第六十一話 空中作戦会議その2
『よって、敵さんのワープを封じるには、バリアを張らせればよいわけだ。
だが、そう簡単に使ってくれるとは思えん。それこそが最大の問題点だ』
司令はそこで嘆息を吐く。確かにその通りだ。
触手野郎は余裕綽々のご様子で、こちらを舐め切っている様子が伺える。
俺は必死で頭を捻る。何しろ時間が無い。
何とか攻略法の糸口を掴み、五分以内に愛する娘を魔の手から救い出さねばならないのだ。
「ユミバちゃん、銃弾はまだあるか?」
『実はさっきのバトルでもう弾切れなんだよ。
本来は御禁制の品なんでそんなに売ってくれなかったし、何せガトリングガンは消費がバカ早くてねー』
『やはりそうか。やっこさんはOBSの攻撃はバリアなんぞ必要ないと自惚れているみたいだし、困ったものだ』と司令。
つまりOBSは銃以下の存在ってことですか? 舐められたものだ。
「じゃあ、結局手詰まりじゃないですか!」
『いえ、そうでもないわ、太郎ちゃん! 一つだけ、良い方法があるわよ!』
突如羊女が唾を飛ばしかねない勢いで会話に乱入する。
「下ネタでないなら発言を許可する」
『んも~、信用ないわね~。でも、聞いたら絶対あたしに惚れちゃうわよ~。
いや~ん、まいっちんぐ~』
「んなことありえんからはよ言えや!
あと、俺はボコメン先生の方が好きなんじゃ!
ついでに言わせてもらうと、スープーマンとかもな!」
ちょっとエロい古めの少年向け漫画集めが、俺の密かな趣味だった。
『どうどう、わかったから言うわよ。
ほら、あたしたちがエンジェルズ・エプロンを展開した時って、その効果はOBSに触れている者たち全てに及ぶでしょ。
以前、空港で司令が行った時もそうだったじゃない。
だから、一旦エンジェルズ・エプロンを解除し、OBSに乗ったまま、あのぬるぬる超神伝説うろつき童子ちゃんに触れて、そこで再びエンジェルズ・エプロンを発動させたら、あいつもその中に巻き込まれちゃって閉じ込められ、ワープ出来なくなるって寸法よ』
「ハラショー! スパシーバ!」
ドブの影響か、俺は思わずロシア語で叫んでいた。
なるほど、その作戦なら、奴を行動不能にでき、その上でウロ・シュートを心おきなくぶっかければ、簡単に退治することができる。
それにしてもこの色ボケホモ畜生は、ジョジョキャラ並に、時々IQが跳ね上がることがあるな。
「やるじゃないか羊女! 今年こそノーベルフランス書院文学賞間違いなしだ!」
『あ~ん、もっと褒めて褒めて~』
『ただ、となると誰が実行するかだな。
現在ウロ・シュート可能なのは砂浜君のOBSのみだし、となると必然的に……』
『もちろん、言いだしっぺのあたしがやってやるわよ。
まずはエンジェルズ・エプロン解除!……って、きゃぁ!』
「ぬぉっ!」
あまりに長い俺たちの作戦会議に業を煮やしたのか、何本もの触手が集まった肉槍が、羊女目掛けて突き進んできていた。
ちょうどOBSの腹部に手をまわしていた羊女は、咄嗟のことに対応できず、攻撃をもろに喰らって、地面に向かって落下していく。
「まずは五月蠅い子蠅を一匹撃墜だわぬ~、しょくしょくしょくしょくしょくしゅっしゅ!」
「パパーっ! メリーさーんっ! 羊の女は角にも立たすな!」
具現化した悪夢の如き生物は、泣き叫ぶ花音を捉えたまま高笑いするように歌う。
俺は慌てて羊女を追って、OBSの左乳首を千切れんばかりに引っ張り急降下するが、到底間に合いそうにない。
右腕部分を負傷した、羊女を乗せたOBSに、固いコンクリートの地面が迫りつつある。一体どうすれば……。
「そうだ、羊女! もう一度エンジェルズ・エプロンを作動しろ!」
『OK! エンジェルズ・エプロン!』
彼が叫んだ直後、凄まじい轟音と共に大地が割れた。
会場の外にある駐車場に、OBSが激突したのだ。
OBSの右乳首に手をかけた俺が急上昇に転じる直前に確認したところ、どうやらぎりぎりで発動は間に合ったらしく、怪我はしているらしいが、羊女の命に別条は無さそうだった。
『痛たたた……でもおかげで助かったわ。ありがとう、太郎ちゃん!』
「良かった……間一髪だったな。しかし本当に大丈夫か?」
『OBSもあたしも満身創痍だけれど、とりあえずは生きているわ。
でも、悪いけれど、ちょっと動けそうにないわね』
「そうか……仕方ない、さっきの案は中止せざるを得ないか。しかしどうすれば……」
相棒(不本意だが)が無事だったことにホッとするも、事態は悪化していた。
これではワープ封じは行えず、作戦会議は振り出しに戻ってしまった。
敵に知能があるとは、かくも厄介なことだったのか……正直言って勝てる気がしない……。
どうすればいいんだ、一体どうすれば花音を取り返せるんだ……。
悩む俺は、いつしか思考の袋小路に迷い込み、記憶の迷路を彷徨っていた。