第五十二話 テレビ放映時って大体半分ぐらいに削られるよね地方公演
「わぬわぬー、デクたん、ねぇ、聞いて聞いてー」
「どうしたんだわぬ、ユミバちゃん?」
「デデデ……ナニガアッタ、ユミバ? ドルヲタニハモノデササレタノカ?」
「今日はねー、ユミバの十二歳の誕生日なんだよー」
「えー、そうだったわぬ? おめでとー! あっ、でも、プレゼント用意してなかったわぬ!
代わりに卵でも産みつけようかわぬー?」
「デデデ……デクタンモ、ヨウイシテナイカラ、キノタネヲウエツケヨウカ?」
「どっちもいらないよ! なんで二人ともすぐ人を苗床にしたがるの!?
でも、プレゼントはパパからもう貰ったからいらないよ! ほら! ジャーン!」
「それはM16自動小銃! なんてアメリカンなパパなんだわぬ!
ギラン・バレー症候群が疑われる、握手嫌いで背後に立つと殴ってくる凄腕スナイパーが愛用しているやつじゃないかわぬ!」
「デデデ……ソイツハフルイジョウホウデ、サイキンカレノビョウメイハホンタイセイシンセンッポイノニカワッテイタゾ。チリョウノタメニヤマブシトシュギョウシテタワ」
「え、そうだったの? これかサイコガンかどっちか迷ったけど、左腕切断は嫌だったんで結局これにしたんだよ!
これで今まであまり行けなかった学校にも堂々と行けるよ!」
「ちょっと待つんだわぬ! 一体小学校にライフル持って何しに行くんだわぬ!」
「デデデ……モシカシテ、スクール・シューティングカ?」
「ピンポーン! ユミバねぇ、テレビのお仕事で正直登校日数少なくて、しかも学校では浮きまくって、皆から無視されて、けっこう陰険ないじめに遭っているんだよ!
机の上の花瓶はどんどん豪華になって、最近祭壇化してきたし、給食にはかならず白いヌルヌルした液体がかかっているし……」
「話が重過ぎるんだわぬ! もう止めるわぬ! 聞きたくないわぬ!」
「デデデ……イインジャネーノ、ガクエンソドム。レッツポスタル!」
「というわけで、今から一曲歌うよ! 『コロコロコロコロコロンバイン!』」
「相変わらずひどい寸劇だ……」
見ていて俺は次第に胃痛が悪化してきた。
さすが天下のMHK、内容が時事的でフリーダムでハーブ過ぎる。
てか、これって幼児向け番組だよね?
「あ~ら、これくらいインパクトがないと、最近の視聴者には受けないのよー。
あたしもプレイの台本に取り入れようかしら?」
「お願いだからやめて下さい……」
「とにかく、この曲が終わったら、休憩時間らしいわよ。元気出して」
「そうだな、一番危険な時間帯だ。上演時間以外は、レインボーシステムを装備しておいてくれと、ユミバちゃんに伝えてあるから、動向は把握できるんだが……」
「ま、観客席には司令たちもいるし、休憩時間中には彼女に付いているよう頼んであるし、なんとかなるでしょ」
「まあね。今のところ、特に変わったこともなさそうだが……ああ、トイレ行きたい」
「なんだったら、あたしの腹ん中でしてもいいわよ?」
「いえ、遠慮します……」
今日は体調不良のせいか、心なしか突っ込みも我ながら力弱かった。
出演者が舞台の袖に引っ込み、休憩時間になったため、俺は視聴覚共有モードを、ユミバちゃんのレインボーシステムと同調させる。
途端に映像は、建物内の通路に切り替わった。よしよし、感度良好だ。
「ユミバちゃん、お疲れ様。俺の声が聞こえる?」
小声でそっと話しかける。
『大丈夫、聞こえるよー。いやー、ショーの後は、本当に疲れるよー』
彼女も小声で返してくる。周囲にはスタッフも多いし、当然だろう。
「これから休憩室に戻るの?」
『それがねー、今丁度、チーフ・プロデューサーがいる部屋に、わぬわぬと二人きりで来てくれって言われちゃってね、今から行くところなんだよー』
「ええっ、そんな偉い人が、わざわざ地方公演に来ているの!?」
俺はちょっとびっくりした。チーフ・プロデューサーといえば、番組の製作責任者で、いわゆるPだ。
肩書きがありそうな、忙しい人なのに、一緒に付いて来たっていうのか?
『だからこの前行ったでしょ、MHKにはロストテクノロジーがあるって。フフッ』
疲れているにも関わらず、彼女は小悪魔的にほほ笑む。
「ま、まさか、本当にワープが……?」
『あっ、着いたよー、ここだ』
『やっとついたわぬー』
レインボーシステムを通じて、わぬわぬの声までこちらに響いて来た。
「それにしても、ステージ以外でもキャラ作ってんのか、わぬわぬ? 大変だな」
「見上げたプロ根性よねー、見習いたいわー」
「中身は多分オヤジ系とか売名系の声優だと思うけどな」
「あたしってば声優にもうるさいのよー。今は亡き某ゲイ専門誌でやってた、『抱かれたい声優特集』もよくチェックしてたしー」
「もうちょっと普通のアニメ雑誌読めよ!」
『失礼しまーす』
『こんにちわぬー』
俺と羊女が漫才をしているうちに、眼前の風景はどこぞの六畳ほどの小さな室内へと移り、そこに何故か台車に乗ったデクたんがいた。
『デデデ……ヤットキマシタカ』
「「あんたPだったんかーい!」」
俺と羊女は期せずして、同時に突っ込んだ。うゎ、恥ずかしい!