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第六十話 空中作戦会議

「ハッハッハ、鬼さんこちらだわぬ~」


「見ろ! 人が! ゴミのようだ!」


 なんと俺たちの遥か上空から、忌々しい嘲笑が響いて来た。


 顔を上げると、にび色の空を背景に、触手を羽のように広げたモンスターが、先端に花音を巻き付けたまま、空中浮遊していた。


 しかしこんなときでも笑っている花音はちと豪胆過ぎると我が子ながら思ったが、よく考えれば俺の背中に負ぶさって、今まで空中戦を二度も体験してきたわけだから、これくらいはへっちゃらなのかもしれない。


「花音を返せ! 貴様、一体何が目的だ!?」


 俺はOBSの乳首を捻って方向転換しつつ、雷鳴の如き大声を放った。


「そんなの決まっているわぬー、この会場にいる筈の誰かさんだわぬー」


「誰かさんって……ひょっとして!?」


 先程までの控室での壮絶なバトルが脳裏をよぎる。


「そうだわぬー、ユミバちゃんだわぬ!」


 怪物も、俺に対抗するように声を張り上げ、地上に向けて恫喝した。


「ユミバちゃん、今すぐわぬわぬの目の前に現れ、武器を捨てて投降しないと、この子ブタちゃんを叩き潰してサイレントベイビーにしちゃうんだわぬ! 早く出てくるわぬ!」


「や、やめろ、やめてくれーっ!」


 血相を変え、懇願する俺を見て、邪悪な黄衣の王は、ほくそ笑んだ、ように感じた。


「おやおや、裸のカッパさんがこの子のパパさんだったかわぬ? こりゃ丁度いいわぬ。


 それ以上近付くんじゃないわぬ! 今から五分おきに、彼女の手足を一本ずつもぎ取って行くから、だるまさんになる前にユミバちゃんが出てきてくれることを神に祈るわぬ!」


「な、何を言うんだ!?」


 俺は全身の血液が一気に凍りついたように、その場に固まってしまった。


「パパ!」


 それを聞いて、さすがの花音も異変を察知したのか、真剣な表情になり、俺に呼び掛ける。


「花音!」


 今すぐにでも抱きしめてやりたかったのだが、近寄ることすら出来ない俺はどうすることも出来ず、彼女の周囲を旋回するのみだった。


『探偵さん、聞こえる?』


 焦燥感いや増す俺の鼓膜を、ふと、天上の音楽にも似た天使の囁き声がかすかに振動させた。


「ユミバちゃん!? 無事だったのか? 今、一体何処にいるんだ?」


 俺もひそひそ声で言葉を交わす。敵に気付かれてはならない。


『会場の隅に潜んでそっちを見上げているよ。探偵さんたちの会話は皆聞いてたけど、どうすればいい? 


 花音ちゃんを殺させるわけにはいかないし、僕が出て行った方がいいの?』


「っ……!」


 俺は返答に窮した。親としての自分は、今すぐにでも花音ちゃんに人質交換として悪魔の生贄になって頂きたい気持でいっぱいだったが、探偵として、否、人間としての自分は、さすがにそれは駄目だろうと、焦りを抑える冷静さを持っていた。


「駄目だ……今、出てきちゃいけない」


 血を吐くようにして、そう喉の奥から途切れ途切れに言葉を紡ぎ出すのが精一杯だった。


 いくらこの世の誰よりも娘を愛していても、代わりに彼女の命を引き換えにしていい筈がない。


 だが、ではどうすればいいというんだ?


「くそっ、せめてウロ・シュートを当てることさえ出来れば……でも、羊女はさっき外してしまったし、後は俺のだけか……」


 ちなみにOBSは、スペースの関係もあり、今日は車に二機しか積んできていない。


 こうなることがわかっていれば、全機連れて来たのだが、後悔先に立たず、だ。


 かくなる上は、何としてでも俺がけりをつけるしかあるまい。しかし……。


『またワープで逃げられたらどうしようもない、そう考えているんだろう、砂浜君?』


「司令……その通りですが、何かいい案でもあるんですか?」


 俺は、急に通信に割り込んできた野太い声に、そっけなく答えた。


『確実にとは言えないが、一つだけ策がある。


 ただ、実現するには困難な点が多く、どうやって実行すべきか悩んでおったのだ』


「ハウディホー! どんなミラクルベルマジックなアイディアがあるんですか!?」


 俺は興奮のあまり、ついクリスマスにだけ登場するう○こみたいな奇声を発してしまった。


『まあ落ち着け。お前は、わぬわぬが会場に瞬間移動してきた時、室内ではしていたバリアをしていなかったのに気付いたか?』


「そういえばそうでしたね。深くは考えませんでしたが……」


『そしてここで戦闘が開始してからも、一回もバリアを張っていない。何故だかわかるか?』


「えっと……」


『これは私の推測だが、多分奴は、バリア展開時は、ワープが使えないのではないかと思われる。


 おそらく瞬間移動に対する何らかの障害が発生するのだろう』


「な、なるほど……」


 俺は、司令の観察眼に、密かに舌を巻いた。


 腐っても研究者だわ、このオヤジ。

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