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第六十四話 涙のストリーキング

全身血だらけになった司令の決死の呪文詠唱と共に、彼の周囲に光の粒子が帯電し、純白のレースのカーテンよりも柔らかな被膜を形成する。


 その美しい輝きは、彼をよく煮えた芋に刺さった串の如く突き通す触手全体にまで及んだ。


 遂にわぬわぬを鳥籠に封じ込めることに成功したのだ。だが……。


「司令、どうして避けなかったんですか!? 大丈夫ですか!?」


 明らかに大丈夫じゃないと分かっていても、俺はひたすら彼に呼び掛けざるを得なかった。


 周囲の血だまりはみるみる広がっていき、ステージ中央を朱に染め上げていく。


 役者の最後の花道を彩る死のレッドカーペット。


 観客の中には悲鳴を上げる者も多く、


「演出にしてはやり過ぎじゃないか?」、


「これっていろんな意味で放送できるの?」、


「それより歌の続きが聞きたいわ! 歌詞を教えてちょうだい!」


 という声も聞こえた。


『うるさい! 砂浜君、私の心配なんかより、今、君にはすべきことがあるだろう!? 


 私の意識が無くなる前に、ちょちょっとそれをやりたまえ!』


 とても出血多量で死にそうとは思えない怒鳴り声に一喝され、俺は目の覚める思いがした。


 そうだ、一刻も早くOTに尿道カテーテルを突っ込んで、あの怪物にウロ・シュートをぶっかけねばならない。


「わかりました! 後で必ず助けに行きます!」


『頼んだぞ、私の努力を無にするな! 今こそ千載一遇のチャンスだ!』


 確かに司令の言う通り、わぬわぬはしきりに、


「ワープ出来ないわぬ! こいつのせいかわぬ!?」


 などとうろたえまくっているようだ。


 花音はといえば、泣きつかれたのか、うぇっぷうぇっぷとえずいている様子だ。


 今のうちに、何としてでも俺が皆を救わなければならない。


 震える右手で抱っこ紐のジッパーを開き、尿道カテーテルを袋から取り出すと、OTを左手で摘まみ上げ、マニュアル通り挿入していく。


 ぬるぬると吸い込まれていく茶色い管の動きが、今日はやけに遅く感じられ、もどかしい。


「焦っちゃ駄目だ、焦っちゃ駄目だ」


 と、つい口に出して、念仏の如く唱えてしまう。


 深呼吸、深呼吸。


 バルーンに空気を注入し、ようやく手順を一通り終わらせると、俺は獲物を捜すトンビのような旋回を止め、今回やけに酷使しているOBSの左乳首をもう一度引っ張って急降下しながら、猛禽類の如く狙いを定めた。


「行っけえええええええええ! 


 ウロ・シュートォォォォォォォォ!」


 全身全霊を込めた雄叫びと共に、再度山吹色の液体が、ステージ上空にスプラッシュする。


 司令の身体から触手を引っこ抜こうと躍起になっているわぬわぬの体表に、猛毒の雨滴は千本の黄金の針となって襲いかかり、長かった戦いに終止符を打つ。


「いおへRTぃHMヴぉいうぇRT」


 例の如く、葬列の挽歌にも似た声にならない悲鳴を上げながら、どろどろと触手が溶けていく。


 エロンゲーションそのものと化していたレイコちゃんのミイラも、髪の毛や皮膚が剥がれ落ち、白骨となって崩れ去る。


 これで彼女の魂も、安らかな眠りにつくことが出来るだろう。


「ぐおおおおおおおお!」


 なお、俺を乗せたOBSは、ステージ後方の物をなぎ倒しながら、凄まじい音をたてて地面を直進していった。


 いわゆる胴体着陸だ。


 エンジェルズ・エプロンのおかげでダメージは少ないが、毎回こうしないと着陸出来ないのは不便極まる。


 早いとこ垂直着陸システムも開発して欲しいものだ。


「あいててて……」


 とにもかくにも、なんとか地上に降り立った俺は、そこら辺に落ちていた軍手で前を隠しつつ、全裸でステージ目掛けてかけていく。


 とてつもなくストリーキング的な行動だが、他に選択肢は無かった、


「キャーッ、全裸マンがこっちに向かってくるわ!」


「人に見られて乳首が勃起しているとは……本物の変態だな」


「でも軍手で隠すってのはいいアイデアだな。根元で縛ればいいのか」


 人々の無遠慮なご意見が否応なく耳に飛び込んでくる。


 この緊急時に格好なんかかまっていられない……と言いたいが、やっぱり後ろめたさや恥ずかしい気持ちはあり、俺はこっそり涙を浮かべた。


 グラサンとマスクがこの時ほどありがたいと思ったことはなかった。


 きっと闇の衣を脱ぎ捨て肉体を曝け出そうとしたミストバーンも、こんな気持ちだったのだろう。


 慌てふためく観客たちを掻き分け、未だに煙を上げている触手を目印に突き進む。


 近付くごとに、惨状がよく理解出来た。


 司令は、身体に刺さった触手は全て抜け落ちていたが全身穴だらけで、ご自慢のタキシードはズタズタになり、仰向けに血の海に倒れてびくともしない。


 花音の方は、気絶している模様で、触手に絡まったままぐったりしているが、胸は上下しており、息はある様子だ。


 どうも尿のかかり具合によって、エロンゲーションの消滅速度も若干差が出るらしい。


「司令! 花音! 生きているか!?」


 俺は限界まで声を張り上げながら、全裸のまま、ステージ上に駆け上がった。

というわけで、もうちょっとで戦闘にケリがつきそうなところ、誠にすいませんが、またもや一週間お休みさせて下さい。

次回は11月12日更新再開予定です!

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