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第六十八話 ご都合主義って腹立つときあるよね

『諸君には誠に申し訳ないことをしてしまったと思う。しかしそれしか方法が無かったのだ。


 まだ竜胆君の強い感情が熾火のように燻っているその時を逃せば、OBSたちはこちらの世界に出現する機会を永遠に失ってしまう。


 門が閉じ切る前に、急がねばならなかったのだ。察して欲しい』


 司令は語りながら、深々と角刈り頭を下げた。


 せめてもの謝意のつもりなんだろうが、衝撃を受けた俺達はぽかんと口を開けたまま、リアルラブドールの如く固まっていた。


『というわけで、私は計三体のクローンを竜胆君より生み出した。


 どういうわけか、全員年齢はバラバラで、それぞれ十四歳、二十四歳、三十四歳程度の肉体を持っていた。


 つまり、前から順に、羊女、砂浜太郎君、チクチンということだ。


 君たちがOBSと強い親和性を持っていたのは、ある意味当たり前だったのだ。


 また、君たちが記憶を失っているのも無理はない。


 元からそんなものは存在しなかったのだから。


 恐らく諸君は真実を知った今、私を殺したい程憎んでいるだろうが、もう死んでしまったので願いをかなえてやれなくてすまん。この通りだ』


 そこで画面の司令は再び頭を垂れるが、俺たちは依然凍りついたままだった。


 憎しみよりも、現実を受け入れがたい気持ちで一杯だった。


 理屈は分かるが、納得出来るかどうかは、全く別の問題だった。


『三人のクローンの発生とほぼ同時に、残り三体のOBSも、君たちを次元の扉として出現した。


 私は一旦胸を撫で下ろすとともに、とにかく一刻も早く人目を避け、安全な場所に異動するべく、辺りを見回したところ、運良く浜辺の外れにキーを刺しっ放しのカローラが一台停車していたため、悪いとは思いつつも速やかにOBSたちを詰め込んだ後、無断で運転してその場を去った。


 この世界はいわば私の元いた次元の過去の並行世界に近いため、自動車の操縦もほぼ同様のシステムで、なんとか出来た。


 しばらく車を走らせ、荒れ果てた廃病院を捜し当てた私は、その中にOBSと自分自身を隠し、来るべき時まで仮眠することとした。


 無駄にエネルギーを消費しないために』


「……そうか、OBSもエロゲと同じ感情の波の変化したものですから、活動するだけでどんどんパワーを使うので、消滅させないために眠りについた、というわけですね」


 少しばかりショックから立ち直ったのか、竜胆少年が意見を述べる。


 それにしてもその略語気に入ったようだな。


『私の説明は以上だ。諸君には、辛い運命と任務を押しつけて、誠に申し訳ない。


 いくら謝っても足りないだろう。だが、誰かがやらねばならなかったのだ。それを理解して欲しい。


 あと、暖かい季節は問題ないが、寒くなるとOBSの繊細な乳首はキュッと縮みあがってしまうので、よく温めてから出撃して欲しい。


 では、今後の無事を祈る。ちなみに……いや、何でもない、さらばだ』


 俺は司令の言葉が途絶え、映像が途切れるとともに、ヘルメットが爆発するのではないかと一瞬身がまえたが、どうやらそんな馬鹿なことは無さそうだったのでホッとした。


 最近いろいろあったので、無駄に用心深くなり過ぎていたかもしれない。


「でも乳首の心配は余計だよ!」


 つい突っ込んでしまうのも、これが最後かと思うと妙に寂しかった。


 だが、クローンの件のショックが消えたわけではなく、身体に深い穴を穿たれたような気分だった。どうしても信じられない。


「司令の言ったことって本当だと思う、リンちゃん?」


 羊女が、長い夢から覚めたばかりのような虚ろな声で、そっと尋ねる。


「僕らがマモーだかミモーだかミル姉さんだかみたいに人工的な複製人間だって話ですか? 


 確かに現状を上手く説明出来ているとは思いますが、そんな能力が都合よく手に入ったなんて、あまりにも出来過ぎていて、脚本家の腕を疑いますね。


 話は変わりますが、原作を無視したり改悪したりするアニメ監督のことを、僕は原作レイプマンと呼んで注目しているんですが……」


 彼は、未だに眠っているチクチンの背中をさすりながら、辛辣な台詞を吐き続けた。


 確かにご都合主義過ぎる点は、話のあちこちに見られ、やや不自然だった。だが……。


「じゃあ、DNA一致の件は、一体どう説明するんだ?」


「多分検体の取り違えです。よくあることですよ、砂浜さん」


「よくあってたまるかい!」


「意外と多いんですよ、右の乳首と左の乳首を取り違えちゃったとか!」


「それを言うなら乳首じゃなくて乳房だろう!」


「二人とも喧嘩はやめんかい! 司令が悲しむぞ!」


「「はぁ……」」


 明王の如き憤怒の女医に叱られ、俺たちは黙り込んだ。


「皆の思いは分からんでもない。いきなりこんなとんでもないことを言われて、信じろと言う方が無茶やろう。


 だが、司令は理由なく嘘を吐くような人間やなかった。


 精神科医のうらが判断するんやから間違いない。


 何よりこれは皆に伝えたかった大事なメッセージやぞ。いい加減な事言うてどないするが?」


 俺は頭を下げつつ、彼女の言葉を噛みしめるように味わった。


 確かに一々ごもっともなことだ。死を覚悟した人間が、わざわざ手間暇かけて俺たちを騙すメリットが分からない。


 でも、俺の心の奥底には、理では割り切れないものがあった。


 ……もし彼が、何か理由があって嘘を吐いていたとしたら?


 俺は、忘れもしない、一昨日の、司令の死亡時のことを頭に思い描いていた。

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