第三十三話 触手モンスターって何故か魔法少女ものに多いよね
「危ないデース!」
あわや一刀両断というところを、救ってくれたのはアルダだった。
いつの間にか俺達の後ろに控えていた彼女は、蛇の舌が襲いかかると同時に俺と司令の背中を引っ張り、攻撃から逸らせてくれた。
「どうもありがとう。さすが危機管理が得意だね」
「そんな、お褒めに預かり京極堂デース」
彼女は何故か指貫きグローブ先生の名を口にしながら照れた、ってそれは恐悦至極だ!
「しかしどんどん狂暴化しつつあるな。
OBSを連れてきて、ウロ・シュートをさせれば、こんな奴一撃なんだが……」
体勢を立て直しながら司令がぼやく。
あんたはそれより早く服を着てくれ。
「そんな面倒なことするよりも、司令が小便したらいいんじゃないですか?
この前エンジェルズ・エプロンを発動出来たように」
「確かにそうだが、今、全然尿意がしなくてな、すまん」
「役に立たねえ! まったく、どうすればいいんだ……ハッ!」
思い悩む俺の頭に、ふと妙案が閃いた。
「そうだ、花音! ストローを司令に使え!」
「了解! アンダスタン! 導尿!」
「えっ?」
突如、花音が先程まで飲んでいた牛乳パックのストローを引き抜いたかと思うと、司令の尿道目掛けて深々と突き刺した。
「ぴょおおおおおおおおおおお!?」
あまりの衝撃に、司令の声が裏返り、カストラートの如き甲高いメゾソプラノが木魂する。
と同時におしっこ、じゃなかったウロ・シュートが白いものの付着したストローの先端から勢いよく噴出し、トイレ内で暴れ回るエロンゲーションにぶっかけられた。
「JぢうYSDL+。あSDVHFた」
例の如く、声にならない声を上げ、塩酸に溶ける鉄片のように、泡を出しながら長い舌は跡方もなく消えていった。
さすが我が愛娘、この前の戦闘でパパが苦労して挿入した尿道カテーテルの威力をよく覚えていたものだ、と俺は悶絶を続ける司令を眺めながら感慨に耽った。
「何を夜中に騒いどるんじゃい!」
「まったく、泥棒でも入ったんですか?」
「ふあー……」
今頃になって、高峰先生、竜胆少年、チクチンの三人が眠い目を擦りながら現れる。
俺は、今の状況をどう説明したらいいかを考え、頭を抱えた。どうやら長い夜になりそうだった。
「そういえば、木の根が栄養分を求めて排水管の中に侵入し、中を詰まらせるという話を聞いたことがあります。
それにしても触手タイプのエロンゲーションとは、後学のためにも是非拝見したかったですね」
竜胆少年が、破壊しつくされたトイレの惨状を眺めながら、呟いた。
「なるほど、木の根っこと一体化したエロンゲーションの舌が、う○こが流れて来た時だけ排水管の小さな穴から侵入し、水詰まりを起こさせていたっていうのが真相だったわけやな」
高峰医師が、その後を受け継ぐ。
「じゃ、じゃあ、う○この太い人は、結局いなかった訳デスかー!?」
アルダが今にも泣きそうな顔で訴える。
「残念ながら、そういうことになるな、痛たたたたた……」
司令が、尿道の痛さに顔をしかめながら答える。
ちなみにまだ全裸だ。
「まあ、そうがっかりするなよ。
広い日本には、縄文杉よりも太いう○こをする人がきっと何処かにいるさ……」
疲れ果てた俺は、適当な慰めの言葉をかけながら、ただ立ち尽くしていた。
結局あの後一同に、スージー改めアルダは、自分の正体と目的を自ら語ったが、高峰先生を含め、皆笑って許してくれた。
俺も、彼女が助けてくれたことを話してフォローしたのだが、どうやら心配無用だったようだ。
ついでにこちらも、エロンゲーションやOBSについて簡単に説明した。
じゃないとこの一連の出来事について彼女が納得出来なかったからだ。
「うらは、お主がOBSのことを探りに来たスパイかなんかだと思って心配して太郎に調査を依頼したんや。
大事なうらの息子がパイロットやっとるしな。
だから、この件は不問にしちゃるが、さっきの化け物のことや、OBSって秘密兵器のことは、絶対内緒にして貰いたいんやが……」
「OK,恥垢取引ってやつデスねー。
わかりマシタけど、一つだけお願いがありマース」
彼女はキラキラ蒼い眼を輝かせ、こんなことを言った。
「一回だけでいいデスから、アイを是非、そのOBSとやらに乗せてくだサーイ!」