人間で、その妻イヴとの間に、カインとアベルという二人の息子を授かります。


 本当はその下にセトって弟もいて、それがノアとかイサクとかモーゼとかの先祖らしいですけれどね、クチュクチュバーン!」


「どうして凌辱ゲーの竿キャラが聖書に出てくるんだ?」


「それはイサクじゃなくて、伊頭遺作です! まったくこの記憶喪失くんは話が先に進みませんね、サントラム!」


「ご、ごめんごめん。わざとじゃないんだ」


 俺は、お怒り気味で、いつもの倍くらいに膨れ上がった点心顔に対し、素直に頭を下げた。ちなみに今日の彼の扇子は「六尺」である。


 脱走未遂騒ぎのため、農作業が中断になり、その後昼食も終わって自室に戻ってきた俺と篠原は、ベッドに腰掛けたまま、先程尻切れトンボに終わった話を再開していた。


 ちなみに労役を免除された清水の爺様は、ずっとベッドに臥床したままで、口を一生懸命ムニュムニュ動かしている。正直早く死んでほしい。


「いいですか、神様が弟のアベルばっかり可愛がるもんで、嫉妬したカインは、ついアベルを殺してしまい、追放されるんです。これが人類最初の殺人といわれています、インピオ!」


「なるほど、じゃあ、『アダムを殺した罪深きカインは、地の底で神罰を受けて滅ぶであろう』ってのは……」


「まんま奥村さんの死のことですねぇ。地の底ってのは、この病院のあだ名ですし……ブレストアイロニング!」


「……」


 俺は口をつぐむと、空になった隣のベッドを眺めやった。昨日まではそこで寝起きしていた人間が突如存在しなくなるというのは、中々受け入れにくいことではあった。


「確かに彼は親族殺人鬼だったけれど、個人的には気さくでいい奴だったと思うな。いろいろと教えてくれたし」


「僕もそう思います。病気のせいもあったんでしょうけれど、不憫な男でしたね、スタンプテスト!」


「しかし、師匠は何故彼の死のことを予想できたのか……って占い師に対してそんなこというのも野暮かもしれないけど」


「そうですね。彼女が奥村さんを殺したっていうのなら筋は通りますが、さすがに隔離中の人がそんなことできるわけもありませんしね、御石神落とし!」


「うーむ、マルチのことも気になるし……」と俺が言いかけた時、部屋の外で、「う、うわーっ!」という女性の叫び声が上がった。

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