第二十六話 待ち人来たりてア○ルが火を噴く
「ひどい……何で誰も助けてくれなかったんだ。まるで野良犬にレイプされたみたいだ」
「それくらい自分で何とかしろよ!」とつい俺は司令に冷たく突っ込んでしまった。
破かれた上着の代わりに、俺のジャージを貸してやったっていうのに。
ちなみに俺は下に着ていたランニングショートパンツとTシャツというどこぞのマラソンランナーのような出で立ちだ。
勃起している乳首が丸見えでちょっと辛い。
「寝ぼけていたところをいきなり襲われたし、身体が中々動かなかったんだよ。
それに子供相手に手を出すわけにもいくまい」
「しーっ、そろそろ乗客がおもてなしゲートに来ますよ。皆さん、静かにして、礼儀正しくして下さい」
竜胆少年が、まるで引率教官のように皆に注意する。
国際線到着ロビーの出口前に待機している俺達は慌てて口を噤み、それぞれ身だしなみを確認したりした。
壁の時計はちょうど昼の十二時を指している。
「しかしいつも思うが、チクチンにも何か服を着せた方がいいんじゃないか?」
俺は全裸でのそのそ地面を這っている生き物を一瞥し、かねてから考案していた意見を述べた。
「大丈夫ですって。僕がいつも師匠と近所を散歩していても、皆新種の人面豚か何かくらいにしか思っていませんから」
「それもひどいな……」
俺が、人々の無関心の無情さについて嘆息しているうちに、ようやく出口のガラス戸が開き、中から乗客達が順番に吐き出され始めた。
「なかなか出てきませんね……」
「焦るな少年、しかしあそこでもたもたしている黒服の男、糞でも我慢しているのか? やけに内股だぞ」と司令。
「う○この話はもういいですよ! 長旅で疲れたんじゃないですか?」
「あ、あそこです! あの金髪さんです!」
「「おおっ!」」
俺達は少年が指差すロビーの奥を一点凝視した。間違いない。そこに噂の主がいた。
「歳のころは二十代半ばあたりだろうか、
輪島塗の螺鈿細工の漆箱に精妙に沈金されたかのような見事な金髪は、オギン★バラ氏のイラストの如く、流麗なカーブを描いて肩の先まで伸びており、
古九谷の白地を思わせる滑らかな肌は、ズンダレぽん氏の繊細な塗りに似ており、
武家屋敷特有の群青の間を彷彿とさせる輝くばかりの蒼い瞳は、望月望氏の絵から飛び出してきたと言われても違和感なく思われ、
打木赤皮甘栗かぼちゃを数倍に膨らませたような、タンクトップを突き破らんばかりのたわわな二つの乳房はまさにQ-Gaku氏の描くそれであり、
絶妙な腰のくびれはジーンズ越しにも……」
「おい竜胆くん、何感極まって、やけに地方色と偏ったイラストレーターに満ちた比喩表現を呟いているんだよ!
てかいい加減ぷちぱら文庫と巨乳ものから離れろ!」
「そうだぞ二人共。表現は長ければ良いというものでは決してない。
金髪さんだし外見セイラさんとか書いておけば一言で済むぞ」
「貴様はお守りに陰毛でも貰ってろ!」
と俺達がよくわからん口喧嘩をしている間に、ムーミンのシールを貼り付けたピンク色のド派手なトランクケースを引っ張りながら、爆乳金髪さんは旅の疲れも見せず、にこやかな笑みを浮かべてこちらに近付いてきた。
きっと竜胆少年がお出迎えプラカードの代わりに例の如くチクチンを鎖鎌のように振り回しているのが目に入ったのだろう。
ちなみにチクチンの肌には、「WELL COME TO JAPAN,筋!」とマジックペンで大書してある。筋って何だ。
てかそのためだけに連れて来たのチクチン!?
「ハロー、古都寄席由美之介センセー、ぐぁさんセンセー!」
彼女が千切れんばかりにこちらに手を振って来たその時、彼女の前方にいてさっきから全く進まないアジア系の黒服の男が、腹を抱えてうずくまったかと思うと、俺達に向けて尻を突き出した。
「Oh,ダイジョブですカー?」
爆乳美人、じゃなくて確かスージーだったかが彼に駆け寄ろうとした時、司令が、「危ない、近寄るな!」と凄まじい声量で注意し、彼女を制した。
なんと、男のズボンの後ろが、まるでう○こを漏らしたように盛り上がったかと思うと、黒い布地を突き破って、う○こが付着した小型ミサイルが飛び出し、俺達目掛けて襲ってきた!
「ぎゃああああああああ!」
なんか最近こんなハプニングばっかりだな、と俺は脳裏を駆け巡り出したフラッシュバック走馬灯を眺めながら叫び続けた。