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第四十五話 病みのゲーム

「こちらでござる」


 マネージャーのドブノフ岩男ことドブが、「第二会議室」という白いプレートが掛けられたドアの前に、俺達を誘う。


「くんくん! 臭う! 何だか仁王像!」


 花音が可愛い団子っ鼻をひくつかせる。


 確かにドアの隙間から、何とも言えない異臭が漂っている。


 そう、例えるなら―


「あ~ら、ジャコウのように濃厚な甘いフレグランスね~、最上級の天然香水かしら?」


 羊女がうっとりした声を上げる。


「いや、全然違うだろ! 例えるなら、何日も洗濯していない柔道着が何十着も置きっぱになってる、風通しの悪い夏場の更衣室みたいな悪臭だろうが!」


 俺は鼻をつまんだまま、すかさず突っ込んだ。


 明らかに、男どもの汗臭い臭いが部屋から流れ出し、廊下を汚染しつつある。


 もし臭いが色で見えるなら、辺り一面真っ黄色に染まっていることだろう。


 鼻が無いため、臭気がダイレクトに鼻腔粘膜の嗅細胞にアタックするチクチンなんか、「アッー!」と息苦しそうだ。


「やれやれ、今はこれでしのいで下さい。それにしても、この部屋ではモルボルでも飼っているんですか?」


 仕方なく、竜胆少年が彼の露出した鼻腔にティッシュを突っ込んでやっている。


「「では、どうぞー」」


「ちょっと待って! マスクとかないの!? なんかステータスが状態異常になりそうなんですけど!」


 俺や他のメンバーは、抵抗むなしくマネージャー二人組の手によって、異臭部屋へと投げ込まれた。



「ぎゃあああああああああああ!」


 第二会議室の中心で、案の定、俺は絶叫する羽目になった。


 二十畳はあろうかという広い室内の四方の壁には、全裸の男達がずらりと隙間なく立ち並んでいた。


 いや、全裸というのは間違っていた。


 全員、何故かOBSの如く、白い靴下を履いて、お○んちんにはコンドームを装着していた。


 但し、両手は後ろ手に縛られ、両眼にアイマスクを掛け、鼻には鼻フックを付けられ、口にはギャグボールを咥えているが。


「なんなんだよこれは! 昨日行った羊女の職場よりも性質が悪いわ!」


「あら、そんなに褒められると照れちゃうわ、太郎ちゃ~ん」


「欠片も褒めてねえ! てか、ユミバちゃんはここにいるんじゃなかったのかよ!?」


『ちゃんといるよー、探偵さーん』


 俺の質問に答えるかのように、天井付近からとろけるように甘い声が聞こえて来た。


 と同時に、室内の男どもが、全員身悶えを始める。


「あふ……あふ……」


「ふはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「ぶおおおおおおおおお!」


「ユ、ユミバちゃん? 一体どこにいるんだ!?」


 おぞましいシンフォニーのただ中、俺は必死に辺りを見回した。


『僕はねー、今三階にいるんだよー。その部屋の様子は天井の監視カメラでよく見えるよー』


「なんで三階に直接案内しないんだよ!」


『まずは探偵さんに、そこで簡単なテストを受けて貰おうと思うんだ。


 見事正解したら、上まで上がってきてもいいよ。


 ちなみに助手さんたちも協力していいよ。


 古き良き少年漫画みたいだねー、キャハッ!』


「友情! 努力! テコ入れ!」


「花音はコンド-ム引っ張りに行くの止めなさい! 


 しかし、何故そんな七面倒くさいことを!?」


『それは、僕が依頼するのに相応しい人かどうかを試すためだよー。


 ボディガ-ド以外にもオプションで頼みたいことがあってね。


 ま、クイズ感覚で楽しくやってよ!』


「なんだかちょっと面白そうね。是非受けましょうよ。


 この部屋に永住したいくらいだし、あたし」


「うむ、我々には邪悪な知恵袋の竜胆君がいるし、大概の質問は大丈夫だろう」


「いやぁ、そんな、エロ孔明だなんて……照れますね、師匠」


「あ~!」


「何でお前ら全員乗り気なの!? ていうかこんな部屋で何やらせるつもりだよ!? 


 この裸の人たちにもスタッフ弁当とか出るの!?」


『ではいくよ、ぱんぱかぱ-ん、第一問!』


 俺の意向を無視して、勝手にゲ-ムスタ-トの流れになっている。俺は最後の抵抗を試みた。


「ちょっと待て! 俺はまだやるだなんて一言も言ってないぞ!」


『えっ、やらないの? ノリ悪いなあ、探偵さん。


 じゃあ、プラチナチケットは渡せないけど、いいんだね?』


「ぅぐっ」


 俺は何も言い返せなくなった。完全に足元を見られている。


 そもそも最初から俺に選択肢などなかったのだ。


「わかったよ、やりゃあいいんでしょ、やりゃあ!」


「無様ね……」と羊女。


「まったく、恥をかかせおって」と司令が続ける。何でだよ!


 急に涙がこみ上げそうになったのは、悪臭のせいだけではなさそうだった。


『では改めまして、いくよ、ぱんぱかぱ-ん、第一問! 


 皆さんの回りを取り囲んでいる裸の男性さん達……ぶっちゃけ僕のファンの方々なんだけど、彼らの中に、一人だけ真性包茎の人がいます。


 彼らに一切触れずに、その人を当てて下さい! ちなみに解答チャンスは一回だけです』


「出来るかあああああああ!」


 俺の絶叫が空しく室内に木魂した。

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