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第八十三話 リボルテック歓喜仏はまだですか?

昔々のその昔、お釈迦様が腐ったキノコスープ食って食あたりして、いよいよ亡くなる寸前の時のお話や。


 世界中のありとあらゆる生き物が、お釈迦様のところにお見舞いに来よった。


 皆常日頃からお釈迦様の説教をありがたく聞いて、生きる道しるべにしとったんや。


 死ぬ前にいろいろ聞いておこうと思ったんやろうなあ。


 そのうち皆、どうも遠慮がなくなったようで、アッチ系の質問が多くなったんや。


 アッチっていったら、そりゃあんたアッチやで。皆好きなアレや。


 お釈迦様も若い頃はモテモテの白馬の王子様で、王宮ではそりゃ激しかったそうや。


 いろんなぷれいや性癖のぷろふぇっしょなるやで。皆教えを受けたがった。


 例えばお釈迦様となじみの深いゾウさんがこう聞いてきたんや。


「シッダルダーさんや、わしは嫁とどのくらいの頻度でお勤めしたらええもんでしゃっろ? 最近疲れてますのんや」


「あんたは身体がでかいし、奥さんとは5年に一回ぐらいでええわ。


 ちゃんと自慢の鼻で、ワイフのアレをクリクリッとしてやれよ。


 拙僧がリア厨の頃、遠足で近くの動物園に行ったときなんぞ、婆さんゾウが、鼻でずっと自分の長い乳首を引っ張って遊んでおったもんや。


 いわゆるチ○ニーってやつやな。


 ガキの拙僧はそれをかぶりつきで鼻血垂らして見とったんやで」


「へー、さすがは悟りを開いた御方はなんでも知ってはるんやなあ。えろう参考になるわ」


 こんな調子で皆お釈迦様がチアノーゼが出ているにもかかわらず、次から次へと質問しに来たんや。


 お釈迦様はまた律儀にも、それに一つ一つ答えてやった。


 しかしそろそろ心肺停止状態が近づき、さすがに大儀になってきたとき、ようやく人間代表が来て、こんな質問をしおった。


「で、結局私たちはどれくらいの頻度で、どんなプレイでやるのがいいんでしょうか? いろいろありすぎてわからないんです」


 その時はさすがのお釈迦様も疲れておって、どうでもよくなっておった。それでつい阿修羅のような形相で答えてしまった。


「勝手にせいや!」


 それ以来、人間は勝手にするようになったとさ。どんとはらい。



「なるほど、いい話ですね……って、全然仏像関係ないやんけ!」


 病室で、元住職のふがふが話をなんとか翻訳しつつ拝聴していた俺は、ついにこらえ切れず突っ込んでしまった。


 彼に、くだんの仏像が坐像だったか立像だったかを質問しただけなのに、いきなりよくわからん仏教説話を懇々と講釈され、いささか苛立っていた。


 現在の時間は午後四時で、同室者の残り二人はどちらも不在だったため、他に聞く相手もいなかったのだ。


「仕方がないな、ちょっくら探してくるか」


 どうせ二人とも閉鎖病棟から出られるわけはないので、俺は、白い涎を滴らせながら更に喋りつづける糞坊主に背を向け、病室を抜け出した。


 毎度おなじみデイルームを訪れると、人影はまばらで、知り合いの姿は見えなかった。


 だが、もう一度よく眺めていると、ホールの端の、「面会室」というプレートがかけられたドアが開き、猫背の奥村伸一と、彼以上に腰の曲がった老婆と、男性看護師が出てくるのが目に入った。


 老婆は上品な服装をしており、すごい前かがみでちょこちょこ小刻みに足を前に動かしており、転ばないか見ていてひやひやするほどだった。


 恐らくあれが、彼の祖母なのだろう。なんだか瞳に涙を浮かべているようにも見えるが……。


 三人はそのまま病棟の出入り口に進んでいき、看護師がドアの鍵を開けると、老婆が、小声でささやきながら、外に消えて行った。


 身寄りのいない俺は、ちょっぴり彼が羨ましくなった、といっても親族殺人がしたいわけではないのだが。


 ただ、去り際の彼女の言葉が、「ごめんなさいね、私のせいで……」と聞こえたのが、少しばかり気になった。


「今の人って、おばあさんですか?」


 俺は、こちらに向かってくるシリアルキラーに話しかけた。


「ああ、あれは妻の母だよ。もう臨月で来れない女房に変わってお見舞いに来てくれたんだ。


 本人もパーキンソン病で歩きにくいっていうのに、ご苦労様なこった。


 しっかし女房のやつ、俺が入院しているのが不満だそうで、別れるとまで言ってるそうだ。やんなっちまうよ」


 伸一は、濁りきった目をしながら、頭をポリポリとかいた。


 俺は、数日前に師匠から聞いた話を反芻した。殺人事件の後、伸一は、自分は実はとっくに美大を卒業した画家の卵で、既に美人の妻と結婚しているという奇妙な妄想に取りつかれ出したという。


 入院になったのも弟を殺したためではなく、反社会的な作風の絵ばかり描いた結果ということになっており、たまに見舞いに来る母は本物ではなく、妻が変装しているんだと言い張り続けたとのこと。今度は祖母にまで妄想が飛び火したのだろう。


 こんな文字通りサイコなやつにものを尋ねても無駄ではないかという気がしたが、自分のこと以外については結構まともに答えるので、俺は例の仏像について聞いてみたが、全く興味ないので知らないとのことだった。


「デッサン用にエロゲーのエロフィギュアとかならこっそり買っていたけど、さすがに仏像は守備範囲じゃないもんでね」


「なんでエロフィギュアをデッサンに使うんですか!? デッサン人形とかあるでしょーに!」


「よくあることだぞ。『ホーリーランド』や『自殺島』で有名な森恒二先生もデッサン用にアキバで買ってたって『ベルセルク』の作者にばらされてたし、仕事場にエロフィギュアを大量に飾っている漫画家もいるって話だ」


「それ絶対デッサン用じゃないと思う……」


「でも、どうして仏像の体位なんか聞くんだい?」


「いえ、何か手がかりになるかと思って……」


「はは、あんたまるで探偵みたいだな。結構向いているんじゃないか?」


「探偵、ですか……いいかもしれませんね、面白そうですし」


 将来に何の展望もなかった俺だが、ほんのわずか、灯が見えた気がした。


 探偵になれば、自分の最も探したいもの……すなわち自分の過去を、見つけだすことができるかもしれない。

ちなみに上記の仏教説話は、僕が以前2ちゃんねるで書き散らかしていたものです。「仏の性癖」というお題で書いたものですが、象さんのくだりはほぼ作者の体験談でございます。小田原城址公園のウメ子よ……チ○ニーを教えてくれてありがとう。

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