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第三十五話 愛称・キムタク

「し……神聖モテモテ王国だって!? 


 もうちょっと具体的に言って!」


 ようやく体勢を立て直した俺は、またよくわからんことを叫んでいた。


 俺の記憶喪失は、ひょっとしてオンナスキーだったため?


「そんな現在解散予定の人気中年アイドルグループの影のリーダーではなく、真性半陰陽デス。アイは、生まれつき、ち○ことま○こが両方あるのデース」


「具体的過ぎる!」


 絶叫しながらも、俺は、以前ハイエースの中で彼女が話した内容を思い出した。


 あの時彼女は、「デモ、確かにアイハ昔から人よりコレが大きかったノデ、自分ハ他の子とハ違うってずっと悩んでマシター。


 Butある時ジャパニーズエロコミを読んでみたら、いろんな変わった人が出てきマシテ、自分みたいな女の子もアリなんだなーって思い、ファンになったんデスよー!」と言っていた。


 つまり、「コレ」って胸のことじゃなくて栗かよ! 


 紛らわしいわ!


「そもそもアイのフルネームはアルダナーリーシュヴァラ・サーナンといいマース。


 このアルダナーリーシュヴァラとは、ヒンドゥー教の神サマで、男女の神が合体した両性具有神なのデス。


 当時インド哲学にハマっていたマイペアレンツに名付けられました」


「やけに仰々しい名前だな!」


「というわけで、アイはこの歳まで、男性のステディを作ることもなかったんデス。


 一時期錯乱して、女の子にアタックしたこともあったんデスが、うまくいかず振られました。


 トランクのムーミンはその時の苦い思い出デース……」


 彼女がまたよくわからん過去を、夜風に紛れて吐露する。


「ムーミン好きの女の子だったってこと?」


「知ってマスカ、スペルマタローさん。


 ムーミンの作者のトーベ・ヤンソン女史はレズビアンだったのデース」


「知らねえよそんなの!」


 また俺の脳みそに邪悪な豆知識が刻まれたので、俺は記憶を消去したくなってきた。


 サルミアッキといい、最近フィンランドのトリビアに毒されつつある。


「でもアイは、男女関係なく能力を発揮し尊敬されるアストロノーツに魅了され、一念勃起し、様々な試練を乗り越えスペースシャトルのクルーに選ばれたのデス! 


 多分真性半陰陽で宇宙に行ったのは、アイが人類史上初でショーネ。

 

 だから昔は恨んだこともありましたが、今ではこの身体が大好きデース」


「それは良かったね……」


 衝撃の事実に打ちのめされ、やや意気消沈した俺は、衝動的に海面に飛び込まないように自己を抑制することで精いっぱいだった。


 ややジグザク気味のマニューバになっているが、仕方がない。


「こんな話をしたのハ、スネイルタローさんのことがとっても気にいったからなんデス……ご迷惑かもしれませんが」


 また恥ずかしそうに彼女が何か呟いたが、悪いけど最早俺の耳には何も届かなかった。


 ラブイズオーバー。


「ところで、ステマタローさんや古都寄席由美之介センセーやぐぁさんセンセー、それにシープ女さんはご兄弟なんデスか?」


 またもや彼女が意味不明なことを聞いてきたので、俺は鼻から脳髄液を噴きそうになった。


 なんでだよ!?


「と、とんでもない! 


 全く全然完全無欠に赤の他人ですよ! 


 穴兄弟ですらないです!」


「ソーデスか、アイの見当違いですか。


 多くの宇宙飛行士候補者の訓練教官を務め、少しは人間を見る目を養ってきたつもりだったんデスが……デモ、初めてお会いした時から、そんな印象を受けたんデス。


 皆さんは四人とも、とっても似通っているんデスよ」


「ええええええええええええええっ!?」


 俺は心底驚愕した。


 これ程共通点のない四人も珍しいと思っていただけに、彼女の発言はとても受け入れられなかった。


 俺が、あんなサイコ小僧やカマ羊や地虫十兵衛と似ているだって?


「自分のことは意外によく見えないものデス。


 身体の動かし方や骨格、全体的な印象などが、まるで四つ子のように皆さん同じなのデース」


「……」


 言葉を失くしたように、俺は無言のまま、OBSの右乳首をこねくり回した。


 機体は大きなカーブを描き、陸地の方にターンしていく。


「まったく、こんなこと師匠にしてあげるのは僕だけなんですから、有難く感謝して下さいね。


 僕も師匠と同じく、あの砂浜に捨てられていたよしみですよ」


 先程聞いたばかりの、竜胆少年のチクチンに話しかけた台詞が心の中にリフレインする。


 俺は、真下に広がる砂浜を見下ろしながら、俺の失われた記憶の底に、開けてはいけないパンドラの箱が潜んでいるような不安感に襲われ、そっと眼を閉じた。


 砂浜……俺の起源オリジン……故郷……。

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