表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/190

第二十五話 トイレのう○こは誰のもの

「くぉらー、おリンとチクチン!」


 ドアを乱暴に開けて、メスオークが室内に突進してきた。


 文字通り猪突猛進というやつだ。


 怒れる彼女は片手にトイレ掃除用の吸引カップを槍のように握りしめていたが、やけに絵になった。汚いけど。


「か、母さん、どうしたんですか? 今日は僕の掃除当番じゃないですよ」


「まーた一階のトイレが水詰まりを起こして、外に溢れ出しとるんや! おまーらのどっちが糞したんじゃ!?」


 彼女は恐るべき武器でもってじわじわとこちらに迫ってくる。


 先端に茶色いものが付着しているのは俺の目の錯覚では無さそうだった。


 部屋を緊張が支配する。


「僕がさっき大便をしましたけど、そんなに太くはなかったですよ。流した時は逆流もありませんでしたが……変ですね」


「うーむ、確かにおリンのう○こは昔から見てるがそんなに太くはないしな……おいチクチン、お前か!?」


「あー!」


 恐怖に怯えるチクチンが、首を左右に激しく振っている。


 冤罪は御免こうむるといった感じだ。


「師匠は僕が下まで運ばないとトイレすら出来ない要介護者ですから、違うと思いますよ」


「それはそうなんやが、本当に最近詰まることが多くてな、この前業者にも来てもらって排水管を調べてもらったんやが、凄く小さな穴が開いていただけで、それが原因とは思えんのや。すぐ直してもらったし」


「そうだったんですか。でも本当によく漏れますよね。司令の仕業なんじゃないですか?」


「失礼な、私はクリニックの方でいつも寝泊りしているし、トイレもそちらの方でしているぞ。あと結構緩めだ」


 何時の間にやら部屋に入って来た司令が、心外な表情で答える。


「うーむ、犯人は謎のままか……おい、そこの暇そうな自称探偵、ちょっと推理してみんかいね? 金は出さんがな」


「嫌ですよ、そんな誰のう○こか調べるのなんて! 


 いっそDNA鑑定でもしたらどうですか? 


 それより羊女はまだ来ないんですか? また肛門痛ですか?」


「あーら、あたしのア○ルを心配してくれてるの、太郎ちゃーん?」


 噂をすればなんとやらで、白い頭がドア越しにこちらを覗きこんでいた。


「知るかよお前のケツメドなんか!」


「この前ポステリザン軟膏を塗ったから大丈夫よ。


 それよりわがままダイナマイトボディのブロンド娘が今日来るんですって? あたしも連れてってちょうだいよ」


「あんたオカマでしょーが!」


「あら、オカマって綺麗で可愛いものが大好きなのよ。


 今度女装クラブのエリザベス会館に連れていってあ・げ・る。


 かの有名なかなまら祭で登場するエリザベス神輿を奉納した由緒正しいお店よ」


「結構です! これ以上俺に無駄な豆知識を増やさないで!」


 結局俺は今日も耳を塞いでしまった。


 もはや会話内容が脳の許容量を超えている。


 だが今日も花音に腕を引っ張られたり腋をくすぐられたりして、無駄な抵抗に終わった。


「とりあえず、ここにいる全員で出かけようじゃないか。OBSをクリニックに運び込めば、全員楽勝で乗れるだろう」


「うらは留守番で残っとるわ。はよ行ってきまっし。だが皆でトイレの掃除してからや!」


 オークキングの一喝で、俺達は階下の大洪水に追いやられ、雑巾片手に大奮闘するはめになった。てか、何で俺まで……。



「パパ! 操縦桿! 倒す!」


「わ、わかったから何でパパの乳首引っ張るの、花音!?」


「つい! 癖! パブロフの犬!」


「あーら、楽しそうね、太郎ちゃーん。あたしにもさせてよ」


「この前僕に勝ったとは思えない程の無様な操縦ですね。それじゃ墜落しますよ」


「あーあ」


「お願いだから皆あっち行ってて! 気が散る!」


 俺は乳首の刺激に耐えつつ操縦桿を握りしめながら、絶叫した。


 目の前の空と大地をポリゴン表示した画面はぐらぐら揺れ、地面がどんどん近付いてきて、轟音と共に暗転する。


 また300円がパーになった。


「あーあ、こんな人と同じOBS操縦者だと思うと情けない……」


「うるさいよゲロ被り小卒搾乳好き!」


「次はあたしの番よーん」


「あれ、そう言えば司令は何処に行ったんですか?」


 竜胆少年は、俺達が興じていたフライトシミュレーターの椅子から離れると、辺りを見渡した。


 ここはY空港に隣接する航空博物館の中だ。


 館内にはグライダーから小型飛行機、ヘリコプター、果てはジェット戦闘機まで展示されており、実際に操縦席に座れる物も多い。


 飛行機の歴史や仕組みなどの展示コーナーや、広大な遊具施設もあり、雨天が多いこの地方にとっては、近所の子供達の格好の遊び場となっていた。


 また、ジェット機や戦闘機など、様々なタイプのフライトシミュレーターや管制官体験などもあり、現在それらの技術習得を急務とする俺にとっては、まさに渡りに船というやつだった。


 今までに聞きかじりした補助翼エルロン方向舵ラダー昇降舵エレベーターなどの原理や動かし方が身に染みて理解出来たし、何より面白かった。


 もっとも邪魔が多過ぎて、全然まともに飛ばせないのだが。


「あっ、ベンチの上で昼寝なんかしてますよ、司令」


「長距離運転してきたから、ちょっと疲れてるのよ。休ませてあげなさい」


「でもそろそろ出迎えに行く時間なんですが……あれ、子供達が司令の方に寄ってきましたよ?」


 なんと仰向けに臥称して眠れる司令の元に、いかにも悪ガキっぽい鼻たれ小僧どもが三人ばかり集まって来た。


悪ガキA「あー、こいつこの前テレビに映ってた空飛ぶオヤジじゃね?」


悪ガキB「きっとあれの模型なんだよ。最新型機なんじゃない?」


悪ガキC「さすが航空博物館、こんなマニアックな機体まで展示してあるとは……内部構造が非常に気になりますね」


悪ガキA「でもこいつ裸じゃなくて服着てるよ。なんか生意気だな」


悪ガキB「最近世の中うるさいからだよ、きっと。航空会社も大変なんだね」


悪ガキC「昔の裸体彫刻は服を着せて展示したといいますからね。でもやはり実体にそぐわないのは許せません」


悪ガキA「よし、剥いちまおう! お前達、やっておしまい!」


悪ガキB、C「アラホラサッサー!」


 ビリビリビリビリ!


「ギャーッ! な、なんだ、お前達は! ああ、乳首をつねらないで! おーい、皆、助けてくれーっ!」


 何だか俺達の目の前で突如壮絶なストリップショーが繰り広げられたが、全員他人の振りをして、見なかったことにした。合掌。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ