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第五十一話 しょくしょくしょくしょくしょくしゅっしゅ!

 七月十三日、午前九時五十分。X市産業展示館駐車場にて。


「じゃあな、花音。司令に迷惑かけるなよ」


「とか言ってるそばから私の陰毛を引き千切らないでくれ、お嬢ちゃん!」


「わぬわぬ! 触手! 闇堕ち!」


「駄目ですね、興奮状態で何も聞こえていません。


 それでは僕たちは会場に行ってきますよ。ほら、師匠も付いてきて下さい」


「あっー!」


「司令はちゃんとサングラスかけてて下さいよ! 


 もし花音がぐずったら、さっき教えたあの歌を歌ってやって下さい。


 あと、何か変わったことがあったらすぐ連絡して下さい!」


「わかった! 任せておけ」


「んじゃねー、太郎ちゃーん」


「お前は俺とハイエースに残るんだろうが、羊!」


「あ~ら、そうだったっけ?」


 などと騒ぎながら、俺と羊女は、曇り空の下、建物に隣接した野外特別ステージに向かっていく、花音、司令、竜胆少年、チクチンの四名を見送った。


 ちなみに服装は、全員この前のMHK訪問時と同じなのは偶然か、それとも必然か?


「よし、動作確認するぞ」


 俺はさっそくサングラスを装着してレインボーシステムを作動させ、視聴覚共有モードとやらに切り替える。


 たちまち俺の眼前に、迫りくるステージが映し出される。


 現在司令が見ている視野だ。周囲の人々の話声までもが聞こえてくる。


 ユウナちゃんやわぬわぬのコスプレをしている子供達も多く、なんだか一見サバトみたいだ。


 視聴覚共有モードは、このように、他のレインボーシステム使用者の見たもの聞いた音を同時に認識できるというかなり便利な代物だ。


 もっとも相手側の承諾が無いと利用できないが。


「でも、OBSが必要になる事態なんて起こり得ると思う、太郎ちゃーん?」


 運転席の羊女が気だるげに、ハンドルに両手を置いて突っ伏す。仮眠するつもりか?


「さーな、普通に考えたら、ありえないと思うが。


 でも、この前のアナリストとかの時みたいに、エンジェルズ・エプロンが役立つ場合もあるしな……ふぁ~」


 俺も欠伸を噛み殺しながら答えた。最近座っていると眠たくなるのは、歳のせいだろうか? 


 まだまだ若いつもりなんだが、早朝から愛娘のパワーに付き合わされると、昼前にはいつもグロッキーになってくる。例の如く朝食も奪われちゃったし……。


 前回の面接という名の地獄のテスト後、ユミバちゃんは、恐るべきことを俺に伝えた。


「探偵さんって、変な空飛ぶオヤジに乗って、戦っているんでしょ? 僕、知ってるよ」


「な、なんのことかなー……」


「とぼけたって無駄だよ。MHKのニュースでやってた画像を分析し、画像検索システムで調べたら、すぐにわかったよ。


 僕のしもべの萌え豚くんたちがやってくれたんだけどね」


「ぐ、さすが天下のMHK……夕食時間を狙って集金に来るだけはあるな。


 ああ、そうだよ。俺が巷で噂の危ないおじさんだよ!」


 俺は潔く負けを認めた。とてもごまかせる相手ではない。


 確かに試験会場での男どもがOBSの格好をしているのは、何かあるに違いないとは怪しんでいたのだ。


 あれは、俺たちのことをよく知っているという、彼女からのメッセージだったのだ。


「別に、探偵さんの弱味を握って奴隷化しようなんて考えてないから安心してよ。


 実は、探偵さんに白羽の矢を立てたのは、あのオヤジの力を借りて、警護して欲しいと思いついたからなんだ。


 単にボディガードを頼むだけなら、僕にはマネージャーたちや、大量の親衛隊員がいるんだしさー」


「確かにその通りだな……」


 というわけで、俺と羊女は、万が一に備えて、何時でもOBSを出動させられるように、糞暑い車内で待機と相成ったわけだ。せっかくチケット貰ったっていうのに……。


「あっ、そろそろ始まるみたいよ」


 何時の間にやら羊マスクを脱いで、グラサン姿になった羊女が、助手席の俺のア○ルを指で突っつく。やめい。


「おっ、どれどれ」


 俺もサングラスの映像に集中する。盛大なファンファーレと共に、ステージ後方のパネルから、メインの三人が出現した。


「ハーイ、皆、おっはよー! ユミバだよ!」


「わぬわぬだわーぬ!」


「デデデデデ……デクたーん!」


 凄まじい拍手と歓声が響き渡り、耳が痛いくらいだ。


 ちなみにデクたんは、ジャッキー・チェンの映画に出て来たような、丸太を組み合わせたからくり人形であり、切り株を模した移動する台(おそらく操演者は隠れていると思われる)の上に乗っている。


 声は機械音的で、明らかにボイスチェンジャーを使用しているようだ。


「じゃ、皆、さっそく、新曲、『触手ロック』いっくよー!」


「この歌はわぬわぬの琴線にも触れたわぬー! 名曲だわぬー!」


 ユミバちゃんが右手に握ったコードレスマイクを振りかざすと、どういう仕組みだか、無数の触手がコード代わりに噴出し、わぬわぬの触手も倍以上に伸びて、観客席にまで溢れ出した。



「しょくしょくしょくしょくしょくしゅっしゅ!


 しょくしょくしょくしょくしょくしゅっしゅ!



 蝕で触手が大暴れ!(ショック!)

 

 触感ヌルヌル癖になる!(ショック!)


 職人技だよ三つ穴攻め! (ショック!)


 食事付きだよ苗床さん!(ショック!)



 しょくしょくしょくしょくしょくしゅっしゅ!


 しょくしょくしょくしょくしょくしゅっしゅ!」



「聞いてるだけで邪神が復活しそうなマッドソングだな……」


 俺は頭を抱えた。

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