第三十二話 教科書が教えてくれないう○こ
「どうか落ち着いてアイの話を聞いてくだサーイ!」
アルダの痛切な叫びに俺はやや冷静さを取り戻した。
いかん、最近突っ込みのし過ぎとストレス過多で易刺激性が悪化している。
アンガー・コントロールの本でもブコフに行って捜そうかしら。
「つ、つまり君は、新型スペースシャトルのトイレの穴の大きさを決めるため、便の太い人を捜しにスパイさながらこのクリニックに潜入したってこと?
悪いけどちょっと納得できないよ」
「おっしゃることは五目御飯なのデスが、前例があるのデース。
実は、スペースシャトルのトイレの穴の大きさが直径7㎝と定められたのハ、当時世界で1番太いう○こが7㎝だったからデスが、そのう○こをしたう○こエンペラーは、日本の女子高生だったのデース」
「な、何ですとをををををををををを!?」
俺は心底驚愕した。
我らが日本のJKに、そんな豪の者がいたんですとををををを!?
大和撫子が大和芋並みの糞をしていただってええええええ!?
「パパ! 素数! 数える!」
「あ、ああ、そうだな、花音。
1、2、3……ふぅ、少し落ち着いたよ」
「話を続けていいデスかー?
とある九州地方の歯医者の家のトイレが年中詰まってしまうノデ、歯科の先生は患者さんか誰かの悪戯かと思って原因を調査したのデース。
そしてついに犯人が分かりましたが、何とその先生の娘さんだったのデース!
彼女の糞はベリベリビッグシットで、詰まってしまった訳デスねー」
「泣ける話だ……」
俺は娘のいる同じ親として、その歯科医に同情した。
そんな屁っぴり嫁コもびっくりの年頃のお嬢さんでは、嫁ぎ先を捜すのも一苦労であろう。
「日本のトイレは、パイプが直径5㎝となっていますから、そんなシェイクスピア的悲劇が生じたのデスねー、ジーザス!」
「しかしよくそんな糞情報をNASAが入手できたな」
「CIAに協力を要請したのデース。
ちなみに今回も、この近所に竿竹屋として潜伏しているCIAの工作員が、我々に情報をもたらしてくれマシタ。
アイはこっそり彼と連絡を取り合っていたのデス」
「それであんた狂ったように竿竹買ってたわけかよ!」
ようやく謎が解けた。
でもそんな事実、知りとうなかった!
「イエース、ザッツライ。
お土産にわざわざバンブー・ポールを持ってきたのも、竿竹好きという設定をさりげなくアピールしたかったからデース」
「全然さりげなくないし不自然過ぎるわ!
あんたスパイ向いてないよ!」
「仕方がないデース。
竿竹屋のジョニーは神出鬼没で、携帯電話は通話ログが残ることを恐れて使わないし、直接会うしかなかったのデス」
「難儀なCIAだな……」
溜め息を吐きつつ、トイレの窓から首を突き出す体勢がいささか苦しくなってきたので、そろそろ中に入れてもらおうかと俺が思案していたところ、逆流を続ける便器の奥から、ゴボゴボという音と共に、深紅の細い紐のようなものが、一直線に飛び出してきた。
「な、なんだこりゃ!?」
「Oh,ワッツディース?
レッドスネーク・カモーン!?」
赤い紐は鞭のように便器の中を暴れ回り、陶器をがりがり削っていく。
よく見るとその形状は蛇の舌や木の根にも似ていた。
「アルダ、早く逃げろ!」
「ジーザス!
誰カーッ、来てくだサーイッ!」
トイレから這いずって逃げ出しながら、アルダは声を張り上げた。
誰かがクリニック側の玄関を開け、どかどかと外を通って住居側の玄関の方へやってくる。
「司令! 何で全裸なんですか!?」
「ち○ぽ! ア○ル 乳首!」
花音は突然降って湧いたサービスシーン(誰得)に大喜びだ。
「私は寝る時いつも全裸なんだよ!
てか何事だ一体!?
何でお前さんはトイレの窓に張りついとるんだ!?」
「とにかく中へ入ってトイレへ急ぎましょう!」
俺は先頭に立って、花音や司令と一緒に玄関口からトイレに向かった。
水は廊下側まで流れ出していたが、今更かまってなんかいられない。
「こ、これは……ひょっとして、エロンゲーションか!?
何で……!?」
司令は、先程よりも大きくなっている舌状の物体を指差し、絶句する。
エロンゲーションだって!?
だとすると、舌ってことは……。
「そんな馬鹿な!
これって唇おばけのときの、舌のやつってことですか!?」
俺は、忘れもしない恐怖の一場面を思い出す。
俺の妻を殺した憎い化け物は、確かチクチンが成敗したんじゃなかったのか!?
「あの時よりも明らかに小さいタイプだがな。
確かエロンゲーションは他の生物に寄生するものもいると、私の次元では報告がされていた。
こいつは木の根にも似ているから、たぶん外のサルスベリの木に取りついたのかもしれん」
「なんで木になんか寄生したんですか!?」
「ほら、いつもチクチンが木の幹に身体を擦りつけていただろう?
以前の戦闘で付着した敵の生きている細胞組織が、その時サルスベリにくっついてしまったのかもしれん」
「なるほど……」
「とにかく、早く何とかしなければ、お前達は今後外で野糞する羽目になるぞ」
「そ、それは困る……ってクリニック側のトイレですればいいじゃありませんか!」
「それもそうか……おっと!」
「うぎゃああああああ!」
馬鹿な会話を交わしている途中で、血のような朱色の鞭の先端がしなり、俺と司令に襲いかかって来た。
ちなみに上記のJKとスペースシャトルの話は、真偽がどうであれソースあります。
本当に、NASAはどうやってその情報を入手したのやら……