第六話 おっぱいは怖い
「お、おおおおおおおおおおおおおおっ!」
白いハイエースが、次いで見慣れた街がぐんぐん小さくなり、ミニチュア模型と化していく。
飛行機に乗ったことはあったが、あの時の感覚よりももっと迫力があり、感動が全然違った。
自分が直に操縦しているためだろうか?
「ヒャッハー! 最高! メガラッキー!」
「い、いたたたたたたたっ!
花音、そんなにパパの乳首を引っ張らないで!」
興奮のあまりハイになっている花音に注意しつつも、俺もテンションの高なりを抑えられず、空いている左手を握りしめ、思わずガッツポーズなんかしてしまったりした。すげえ。
『お楽しみ中のところを悪いが、乳首を離した方がいいぞ。もうそろそろ安定飛行に移る』
「わ、分かりました、司令!」
慌ててOBSの右乳首を離してやる。と同時に花音も俺の乳首を離してくれたので胸をなでおろす。
このままだと俺は間違いなく○クニーでしかイけない身体になってしまうだろう。
薄手のシャツとか着れなくなっちゃう。
本気でメンズブラの購入も考えとくか……。
『よし、ちょっと左に旋回してみろ。ストールに気をつけろよ』
司令の声に、現実に引き戻される。
まったく、一息つく暇もありゃしない。
ところでストールってゲリラ豪雨かなんか? ってそれはスコールだっけ。
てなことを考えていると、早くも花音の丸っこい手が俺の左乳首にさわさわと触れる。
「はいはい、左乳首ですね」
今度は慎重に、間違えずに左腕を伸ばすと、毛の生えた左乳首をキュッとひねる。
OBSがなんか悶えている気がするが、気流による振動ってことにしておこう。
OBSは進路を左に変え、小さく旋回を始めた。
だが、どんどん高度が落ちているような……。
「パパ! 落ちる! 堕ちる! 死ぬ!」
「わわわ、こ、こりゃどうすればいいんだ!?」
『む、乳首のひねり方が小さ過ぎたようだな。
それでは小回りになるから失速するぞ。
さっきそれに気をつけろと言ったばかりではないか』
「ストールって失速のことかよ! 知らないよ、そんなの! で、どうすんのこれ!?」
「パパ! 右乳首! 引っ張る!」
「痛っ!」
花音が俺の右乳首を千切れんばかりに引っ張るので、俺は死ぬかと思った。
このままではドライオーガズムに達してしまう! だが……。
「そうか、さっきの離陸と同じように、機首を真っ直ぐにして、上げるわけか!」
俺は指導教官のおっしゃる通り、OBSの左乳首を離すと同時に右乳首を強く引っ張った。
ニュートラルな進路に戻ったOBSは、最初はどんどん高度を下げて行ったが、地面に激突するかというところで危うく体勢を立て直し、上昇へと転じた。
揚力が発生したのだ。
『危なかったな。見ていてひやひやしたぞ』
「ひやひやどころじゃなくて、心臓が凍りつきましたよこっちは!
まぁ、無事でよかったですけど」
『まったくだ。しかし優秀な娘さんだな』
「いやあ、それほどのもんでもありますが、ハハハハハ……」
「パパ! 敵! おっぱい!」
「えっ!?」
おだてられて、つい親馬鹿モードに突入してしまった俺は、当の本人の台詞で冷静さを取り戻した。
無事方向転換した俺達の進路に、あのおっぱいおばけの巨体が浮かんでいやがった。
距離にして三百メートルは離れているだろうか。
そしてその肉塊に突進していくOBSが一機。
「あれは……羊女!」
『悪いけどあたしが先に倒しちゃうわよ、新人さん。オーホホホホっ!』
耳元で羊女の笑い声が響き、俺は軽い頭痛を覚えた。
彼もどうやら俺に通信してきたらしい。
「倒すったって、どうやるんですか?」
『そりゃもちろん、頭突きかチョップよ! まずは小手調べね』
「特攻しかないのかよこの機体!」
『大丈夫、敵に当たったくらいじゃOBSはびくともしないわ。
まあ見ててごらんなさいな』
という会話の最中も、どんどん羊女を乗せたOBSは怪物に接近していく。
だが、あと十メートルほどに迫ったとき、巨大おっぱいの右乳首が光を放った。
「ぬおっ!」
凄まじい熱量を持った光線が羊女機を襲い、彼らは一瞬にして吹き飛んだ。
あたりを熱風が吹き荒れ、離れているこちらにも余波が届くほどだ。
俺は思わずUターンしておうちに帰りたくなってきた。
「パパ! 進路! ずれてる!」
「無理無理無理無理、あんなの倒せるわけねーって!
さっきの見ただろ、一発で蒸発しちゃうよ!」
『あーら、まだ死んでないわよ』
「えっ、生きてたの!?」
『後ろを見てごらんなさい』
言葉につられて振り向くと、なんと俺達の後方に、角刈り頭と銀髪がちらっと見えた。
『エンジェルズ・エプロンのおかげでなんとか助かったけど、ここまで飛ばされちゃったわ』
「良かった、無事で……しかしバシルーラ並の光線ですね」
『うむ、あれはおそらくレーザービームだろう。避けるのは困難だな』
「こっちもなんか長距離兵器はないんですか!?
このままじゃ近付くことすらできませんよ!」
『まぁ、ないことはないんだが、ちと使用方法が難しくての。
しかも一発限りなので外すことは許されん』
「えっ、あるんですか!? それを早く教えて下さいよ!
てかなんで羊女さんはさっきそれ使わなかったんですか?」
『あたしは舐めプ好きなの! もちろん舐められるのも好きよ』
「聞いてねえ! で、どこに装備されているんですか?
みたところ、脂肪しかないんですが……ハッ」
目で武器を捜しつつ、俺はそこはかとなく嫌な予感がしてきた。
何しろこのOBSは操縦桿からして乳首というとんでもない超兵器だ。まさか……。
『そうだ、立派な機銃が腰に装備されているだろう』
「やっぱりいいいいいいいいいいいいい!」
俺は唐突に死にたくなった。