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第四十四話 雨天決行

 六月三十日、午前十時。X市MHK放送局駐車場にて。


「まったく、今日に限って降るとはな」


「高峰クリニック」と大きくマジック書きされたビニール傘を差して、何故かいつものツナギでなくタキシードを着た司令が、ハイエースから降りて来た。ひょっとして正装のつもりか?

 かくいう俺も、今日ばかりはスーツ姿だが。


「最近梅雨の癖に晴れ続きでしたからね。もっとも、この地方には、『弁当忘れても傘忘れるな』という言い伝えがあるくらいですから、油断禁物ですよ」


 チクチンを抱えた、何故か羽織袴姿の竜胆少年が続いて降りてきて、司令の傘に割り込む。七五三か?


「『便通出なくても母さんガス出るわ』ですって?」


 先に俺と一緒に着いて玄関で待っていた、羊頭に黒いヴェールを乗っけて、ゴスロリファッションに身を包んだ羊女が、意味不明なことを言う。


 しかしゴスロリってメンズサイズもあったんだ……。


「だいぶ苦しいよ! とにかくこれで全員揃ったな」


「アンブレラ! ゾンビ! 剥製好き婦女暴行署長!」


「ほら、花音も傘を早く畳んで中に入りなさい」


 俺は、赤いワンピースを着て、お気に入りの花柄の傘を振り回しながら水たまりに突進する幼女を引っ掴むと、溜め息を一つ吐いた。


 結局、俺はユミバちゃんのボディガード依頼を引き受けることとし、この面子にも一応声を掛けてみたところ、意外と全員興味を示し、俺の助手扱いということで、本日現地集合と相成ったのだ。


 金は一銭も出さないと、前もって釘は刺してあるが。


「ここって見学客は団体しか受け付けてなかったから、一度入ってみたかったのよ~」


 と羊女がお尻をくねらせる。吐き気がするから正直止めてほしい。


「ま、私達も団体の見学客みたいなもんだがな。ここならお前やチクチンのような者でも違和感ないから、入れてくれるとは思うが」


 と司令。そうか?


「僕も将来法廷画家としてMHKに雇ってもらえるようコネを作りたかったところですしね。


 睡眠姦や時間停止姦などの犯罪ものにも最近興味が湧いてきたんですよ。


 知ってますか、皆さん、睡眠姦ものは、以前はスヤスヤ詐欺が大半を占めていたのですが、偉大なるいとうえい氏の登場により……」


 いつの間にか自分の世界に没入している竜胆少年の妄言を打ち切るためにも、俺は赤い電波塔が聳え立つ三階建ての建物の正面玄関に向き直り、


「では行くぞ! 『ビーチサイド探偵事務所』助手一行!」と、奇声じゃなかった気勢を上げた。



 玄関ドアをくぐると、受付カウンターの前で、二人のダークスーツ姿の男が出迎えてくれた。


 一人はもじゃもじゃ頭の筋骨隆々とした大男であり、碧眼茶髪だった。


 スーツよりも鎧かぶとが似合いそうだ。


 もう一人は、どちらかというとひょろっとした、銀縁眼鏡の初老男性で、オールバックにした長髪には、白いものがかなり混じっていた。


 早速大男の方が、熊みたいに毛むくじゃらの手を差しだし、俺に握手を求めて来た。


「どうも、初めまして。『ビーチサイド探偵事務所』所長の砂浜太郎です」


「ズドラーストヴィチェ! ユミバ殿のマネージャーを勤める、ドブノフ岩男と申す。ロシア系日本人でござる!」


「何故武士語!?」


「父上が時代劇マニアのため、かたじけない。それがしも、『大江戸レイプマン』が大好きでござる。エビハラショー!」


「あれって時代劇なの!? ってか、今ロシアの放送禁止用語言わなかった、あんた!?」


「それがしのことは、ドブとお呼び下され!」


 もじゃ夫ことドブは、俺の突っ込みに聞こえないふりをすると、痛いくらい握りしめた手をようやく離してくれた。


「お手が赤くなっておられるようなので、お辞儀で失礼します。


 自分はユミバのサブマネージャーを勤める、佐武さぶ爺面じいめんと申します。サブとお呼び下さい」


 と、ドブの後方のひょろ男が、俺に気遣うように一礼する。中々のジェントルマンだ。


「パパ! わぬわぬ! 触手! 粘液!」


 花音は、入ってすぐの、幼児番組に登場するキャラの等身大ぬいぐるみや、様々な番組のポスターがパネル展示された来館者用のロビーで大はしゃぎだ。


 さっそくわぬわぬの大きなぬいぐるみの触手に自分から絡まって、ご満悦の様子だ。


 先々代及び先代のおねえさん役のシンコちゃんやレイコちゃんのぬいぐるみまで置いてある。


 結構なレアアイテムだぞこれ。


「触手といえば、何故か母乳ものとも繋がりが深いですね。今度因果関係を調べてみませんか。師匠?」


「あー」


 エロ漫画家二人が、何やら後ろでこそこそ密談しているが、俺は聞こえないふりをした。


「「では、こちらへどうぞ」」


 ドブとサブがハモりながら、俺達をロビー奥の階段へと案内する。


 がやがやと騒ぎながらも、皆後へ続き、二階の曲がりくねった廊下を進んでいった。



 迷宮の奥に、ミノタウロスにも匹敵するモンスターが潜んでいることも知らずに。

誠にすいませんが、またもやハーブが切れて離脱症状が起きてきたので、今回の更新はここまでとさせていただきます。

次回は10月1日更新再開予定です!

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