第三十九話 伊能(いのう)場斗瑠(ばとる)君物語
「なぁ倉巣命人、俺、学校やめようかと思うんだ」
「えっ、突然どうしたんだい、伊能場斗瑠君。今日は四月一日じゃないよ」
「知ってるよ! もう我慢の限界なんだよ! なんで俺の友達はお前以外皆女なんだよ!」
「えっ、そんなことが不満なの? うらやましい限りじゃないか」
「俺は普通の男子高校生みたいに、男同士でエロ同人誌回し読みしたりとか、女子更衣室からパンツ盗んだりとか、青春的エロ馬鹿なことを色々したいんだよ!
なのにお前は真面目で全然乗ってこねーし、後は寄ってくるのはツンデレ金髪やら暴力系ゴリウー(但し美人)やら不思議系無口ちゃんやら女女女女と女ばっかで、最近モブですら男がいねーんだよ!
女の中に男が一人やーいやいって幻聴が聞こえてきそうなほど、被害妄想バリバリだよ!」
「そ、それは今年からいきなり男女共学になったせいじゃないかなぁ。
それで女子たちは君みたいな男臭い童貞が珍しいんだよ、多分」
「よけいなお世話だよ! それに俺が変な異能に目覚めた途端、急に毎日毎日バトル三昧になって普通に授業受けた記憶がねーんだよ!
そもそも座学シーン皆カットされてる気がするし」
「なんかメタ発言が増えてきた気がするけどしょうがないよ場斗瑠君。
ここはどうやらそんな生徒ばかりを集めた特殊な学校らしいし、生徒会もバトルを推奨しているっていうし」
「その生徒会からしておかしーよ! なんで単なる学生の集まりが、勝手に校則変えたり、ロイヤルホテルのスイートルームみたいな部屋を校内で私物化したり、校長以上の権力握ってんだよ!」
「お、親が財閥のトップかなんかなんじゃないかな……」
「そもそも教師も巨乳馬鹿女かロリババア女しかいねーし、どうなってんだよ教員採用試験!」
「きっと校長の趣味なんだよ……」
「そもそも保険医ってのはな、普通は引退したババアやジジイの医者が非常勤で来るもんなんだよ。
なんでうちは大学卒業したての働き盛りの若い女医がずーっといるんだよ! 更迭か!?」
「や、やけに詳しいね。まぁ、きっと辛い病院勤務が嫌で、人生をエンジョイしに来たんだよ」
キーンコーンカーンコーン
「おっ、もう五時か」
「ほら、そろそろ下校時間だし、もう帰宅しようよ場斗瑠君」
「嫌だ! 俺の家だってなんかおかしーんだよ!」
「あ、そういや場斗瑠君んちはご両親が海外に長期出張中だったね」
「そうなんだよ! しかも性欲を持て余して淫獣と化した姉と妹が毎晩ベッドに忍び込んでくるし、隣の家に住む天然幼馴染が毎朝叩き起こしに来るし、心身ともに休まる暇もねーんだよ!」
「た、大変だね……」
「というわけで、俺は今から休学届を提出し、しばらく一人旅に出て、この腐れテンプレ魔界から抜け出し、日本全国B級グルメ巡りに出発するわ! あばよ、達者でな!」
「フッ、そうはさせないよ、場斗瑠君!」
パラッ
「ど、どうしていきなり服を脱ぎ出すんだ、命人……ってその胸は!?」
「実は僕は、君を抹殺するために、とある組織からこの学校に送り込まれた刺客だったんだよ。
悪いね、ずっと騙していて。今まで様子を窺っていたけれど、君が逃亡すると言うのなら、この場で始末するしかない!」
「だからって何で男装していたんだよ!?」
「それは……君と一番近くにいるためさ。秘技・卵巣下降!」
パラッ
「パ、パンツまで脱ぐなよ! ……ってなんでお前女なのに、金玉だけあるんだよ!? ひょっとして、ふたなりってやつ?」
「チッチッチ、そうはイカのテスティスさ。僕は自分の卵巣を自由に体外に出し、金玉のように見せかける術をつかえるんだ。
ついでに卵管も外に伸ばして、触手のように操れるって訳だよ」
「な、なんてえげつねー技……」
「フッ、君の異能の正体を、今日こそとっくりと教えて貰うよ!」
ビシッ!
「くっ、いてっ! 卵管でしばくとは、卑怯だぞ! そもそもお前、卵管怪我して不妊症になったらどうすんだよ!」
「その時は君に責任を取って貰おう!」
バシッ!
「だから痛いって! くそ、徐々にスピードが上がっていきやがる!」
「さあ、早く君の異能を見せたまえ!」
ビシバシビシバシッ!
「ぐおぁっ! こ、こうなったら仕方ねぇ! 俺の真の能力を喰らえ! イ・ノ・ウ!」
「な、何ぃっ! いくらスピードを上げても当たらないだと!?」
「フッ、お前だけに教えてやる。俺の異能は、俺が今まで歩いた空間を完全把握し、そこで生じる全ての現象を予想し、無効化出来るというチートなやつだったのさ!」
「くっ……な、なんて卑怯なやつ!」
「そうは言っても、こればっかりはご先祖様から授かったもんだしな」
「し、仕方がない、急に排卵が始まったようだし、卵巣と卵管を元に戻さないといけないので、勝負はお預けにしておこう」
「嫌だよ、バトル中に排卵されるの! わかった、勝負はまた今度な。
というわけで、俺は日本全国B級グルメ巡りは中止して、いまからスキューバーダイビングのライセンスを取得してくるわ」
「何故に!?」
「決まってんだろ、俺のご先祖様の伊能忠敬が成し遂げられなかった、全世界の海底地図を、この能力で作成するためさ!」
「こんなプレイ出来るかあああああ!」
俺は羊女から手渡された台本を、びりびりに破り捨てた。